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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十三】発音をならしとけな


挿絵(By みてみん)

【十三】


 ベテランヒーローを見ると、不思議に思うことがある。

 どうして、ブルマのような、ビキニパンツのような下半身を選びがちなのか。

 答えはきっと、シンプルなものだ。

 肉体美を見せつけるのに、素肌とパンツの組み合わせはパワーがあるんだろう。


 バカバカしいくらいに巨大な大樹が見下ろす夜空の下、

 そんなことを考えたくなるが、空ではなくて周囲を見ると、

 素朴で慎ましい時間が流れていたアトリエが無惨に壊されている。


 巨大な大剣、大盾という重装備の両手。

 ヴァルター・エルロンド。

 ジェーンとエドガーの父。

 戦場を奪った娘を憎悪し、殺そうと妄執する人物。

 

 ビギー先生に娘の抹殺を依頼さえしていた男。


「どうして“先生”なの?」


「だって……あの若さで他国の賞に入選でしょ?

 あまりにも凄いよ……」


「むん! そんなことない!!

 ならお父さんも”先生”と呼ばれるべき」


 ムキになって否定してくれるジェーンの気持ちは本当に嬉しい。

 でも、君……僕の作品を見たことないよね?

 自分の前世と会話をする実娘に、

 痺れを切らした父親が大剣の切っ先を向けた。


「こっちを向けぃ! 愚娘!!

 その首が、肉と骨が原型を留めていられるのは今のうちぞ!」


 彼の実力は、かつて手合わせした僕が知っている。

 膂力、破壊力、どれを取っても超絶的な実力者だが、

 彼女が苦戦することはまずないだろう。

 剛剣使いが相手となれば、パワー・スピード・テクニックの

 いずれも高水準のジェーン・エルロンドの敵ではない。


「……貴方があたしを殺したいのは知っています。

 理由はなんですか? まだ食料革命を憎んでいると?」


 かつて、実の親に殺されようとしたことで、

 心に深い傷を負ったジェーン。

 影が差した悲しみは浮かべずにいられないが、

 かつてほど気が動転してもいない。


「見くびるなよ。

 もはや貴様の所業など、我が刃の塵にするほどでもないわ。

 だって、シオンの奴がすっげええことしてくれたもんなあ!!」


 まただ。ジェーン達にも見られる、共通した変化。

 彼女は気持ちが高ぶると言葉遣いが荒くなる。

 エドガーは号泣をする。

 この男は話し方が子どものようになる。

 ヘルミーネも、エルロンド邸宅が破壊された時は幼児退行していた。


 なんというユニーク極まりない一族だ。


「分け隔てなく上から下まで殺し合う光景を見たらよ!

 オラ、体中の血液がぽっかぽかしたぜ!」


 シオンの最期の暴走のことだ。

 王権も階級も一声で消し、

 長きにわたる歴史は爆破された。

 それにより、全国民による全方位の闘争状態が成立してしまった。


「まだ狂っているのか……家も何もかもなくなったのに」


「なんだお前。多少便利に使ってやったくらいで偉そうに。

 出来損ない風情が父に口を利くんじゃない」


 エドガーを武人として“出来損ない”と切り捨てる。

 そんなのは父であるヴァルター以外にいないだろう。

 病弱な身で生まれただけでなく、

 立派に育ったと思えば、絶えず姉の側につくことに憤慨しているのだろう。


「ああんっ!?」


 エドガーへの辛辣な暴言に、

 姉が眉間に皺を寄せて声を荒げた。

 一対一なら、躊躇いが浮かんでもいたが、

 弟に矛先を向けたことで、

 今にも実の父親を蹴り飛ばしそうな怒りを見せた。


「今言ったことを、撤回しなさい。

 さもないと──!」


「弱くなる一方だな、ジェーン・エルロンド」


 強い嘲りを込めてヴァルターは言う。

 シオンも似たようなことを言っていたが、

 それは彼女に人間性が育まれることを指してだ。

 この男も、そのことを言っているのだろうか。

 娘の人間性に興味を抱くならば、

 形はどうあれ二人の関係も前進したか?


