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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十六】ンフフフ

【十六】


 めでたく、エルフの里《惑星・不動拳》に滞在する懸念がおおむね消えた。

 住人の不満、実父と実母の殺意が、一度に消えた。

 とてもラッキーだった。


 これからじっくりと、

 刑務所改めてプライマリー学院の看守を探すことができる。

 あ、看守って言っちゃった……。

 けれども看守って、他になんと呼べばいいんだ。


「用務員……?」


 堂々と里の中を歩く。

 通貨は両替してもらい、

 高層ショッピングセンターの一階に出店している屋台で、

 散歩がてらに朝食を購入した。


「なにそれ?」


 初めてのタピオカ体験。

 集中して吸っているジェーンが首を傾げた。

 何と言われると……用務員の仕事ってなんだろう。

 電灯を交換したり、クーラーを点検したり、

 学校内を見回ったり、色々なことをする役職の人だ。


 たぶん、教師の人と違って、外部から雇われた人が多いんじゃないかな。

 そういえば学校にあんなに通っていたのに、用務員さんがどうやって雇われるかも知らないのか。

 振り返ると、知らないことばかりだ。

 どれだけ生きても、年月の長さだけでは知識を満たし切るのは不可能なんだろう。


 解説を聞いたジェーンは、顎に手をやって考え込んだ。


「ふーん。用務員。いいわね、それ。じゃあ用務員になる人を探しましょう!

 学院の設備を管理して、犯罪者が脱走しないように目を光らせるの!」


 つまり、だいたい看守になってしまった。


「用務員って便利な言葉ね!」


「いや大事で立派な仕事だから“便利な言葉”で済むことじゃないよ!」


 でも、看守以外の呼称は大切だ。

 特に、学院が刑務所ではないと外にアピールするためには。


 朝早くから、さっそくエルフは空手に出勤している。

 耳を澄ませば、朝礼代わりの逆突き五十回の声が聞こえてくる。

 実に風流な朝だった。色々と吹っ切れたジェーンも、

 耳を澄まして嫌そうな顔で呻いた。


「なんで朝からこんなムサッ苦しい圧を感じないといけないの……」


「いいじゃない。どこかに飛び入りで混ぜてもらったら?」


 昨日、空手に敗北したことで屈辱を覚え、

 運動・エキササイズに躊躇いを覚えるようになった原因の父親とのことを乗り越えた。

 そんな彼女なら、朝に体を動かしていい気分になるために、

 早朝稽古に快く混ざると思った。


「やだ。面倒くさい」


「じゃあ僕と相撲やる?」


「えー」


 タピオカを勢いよく吸って、ジェーンは渋った。

 一息でたんまりあった残りを飲み干し切った。

 僕の力をタピオカ一気飲みにも活用したのだ。

 喉に無数のモチモチが勢いよく叩きつけられたに違いない。


「どうしよっかなあ。面倒くさいなあ」


「でもやろうよ。僕となら楽しいんじゃない?」


「うーーーーん」


 もごもごと口を動かし、

 その場で両足をすり合わせた。

 口ほどには嫌そうには見えないけど……

 でも口では嫌がっているから嫌なのかな?


 僕から目線を外そうともしているし。

 飲み終わったタピオカをすぐにゴミ箱に捨てて手持ち無沙汰にしていても、

 父と体を動かすのを嫌がっているし……。


「あと一息押すところだと思います」


 疾風が走って、ぴょんと僕の耳元に囁きかけた虹色の鱗粉。

 ベスが僕にだけわかる速度で教えてくれた。

 なんて気が利くんだ。

 流石はスピードスター、この世の希望の担い手だ。

 洞察力、それを僕に教えてくれる優しさ。

 どれもが超一級品だ。


「よぉし、じゃあなんとしても僕と体を動かしてもらうよ!

 嫌なら嫌って言ってね」


「じゃあ絶対に嫌」


 ……なんで? さっきまではやってもよさそうだったのに。


「スゲーマン様! それはマズいですよ!!

 誰かに言われてやった感が最終盤に出てました!

