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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十五】親バカじゃなくて


【十五】


人間の寿命、生きる速度では、

自然は雄大なものであり、

こちらが何の変化をしても、自然は変わらず、そこにある。

故に、人間は成長と進化を尊ぶ。


反対に、エルフの長命にとって、

世界や自然は止まっているものだ。

こちらに何の変化も起きないのに、

大自然は目まぐるしく変化し、

暑いと思えば寒くなり、

川の流れの量もいかようにも変化する。


エルフは不動と不変を尊ぶ。


「終わった」


暗闇の奥で、標的が目を見開いたまま事切れている。

彼女は死体を見るのが好きだった。


それは決して残酷趣味に由来するものではない。

話さない、動かない、何もしない、痛いこともしてこない。

これから腐って土に還るだけの物体。

その停止性と完全性が好ましかった。


父に骨の髄まで焼きつけられた技で、

これをやったというのは、 幼い少女を無邪気に誇らしくさせた。


空手のことには厳しい父も、自分が標的を死なせたのを知ると、

優しく褒めてくれた。

この時、ビギーはとっくに父親を超えていたが、

それでも父は父だった。


今日の標的は何だったか。

たしか、エルロンド家の公爵……

その娘を支援している商人らしい。

オブライエン商会の何者かということだ。


大柄な体格で手早く業務と取引の指示を出していた男が、

今は時が止まって、停止している。


死体は素晴らしい。

怒らない、殴らない、刺さない、焼かない。

修行で味わう苦痛を一切与えてこない。

物も言わない骸との二人きりの時間。

実にエルフ的で、素敵だと彼女は思った。


もう用もないので、 その場を後にすることにした。


オブライエン商会の館は、

ゴム材木の輸入によって 一代で財を成した者のものだ。

標的は防音に拘った仕事部屋にいたが、

部屋を出るとそうではない。


花火の音がして、廊下へカラフルな光が投げかけられる。

子供のビギーには、それがジェーン・エルロンドの聖女就任祭だとはわからない。


ただ、窓の向こうでは

色々な服装の人たちが

踊り、笑い、 派手な服装を着て笑い狂っていた。


エルフの文化では絶対に見られない景色だった。


任務が終わって里に帰った。

その時の内心に起きた変化を、誰にも話さなかった。


することがない時は、

隅々までわかった近所を歩いていた。

近所と言っても、里の端から端までを無心で歩くというものだ。


エルフの里《惑星・不動拳》では、

彼女が見聞きした物を尋ねる者はいなかった。

彼女はとっくに里の最強であり、

おいそれと声をかけるのを誰もがためらった。


ただ、最弱の空手家と嘲られ、

差別の対象であるフィニーという少女は、

たまに話しかけてくることがあった。


「こんにちは、何処に行ってたの?