「どういう意味よ」


「教えてやる義理はない。

 ここで息絶えるのだからな」


 そう言うと、ヴァルターの周囲のマナが

 火・風・水・土の元素の色にきらめく。

 彼は四属性の魔術を高水準で扱える凄腕だ。

 時代・環境・境遇が違えば、コスチューム通り”勇者”と呼ばれただろう。


「ちょっと! 待ったー!」


 一触即発の険悪な空気。

 そこに場違いな明るい声。

 フィニーが三人の間に割って入った。


「なんだか知らないけど、親子が仲悪いのはよくないわ!

 家族はみんなで仲良くが一番。

 ていうか、親が言っちゃいけないことを

 さっきから聞かされて気分が悪すぎるよ!!」


 僕と同じ考えのようだ。

 とても嬉しい。

 僕でさえ、ちょっとこれ無理なんじゃないかとなっているところだから、

 なおさらに、ちゃんとした意見は嬉しい。


「あたしのママはゴブリンだし過保護で口うるさいけど、

 ママのためにも空手を頑張らなきゃって毎日──」


 言い終える前に、ヴァルターが大盾でフィニーをどかした。

 軽くどけただけでも、そのパワーは相手を飛ばすに余りある。

 力なく宙を舞ったところを空中でキャッチしたエドガーが、

 優しくフィニーを地面に降ろした。


「ハイエルフの娘か。

 お前に興味はない。のけ」


「貴方様。そろそろ」


 エルロンド家を切り盛りしてきた女性が、

 夫を淡々と促した。

 妻の声で獲物を握り直す。

 それだけで立派な体格が大きくなった気がした。


「うむ。お前は出来損ないの相手をしろ」


「だからそういう言い方は「死ねぇ!」」


 大剣が高速で振るわれる。

 鎌鼬を発しながらの斬撃は、通常の人体なら

 掠っただけで全身が細切れになるに違いない。

 ヴァルターは、勇者のコスチュームに違わず、

 すべての属性を高レベルで使いこなし、

 剣に纏わせて威力を増す攻撃を得意としているようだ。


 そんな攻撃を、

 ジェーンは皮膚の硬さで受け止めようとしたが、

 すんでのところで彼の刃が僕の皮膚を傷つけたのを思い出したのだろう。

 両手で挟み込み、白刃取りをした。


「愛剣に触れるな!」


 大盾で突撃され、ジェーンは

 大きく後ろに跳んで直撃を避けた。

 どれほどの怪力でも、

 弾かれることはないはずなのに。


「大丈夫かい?」


「う、うん」


 戦ったのはまだ一瞬未満。

 それだけで重い疲労が、彼女の全身にのしかかっている。

 実の父が相手というのが大きいのか。


「父上……ヴァルター。

 あなたの…………お、お、お前の狙いは何か言いなさい」


 臨戦態勢を解かずに、

 何度も口ごもっての実の父への問いかけ。

 親を“お前”と呼ぶ。

 僕には絶対に考えられないことだ。


 ジェーンも最初はどれだけ嫌悪を向けられても、

 “父上”と呼び、平気を装っても

 心の中では親からの愛を求めていた。


 それが“お前”と呼ぶようになるのは、

 一概に批判できないくらいに、

 ジェーンが経験したことが痛ましすぎる。


 大剣と大盾を打ち合わせ、

 巨大な金属音を立てて威嚇し、男が答えた。


「家はもはやどうでもいい。

 王への忠誠はもとより失せていた。

 だが、貴様の許婚の花火……あれには心が震えた」


 武門の棟梁として国中に名を轟かせ、

 敵国には恐れをもって記憶されていたエルロンド家への執着はもうないのか。

 ジェーンへの憎しみの原因の大半がそれのはず。


「求めるは家の再興ではなく我が勇名の立ち上げ!

 そのためには大魔王である貴様の首、

 我が真の息子の奪還! 受け皿のボディの用意!

 どれもがジェーン・エルロンドを斬ればぐっと近づくんだぞぉ!!」


 ワンパクな少年の顔でヴァルターは笑った。

 豊かな髭を蓄えた壮年男性のはずが、

 ジェーンやエドガーよりも幼いようにさえ見えた。

 言っていることは、ただの“子殺し”の展望なのに。


「何故、あたしが大魔王!?」


「それはなあ、おめえが先祖代々守ってきた全部を台無しにしたからだぞぉ!