 そいつをやったら単純なくせして捻くれてもいる姉には地雷です!」


 首にタオルを巻き付け、タンクトップと短パンの

 朝のエクササイズにありふれた出で立ちでエドガーが駆けてくる。

 隣にはクマリオンもいた。


「ハァ……ちょっと疲れた……

 水ないとムリだ……蜂蜜を水で薄めたものがほしい」


 膝に両手をついて小さな体を丸めてエネルギーを取り込む子熊の隣で、

 エドガーが元気いっぱいに斧を持ったと想定した演舞をしている。


 二人とも、何処かの会社から出てきた。

 恐らくはさっきまで

 早朝の空手稽古に参加していたのだろう。


 昨日の戦いは疲労として重いはずなのに、タフな人らだ。

 それは、雰囲気においても同じだ。

 前日に空手対決に完敗し、両親に殺されかけたとは思えないスポーティなまなざし。

 そのまなざしを感じたエルフは、一様にエドガーに心を奪われて見惚れた。

 隣のクマリオンも格好は同じだが、まだ子どもだ。

 朝からの運動は少し疲れているのだろう。


「姉には“じゃあ僕、他の子と遊ぼうかな”とか言った方が──」


「言わなくていいわ!」


 弟の口を手で押さえて怒鳴った。

 ジェーンは怒っているけれども、

 おかげで納得したぞ。


 僕だけじゃなくてジェーンもベスの忠告を聴いていたんだ。

 それは当然か。僕は彼女のマントだ。

 いくら高速でも、マントにだけ聴き取れる音を出すのは至難を極める。


 とにかく、僕があと一押しすれば良かったのが、

 ベスに言われてやったように取られて臍を曲げたんだ。

 なるほどなるほど。これは次に活かせる失敗だな。


「まあいいか。よし、相撲だ。

 はっけよーーーーい、のこった!」


「とうっ!」


 さっそくに人間の形になった僕が

 ジェーンと向かい合って四股を踏んで、激突。


 隣ではエドガーとクマリオンが取り組みをしていた。


 ジェーンと以前に相撲を取った時は、僕はあっさり負けてしまっていた。

 家庭横綱では天才の学習速度には勝てなかった。

 だが、今は? 姿勢を低くし、

 両太ももの踏ん張りを意識してぶつかり合う。

 互角。互角だ!


 僕だってなにもジェーンの脳内やマントでぼーっとしていたわけではない。

 彼女の戦い方をつぶさに観察して、

 その戦闘センスの一端でも取り入れようと考えていたからだ。


 彼女のよくやる低姿勢と、相手の呼吸をずらす動き。

 その二つの再現を意識してみたら、

 がっつりハマってくれた。


「ふふっ、やるじゃない!」


「ぐおおおおおおおおおおおっ!!

 みんなああああああ!!! 僕はやるからねえええ!!!」


「前もそう言って何回負けたかな~!」


 僕は勝とうと頑張っているのに、

 ジェーンは勝ち負け以外のことで楽しそうにしている。

 取り組みそのものを楽しんでくれている。

 それはとても嬉しい。しかし、勝つと僕がもっと嬉しい。


 秋田のみんな。僕に力と勇気と知恵をくれ。


 両親、親友、妻、転生先の娘、これまでの友人たち。

 すべての顔が脳裏にポップして縦長のアイコンになって流れていく。

 周りに言うと不思議がられるんだけど、

 僕の想像する他人の顔って大抵は首とかなくて本当に顔だけで、

 表情は険しいか真顔なんだよね。

 ちょっとしたクセってやつかな?


「見ろよ、クマリオンくん。

 あれが超師匠の師匠たるゆえんだ。

 底知れぬ優しさと大いなる力を適切に使うところだけじゃない」


 すでにぶつかり合いが終わったエドガーとクマリオン。

 子どもとは言えど熊、しかし熊と言えども子どもだ。

 騎士団長を務めた程のマッチョには分が悪かった。


 腕力で熊を持ち上げ、

 高い高いをし、肩車に移って僕らの戦いを見物している。

 手に汗を握って、僕に対して心からの敬意を浮かべているのが、

 赤くなった顔から伝わってきた。 


「同じ条件なら絶対に天才に負けるのに、どれだけ負けても挑む心意気を維持している」


「なるほど……あれがストリーマーが警戒したところか」


 とにかく、僕は全力でジェーンの腰を掴み、

 持ち上げようとした。


「あ、アハハ!」


 ジェーンの声から笑い声が漏れたが、

 それどころじゃない。僕は真剣だ。


「どっせえい!」


 気合を入れ、僕は見事に相手を土俵から投げ飛ばした。

 空中でくるりと回り、音もなく着地したジェーンだが、勝ちは勝ちだ。

 喝采は相撲レスラー精神としてはうっかり騒いでしまったが、

 今回は厳粛に取り組みが終わるまでの一通りの儀式をテレビの受け売りで再現した。


「凄いわ! 前とは見違えたわね!!」


 僕の大勝利にジェーンも両手を叩いて喜んでくれた。

 誇らしい気持ちで、僕は精神的に疲れ切ってへたり込む。

 あとは今の若者に任せよう。


「あら、エドガーとやらないの?