 あなた達はよく外に遊びに行ってるから羨ましいな」


特に返事をすることもないので

無視して通り過ぎる。

すると、フィニーはいつもプンスカ怒った。


「感じが悪ーい!  絶対、友だちになれないタイプ!」


ハイエルフは見た目より遥かに長い年月を生きる。

だから彼女も、自分よりだいぶ歳上のはずだが、

子どもみたいに怒る彼女が不思議だった。


後半は酷いことを言われた気がするが、

そもそも相手は歳上過ぎるので、

友達も何もなかった。


フィニーというハイエルフは何十年も白帯のままで、

何をしても上手くならず、

いつも子どもみたいに振る舞っている人だった。


「帰ったか」


散歩から家に帰ると、父が食事の準備をしていた。


ビギーは、他の家の子供と違って、

家事の一切をしたことがなかった。


厳しい修行の代わりに、父は何でもしてくれた。

それと毎日好きなものを食べさせてもらえた。

それがどういったことを意味するのかは、

ビギーは他の家を知らなかった。


栄養バランスは、

父が里の外から仕入れている

ポーションと薬草で完璧にしていた。


「今日はハンバーグとチーズケーキだ」


「わかった」


部屋の隅に座り、

料理ができあがるまでの暇つぶしをする。


この家には、里の中で唯一、 現在の外の世界のものがあった。

エルロンド家と交流をし、

向こうの魔術の知識や資料を取り寄せている。


しかし、それではあそこの祭りを見て感じたものがなかった。

だから、気を操る訓練のために

たまにやっていたマナ習字をやってみた。


瞼の裏にある、祭りの賑やかさと色合い、

音を作品に籠めてみた。


「ほぉ。上手いじゃないか」


いつもの物とは違う、 自分の見たもの、

触れたものと、 それへの感情を表現しようと作ったものだ。


父が料理を持って後ろから覗いてきた。

怒られるかと思ったのと、

恥ずかしいという気持ちがあって、

とっさに隠そうとしてしまった。


「ここで食べる? テーブルにつく?」


「テーブル」


気恥ずかしさから、

もっと自分の作品を見ていたかったのに

反対の言葉が出た。


同じ席についてテーブルにつき、

ご飯を食べる。 父の料理はいつも美味しい。


修行は苦しくて痛くて不愉快だったが、

父があの手この手でビギーの望むものを

できるだけ叶えてくれるから、

反抗期やイヤイヤ期は無縁だった。


「マナ習字に興味があるのか?」


ハンバーグの肉汁にパンをつけて食べているところで聞かれ、

慌てて咀嚼して飲み込んだ。


「べつにそういうわけじゃない」


「いいじゃないか。やってみるといい」


「でも暗殺の仕事が……」


「それなんだけどね」


食べやすいように一口サイズにハンバーグを切ってくれつつ、

父が少しだけ言いにくそうにしている。


「エルロンド家の技術と知識提供でうちの空手はさらなる成長を遂げたが、  

 あの国は大きな変化を迎えている最中らしい。  

 食料革命で軍隊が必要なくなって、あそこの権力も下がるようだ。  

 これから仕事の数が減っていくと思う」


難しい話はわからないが、

最後の方だけはわかった。

そう言われても、こちらとしては困ってしまう。


だって、子供の頃からこれしかやっていないのだし。

やることがなくなってしまう。

そうなると、父は美味しいものを作ってくれなくなるかもしれない。


「だから、やりたいことをやってもいいんじゃないかな。

 もちろん鍛錬は続けてもらうけれども、一日中仕事でもないのだし」


食事が終わり、皿の洗い物をすると言おうかと迷う。

洗い物をしたことがない。 どうやればいいのかもわからない。

だが、子どもなりの打算で、少しでも親のポイントを稼ぎたかった。


「あのっ、お皿──」


「ああ、重ねといて」


こちらの気持ちはよそに、

食事中でも仮面を外さない父は、

出来立ての作品を写真に撮り、

どこかへと送信した。


「やあ、もしもし。久しぶり。  

 俺だけど、今、娘が作ったのを送信したけど見てもらえた?  