 おめえは、魔界が遣わした宿敵、大魔王に違いねえ!

 真の息子を閉じ込めた血をけえしてもらっからよ!!

 エルロンド家は代々そうやって戦いで欲しいもんを取ってきたんだぁ」


 狂っている。

 シンプルに彼は、気が触れたことによって、

 己の物語を構築し、娘を大敵アークエネミーに据えてしまった。

 事情を深く知っていなければ理解不能な思考だ。


「母上、貴女は……あの人の状態を見ても何も思わないのですか?」


 戦斧は構えているが、背後にフィニーを、

 そしてどう動くかも予想がつかない

 ビギー父娘も置いて、エドガーが尋ねた。

 二人の母親のヘルミーネは、

 樫の杖を手にするだけで行動を起こしていない。


「私は家を支えます。

 家がなくなれば、あの人を支えます」


 その瞳には子ども達への情はない。

 つくづく理解できない夫婦だ。

 貴族として、守らなければならない立場があるのは理解するが、

 それでもここまで自分の子を切り捨てられるものなのか。


「どう見ても父上は根本から歪んでいるようですが」


「それでも動くのであれば、

 彼がエルロンドの代表です」


「しかし……」


「大変だったのですよ?

 こちらに背を向けるばかりの貴方達に、

 自尊心が砕かれるあの人を慰めるのは」


 そう言って蠱惑的な笑みを浮かべるヘルミーネ。

 気持ちのいいはずの夜風が

 ふいに粘り気を帯びた気がした。


「…………もしかして、母上が誘導を?」


 返答の代わりに氷の矢が魔法陣から飛来する。

 斧を握っていない方の手で、

 やって来たものすべてを叩き落とした。


 空手戦では相手のあまりの技量に、役に立たなかったが、

 エドガーは斧を握っていない方の手を

 硬質化させることで防御籠手として活用している。


「ムダですよ。貴女の異名は存じていますが、

 俺は騎士団長。貴女よりも遥かに強い」


「それは私のいない時代でしょう」


 砕かれた氷が強風に巻かれて、

 鋭利な粒の竜巻になった。


 エドガーが左腕で自分を守るよりも、

 顔を下げて背後に攻撃がいかないようにするのを優先する。

 エルフの里に来てからわかったが、

 彼は“誰かの盾になろう”という意志がとても強い。

 それがジェーンへの憧れ、恩への想いから来ているのはわかる。


「エドガー!

 ……どきなさい!」


 大剣と大盾。

 どれも脚で攻撃するのは骨が折れるプレッシャーだ。

 そこで、弟を心配する姉は、

 地面に鼻がつくすれすれまで重心を下げて、

 超低空ダッシュをし、すれ違いざまにヴァルターの足下を掬い上げた。


 用心をして接近を避けたが、

 相手がバランスを崩したなら問題ない。


 横蹴りを大盾に叩き込み、真ん中からひしゃげさせた。

 壊れたアートの残骸を巻き込んでヴァルターが飛んでいく。

 すぐにジェーンはエドガーの、

 正確には弟を攻撃するヘルミーネへと向かう。


「このぉっ!!」


 血の繋がった母親を蹴る。字面だけだと酷いものだが、

 娘に躊躇いは見えない。

 ハイキックによって

 足の甲がヘルミーネの酷薄な頬を打つ。

 打撲音を立てて母親の体が横に数回転する。


 実の両親、リトルファムで名を知らぬ者のいない実力者でも、

 僕の力をどんどんモノにしているジェーンにかかれば、こんなものか。


 とにかく、何事もなかったのなら、問題ない。

 そう心の中で胸を撫で下ろしたら、

 ヘルミーネの杖から歯車の音が奏でられた。


 音色の正体を悟るより先に、敵からの攻撃。

 戦いは終わらず、

 ジェーンの肩から胴へと、

 袈裟斬りが深々と入った。


「……え?」


 信じられないものを見るように、

 胸元から横腹まで裂いた剣を見下ろし、

 それから持ち主のヴァルターの顔を見た。

 至近距離で、娘を斬った父は嬉しそうに笑っていた。


「火炎斬り! 入ったぁ!!