 でもあたしもべつにやりたいわけじゃ……

 まあせっかくだし、やってみましょうか」


「本気ですか?」


「パワーは抑えるわよ」


「そうじゃなくて……スゲーマン様とだけやりたいんだとばかり」


「変なこと言ってんじゃないの。

 ほら、お姉さんにガツンと来なさい」


 様になった動きで四股を踏み、

 エドガーと正面からぶつかり合う。

 ついさっきまで何処かの空手早朝稽古に混ざっていた疲れもあるだろうが、

 それでもあまりにあっけない形でエルフ好みのマッスルボディが宙を舞った。

 それはまるで、カブトムシ同士の相撲での勝敗の分かれ方に似ていた。


「クソッ、おかしいな……完全に力で捉えたのに」


 シンプルな力勝負での勝ちに見えた。

 しかし、どてんと背中から落ちたエドガーは、

 首を傾げて負けた原因を分析した。

 僕が見抜けない力の流れだった。


 これは僕にもわかった。

 勝ちを譲られたのだ。

 その上で楽しそうに取り組みを終えている。

 よくわからない心の流れだけれど、

 素直に良かったと思えた。


「アッハッハッハ!

 まだまだねえ、騎士団長なのに」


「ちぇっ。これだから天才の姉は困るんですよ。

 次は勝ちますからね」


「まあ期待しないで待ってるわ」


 手をヒラヒラして愉快そうにお腹を抱えて笑う。

 これまでの彼女から、

 大きく一皮むけたのは、誰の目にもわかった。

 端的に言えば、“丸くなった”のだ。


 前はイヤイヤやって、勝ち負けも気にしなかったが、

 今は同じ勝ち負けの頓着のなさでも、

 試合と場を楽しめている。


「ていうか、さっきからうろちょろしてるベス達はなにをしてるの?」


「散歩していました」


「ここ、凄く空気が良いよ!

 色んなマッチョを見れて、ぼく、すっごく勉強になった」


「あらよかったわねえ。

 ちょっと、今日はおつかいをお願いしていい?