 うん。それそれ。あいつがこういう感情を籠めたの、初めてでさ。

 親としては良い感じだと思うんだけど」


まあ、親の贔屓目だけどね、

と会話をするのが聞こえ、

何が起きているのかもわからず、

ビギーは椅子の上で脚をぱたぱた動かした。


そわそわし、なんだか落ち着かない気分になる。


「そうだろう? 自慢じゃないけど、

 娘は空手以外の才能もあるんだよ。

 これは親バカじゃなくて、本気で言ってる。

 この才能も親として伸ばしてあげたいんだ」


会話が終わりになるほど、 声が大きくなって

身振り手振りが大きくなっていく。

話が終わると、足音を大きく立てて

父が家の中なのに小走りで跳ねるように来た。


「知り合いとお前の作品について、話をしてみたんだけどね。

 新鮮な感性だって褒めてたよ。

 べアリタ帝国の資料とか道具とか送ってくれるって」


「いいの!?」


普段はシンプルな竹杖しか使っていないところに、

世界最高峰の道具を貰えることに驚いた。

なによりも、生まれてからずっと自分を

苦しめて鍛えてきた人がこんなに熱心にサポートしてくれると思っていなかった。


「うん。それに、これからは暗殺仕事は父さんがやろうと思うんだ」


「どうして?」


「自覚してないだろうけどね。  

 悲しいことに、お前は世界最強なんだ。

 最低でも、仕事で行くリトルファムとこの里では、そうだ。

 切磋琢磨できる対象がいないから、

 暗殺業務程度ではお前の美しい技を鈍らせて穢してしまう」


「そうは思わないけど」


「おとなになったらわかるかもしれないね。

 だから、お前には弱い相手と戦って、変なクセをつけてほしくない。

 弱い相手にはそれ用の自己縛りをするのも選択肢にあるけど、

 お前にはその適性はないかなあ」


よくわからない理屈だけれども、

とりあえずは暗殺の仕事をしても、

先祖代々の技の向上には役に立たないということらしい。


「それよりもね。お前には“自己表現”を学んでほしい。  

 私も父、お前にとっての祖父から技を習って、お前に伝えた。  

 いつかはお前も自分の子供……または養子に

 自分の空手を教える時が来るからね」


遠い未来の話をされてもよくわからない。

しかし、父が何を求めているかはわかった。

芸術を通して、自分のことを表現できるようになってほしいのだ。

そうわかったので、彼女はできるだけの笑顔を浮かべた。


「ありがとう、お父さん」


親子の同意によって、

彼女は暗殺家業からは身を引いた。

そして、毎日を鍛錬と芸術活動に捧げた。


芸術がわからない彼なりに、

帝国で流通している芸術誌や画集を取り寄せてもくれた。

徐々にだが、依頼から帰ってきた家族を迎えるための、

軽食は作れるようになっていた。


時が経ち、エルロンド家からの依頼がぱったりと来なくなった。

交流も途絶え、父も家にいてくれる日が多くなった。


「これからどうやって食べていこうか」


そう言って思案に耽っていることは増えてきているが、

かといって暗殺に戻れとは言わなかった。

それは問題ないが、リトルファムとの交流がなくなったことで、

魔術の情報をもらえなくなってきたのが難点だった。


「やったぞ! 

 お前の作品を見た書道家が  弟子に取りたいとのことだ!」


ついに、ベアリタ帝国に本格的に芸術を学べる日が来そうだった。

感情を表すことが苦手なビギーの代わりに、

父は仮面を外してまで泣いて喜んだ。

初めて見た素顔は、傷だらけで、両目も眼窩から消えた空洞だった。


凄惨なほどに厳しい修行に晒された幼少時代。

それを思えば、家族を恨んだことがないとは言わないが、

ビギーにとっては、 おおむね誇れる愛する父だった。


その父が、地面に頭を擦りつけたのは、

長らく顔を見せなかったエルロンド家の公爵が、

二人の家に訪れた時だった。


口ひげが立派な豪快そのものの男性が、

ぼんやりと柱の影から様子を覗くビギーを顎で指す。


「久しいな。その最高傑作を使い、我が娘を殺せ」


高圧的で、有無を言わせないプレッシャーだ。

かなり強い人ではあるが、

それ以上に、人に命令するのに慣れている男だった。


「わ、私ではダメですか?」


「ならん。お前は従順で便利ではあったが、  

 実力においては、今回の標的に到底及ばん」


父はよく言っていた。

今の我が家系があるのは、エルロンド家のおかげだと。


空手の進化に行き詰まっていたところに、

エルロンド家が働きかけてくれ、技術、知識、予算で惜しみない援助をしてくれた。

ビギーが毎日ハンバーグやステーキ、ケーキ、アイスを食べられるのは、

エルロンド家が代々お金をくれたからだそうだ。


「ですが……娘は留学を控えていて。

 万が一のことがあっては……」


だから、父はエルロンド家とはずっと仲良くしなければと言っていた。

逆らえば、露頭に迷うし、

報復で何をされるかもわからない、と。


「恩に背くのではあるまいな?

 我らと貴君の家系代々の絆を、

 一子相伝を謳っておきながら踏みにじると?」


十七歳になった書道家の卵は、

殺しから離れて長く、

また仕事をやれと言われても、酷く気乗りしなかった。

できれば、父が同じようにやってほしかった。


今となっては、

好んでいた死の静寂と不変は、

マナ書道においては、逆に邪魔になるように思えた。


ずっと優しく、こちらを応援してくれていた父だったが、

代々の“空手”の重みに屈してしまった。



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