 大魔王はオラが討伐したぞぉ!!」


 刀身に灼熱の炎を纏わせ、

 勇者が呵々大笑した。


 吹き飛んだはずのヴァルターが

 肩と両腕で大剣を押し込み、

 鋼鉄より硬い皮膚に刃を通した。

 辛うじて胴が両断されていないジェーンの顔が驚愕と恐怖に染まった。


「ジェーン!」


「馬鹿な、姉さん!!」


 姉をずっと無敵の存在と仰ぎ見ていた弟には信じがたい光景。

 しかもそれを、両親によって成されたことで、

 エドガーは取り乱し、闇雲に突撃した。

 そこを、土柱がせり出し、足場が打ち上げられて、

 エドガーが転倒した。


 そこに、頬を大きく腫らしたヘルミーネが、

 杖を鋼の硬度にして戦斧に押し付けた。

 顔の形が変わるほどのダメージを受ければ、

 痛みと熱で動きが鈍ってもおかしくないのに、

 あの女には一切の痛みが見えない。


「ダメですよ。

 息子が父の宿願を阻んでは。

 何一つ父の望みを叶えなかった貴方達が、

 ようやく我らの勇名、伝説に組み込まれるのです」


「どけ! 斬り殺すぞ、貴様!!」


 実の母相手とは思えない剣幕で咆哮する。

 僕が見てきた純粋な善性に満ちた青年とは思えない、

 憎悪と怒りに突き動かされた顔だ。


「やってごらんなさい。

 できるものならね」


 頬の腫れがみるみる治り、

 薄ら笑いを浮かべたヘルミーネが囀った。


「ううっ」


 ジェーンが呻いて、血泡を吐く。

 呼吸が短く、浅くなって、

 目の焦点が合わない。

 脚ががくがくと震えている。


 これは非常に危険だ。

 体もだが、心がだ。

 実の父親についに斬られた。

 深手を負った。


 それがヴァルターの実力か、

 ジェーンの彼への想いの強さによるものかはわからない。

 どちらにせよ、今のジェーンは決定的な瞬間を迎えてしまった。


 ──親に、殺されかけた。


 だが、その悲劇とは別に、今、何が起きたも気になる。

 僕が戦った経験と照らし合わせても、

 ヴァルター・エルロンドがこんなに早く戻ってこれるわけがない。

 さっきの大盾が破損した蹴りは、

 持ち主にも大きなダメージを与えていたはずだ。


 異常にタフではあったが、

 全身が複雑骨折すればしばらく動けないくらいの耐久力だった。


「しっかりするんだ、ジェーン!

 無理にでも深呼吸して!

 稲穂の海に立つ自分をイメージするんだ」


「おお、出てきてくれたか息子殿。

 待っていてくれよぉ、

 パピィが今すぐ出してあげるからなあぁ」


「僕は息子じゃない!

 貴方より遥かに歳上だ!!」


「ままま、そこはこれからだからよぉ。

 じっくりコトコト息子にしてやっから、今から“パピィ”の発音をならしとけな。

 話し方に少し訛りがある。下賤な者、特有のだ」


「ふざけるな!!」


「ふざけてねえよぉ。

 そのパワー抱えてて、オラの息子じゃねえなんてあるわけねえもんな。

 息子になったら、オメェ、パピィにメロメロになって可愛いぞぉ。きっとな」


 何度も言うが……狂っている。

 まさか“力が強い”だけで家族認定される日が、

 僕の死後にあるとは予想だにしなかった。

 それも転生先の少女の父親に、一方的に息子と認定された。


 家族とは血の繋がりだけではない。

 時間、体験の共有、感情の交流、導き、

 さまざまな要因が絡み合い、積み上がっていくものだ。


 それが、この男は実の娘、そして息子よりも、

 ただ身体能力が高いというだけの理由で、

 僕こそを真の息子と認定してきた。


「ねえ、ビギー。あなた、とっても強いでしょ!

 どうにかして助けてくれない!?