 クマリオンも連れていけばまた戻ってこられると思うから」


「スピードスターの速度で動くと酔っちまうぜ……」


 シスマでさえジェーンの高速移動に付き合うと、

 三半規管がシェイクされてその場で嘔吐していた。


「大丈夫よ。あたしがいい手を思いついたから。

 とにかくお願いね」


 そう言って紙を握らせ、ベス達に頼み事をした。

 ジェーンが大きな魔女帽子を頭から持ち上げ、

 クマリオンを頭頂部にうつ伏せで乗せた。

 そこにスライムのニュルに子熊と少女を結ぶ紐になってもらった。


 たしかに、これなら連れて行ってもらう人もスピードスターと同じ目線、同じ高さになる。

 これなら酔わないかもしれない。


「これは快適だぜ、姐さん」


 本心か皮肉かわからないが、鼻をヒクヒクさせてクマリオンがされるがままになった。


「じゃあ行ってきます」


 虹色の鱗粉を一つの長い尾のように残して、

 三人はそのまま、閃光になって消えた。

 昨日、空手の試合で大活躍したばかりのベスだ。

 “虹色の速さ”が過ぎ去ったのを知ったエルフの人々がどよめいた。


「通信機器を持っていましたよね?」


「盗聴されるかもしれないから、大事なことを話す時には使わないようにって」


「誰にですか?」


 誰も聞き耳を立てていないかを意識し、

 声を落として呟くように言った。


「エルフに。本当は魔術をまだ使ってるかもだし」


「こんなに空手一色なのにですか?」


「魔術は便利よ。そうそうキッパリ捨てられると思えないわ」


 僕の時代には魔術はメインの文明ではなかった。

 けれども、エルフはたしかにそうだった。

 完全に使わなくなれるかと言うと、難しいかもしれない。


「そうじゃなくても、科学の方で使っているとか。

 少なくとも、こんな凄いところを維持するのに空手は役に立たないわ」


「そうでしょうか。空手は無限大なのかも」


「脳みそが筋肉な意見は役に立たないわ。

 とにかく、シスマにヘルミーネの能力について訊いてもらわないと」


「また戦うことになると思いますか?」


 昨日、二人を思いっきり蹴り飛ばして殴り飛ばし、

 忘れずに拘束をしてエルフの空手警察に突き出した。

 外国人同士の争いにエルフが口を出すことはない。

 しかし、ビギーの家が上下に横一文字に両断され、

 さらにはその上部分は戦闘の余波で消えた。


 これなら傍観者気質のエルフも動くだろう。

 どうなるかは、主に夫婦と関係が深かったビギー父がどれだけ正直に話してくれるかだ。

 見たところ、従順にお話をしてくれるように見えた。


「あたしの直感だけど、あいつらは殺しても蘇ってくるタイプよ!

 子ども達にあんな豚の骨をヘドロで出汁とったようなねっちょり系こってりに近づけさせられないし」


 再戦の可能性への覚悟を決めているのだろう。

 もちろん、そんなことにはならないのが何よりだ。

 だが、僕もああいうタイプはしつこいという意見で見解が一致している。


 よく“ヴィランを殺せばいい”という声もあるが、

 まずそんなことをしても僕にその権限はないし、

 罪を犯した人間こそ、たとえ死刑でも司法の手順を踏ませないと

 被害者遺族も司法も踏みにじることになってしまう。


 そして、ヴィランは死んでも蘇ってくることがある。

 ヘルミーネに至ってはまさに“時間を巻き戻す”能力を使うヴィランだ。

 彼女はすでに自分らが死んだ時のための対策をしている可能性が高い。

 おまけに、それが時間の遡行を含むなら、僕らが気づかないままに、

 向こうだけ戦いの経験と情報を持ち帰りかねない。


「またあの気が触れた顔と声とつきあわないといけないんですか……?」


「しかたないわ!

 なんとかクレオに完全収容の方法を考えてもらうから、

 何とかなるようにしかならないって」


 それがいいだろう。

 “司法の名の下で死刑判決を受けて亡くなったヴィランと、

 病死をしたヴィランは復活しない傾向がある”と、

 ストリーマーは過去にデータを取っていた。

 理由はわからないが、それを使えるなら使うに越したことはない。


「はぁ……なんか姉さんも超師匠に似てきてますね」


「ん!? ンフフフ。そんな意地悪なこと言われても困るわねえ」


 鼻の穴を限界まで震わせ、

 フゴッフゴッという笑い声が混じった。

 そんなやり取りをしていると、

 向こうから出会ったばかりの二人が来た。

 ビギーとフィニーだった。


「おはよう! 今日はいい天気ね」


 両手でぶんぶんと手を振っているフィニーの後ろで、

 小柄な少女の影から出ないように見を縮こまらせたビギーがいた。

 正確には体の少しも隠れていないが、

 とりあえずは少女の活力の下にいれば安心できるようだ。


 父親が空手警察署の取り調べを受けているせいで、

 里最強の空手家のビギーは、一人で行動しないといけなくなった。

 ジェーンを暗殺する必要は消えたから、

 もう何も危険はないと考えて、ジェーンも特に何も追求せずに昨晩は終わった。

 

「おはよう。貴女達は、あの後は大丈夫だった?」


「この子が行くところがないって言ってるから、

 うちにいてもらうことにしたわ!

 お客さんが泊まってくれて初めて気づいたの。二階がほしいわ!」


「ごめんなさい……」


「いいのよ、気にしなくて!

 あたし、エルフとしてはお姉さんだから」


「あらそうなの?」


「エルフは長生きと聞きますが、実物を見ると驚きですねえ」


 具体的に何歳なのか、聞いていいものか。

 あまり女の子の年齢を訊いたことがなかった。


「この子は十七歳で、あたしは六十一歳なの!」


「「うおっ」」


 予想よりリアリティのある年齢に、

 姉と弟が同じ動きでのけぞった。




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