 あの人、あたしのお友だちなの!」


 フィニーがビギーに縋り付いて懇願する。

 そうされても、

 先ほどまで浮世離れした振る舞いを見せていた最強は、

 戸惑うようにして自分の父を見やっている。


 仮面をつけた男性は、

 土下座をしたところから一歩も動かずに、

 事態を傍観するばかり。


「動くな。頼むから動いてくれるな。

 じっと息を潜めて嵐が過ぎるのを待て」


 ビギーの父がそう言っては、

 地に足が縫い付けられたかの如く、

 微動だにしない。


「どうしてよ! あれはもう恩があるとか事情があるとかじゃないわ!

 あのおじさん、おばさんとは初対面だけど、

 言ってること全部が全部、最低のゲスよ!?

 縁切った方がいいって、絶対に!!」


 そう言って背伸びしてビギーの肩を揺さぶる。


「でも……でも……」


 どんな事情があるのか。

 弱々しく、父の反応だけを待って、

 ビギーは長く細いブロンドを横に振る。


 僕の見立てなら、ビギーの助けがあれば

 ヴァルターもヘルミーネも倒せるだろう。

 どれだけ底知れない実力があっても、

 ビギーの実力はそれらを圧倒してやまない。


「お願い! あなただってその……

 あの人らがいる国の芸術祭に参加しようとしてるんでしょ!?

 なら助けた方がきっとお得だよ!」


「でも……あの人は、父がお世話になっているって……」


「今のを見たらどう考えても悪い人だよ!!

 何なのその自分の無さ!! 最低よ!!」


 フィニーが憤慨のあまり暴言を吐いてしまう。

 それでも、言われた方は全身を大きく震わせ、

 ただ困惑と躊躇をしているのみ。


 流石に言いすぎだと、フィニーに注意したいが、

 眼の前の狂人がそうさせてくれない。

 舌なめずりを何度もして、僕を凝視しているから。


「エドガー。あの出来損ないも、

 おめえの器になるために鍛えたと考えたらな。

 その時こそ初めて孝行息子になると思えばな。

 ジェーン抹殺命令を無視してきた裏切りも許せるってもんだぁ」


「反吐が出るな」


 駄目だ、我慢できなかった。フィニーを注意できなくなった。


 あまりの醜悪さに、

 不快感と嫌悪感を露わにして、吐き捨ててしまった。

 ジェーンとエドガーを見てきたからこそ、

 この男の振る舞いが不愉快でならない。


「ふざけないで……!」


 今にも倒れそうなジェーンの言葉に力が戻った。


 実の父の大剣を掴み、

 必死の形相で体から抜く。

 血を急激に喪い、紫色になった唇。


 高速治癒は進行しているが、奇妙なほどに進みが遅い。

 何らかの力が干渉しているのか、

 もしくはまだ、父親への思い入れがあるのか。


 想いを捨てられないのは当然の話だが、

 この状態ともなれば彼女の致命傷、

 その先の最悪の結果に繋がりかねない。


 僕の危惧を全部吹き飛ばして、

 ジェーンはどんどん力強くなって続ける。


「スゲーマンは、あたしのお父さんで、

 エドガーは、あたしの弟なんだから……!」


 右足を後ろに、左足を前に、

 足の踏ん張り、腰の回転、背筋の動き、

 すべてが噛み合った、技術による右ストレートが、

 ヴァルター・エルロンドの鼻を砕いた。


「お前にあげる家族は一人もいないわ!

 舐めんなよ、クソがあぁぁぁ!!」


 白い炎を吐き出し、

 拳を握りしめたジェーンの髪が金色に燃える。

 漆黒に輝く双眸が夜でも存在を主張している。

 炎、太陽。シオンが拘ったジェーン・エルロンドの像だ。


 だが、これ程に正しく力強い姿は見ていないだろう。

 守られる側の僕とエドガーが、

 その炎に包まれ、灼ける錯覚がするほどのパワー。


 上半身を横断しかけた、

 無惨極まりない傷がたちまちに癒えていく。

 激情が、白熱したエネルギーとなって全身を駆け巡っている。


「綺麗……」


 不定形で力強いジェーンの炎が戦場を浄化するように

 純白に燃え上がる様に、

 ビギーは見惚れて、呟いた。



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