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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
第五章 スーパーサッカーVS密室殺人事件

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【十】-2 せめてワールドカップで優勝してから


 聞いたことがある。

 とりあえず、サッカーのワンオンワンは

 ボールよりも身体を止めるつもりでやれと。

 その記憶にしたがって、ボールを蹴り出した相手に……


「ぐあああっ!!」


 人影が無数に横振動したと思ったら、

 僕の体がひとりでに勢いよく横転し、首から着地した。

 危なかった。

 またしても重症を負うところだった。


 いったい何が起きたのか。

 恐らくはフェイントを喰らったのだ。

 優れた球技アスリートはボールを守るために、

 全身を使ってフェイントを仕掛ける。


 肩の先端、目線、ステップ、息遣い。

 それら全てを駆使して繰り出されるフェイントは、

 頭では反応できずとも、体が勝手に反応し、

 あらぬ動きをしてしまう。


 とっさに相手を掴もうと伸ばした手は、空を掻いた。

 あまりの速さに、

 相手が誰なのかすら判別できない。

 このままでは逃げられてしまう。


「話に聞いていた以上にとんまな顔つきだ」


 炎のついたサッカーボールが

 街の灯りも届かない路地裏で怪しく光った。

 てっきり、今、通り過ぎたアスリートは

 攻撃の的にされて逃げているのだと思った。


 だが違う。

 火のサッカーボールの反対側では、

 別の選手が真空に包まれたボールをこちらへ向けている。


 いつの間にか、

 別方向へ散った二人もロータスとアレンを振り切り、

 路地の建物を回り込んで、

 僕を三方から囲んでいた。


「しかたない。あの御方のご命令だ」


 水流に泥濘を混ぜた粘土質の奔流を伸ばし、

 その先端にサッカーボールを載せた者が言った。

 さっき、僕にフェイントを仕掛けたアスリートだ。


「君達は……!?

 トッティーロの手の者か」


 そういえば、親善試合のこちら側のチームに、

 水・風・火をそれぞれ操ってボールを蹴る選手達がいた。

 トッティーロの高弟とのことだったが、

 いったい、何者か。


「我らはトッティーロ様の気高き理想に共鳴した三球。

 名をフラットスリー」


 アレンとジョナサンから逃げ切り、

 僕をピンポイントに狙うとは。


「君達……何故、僕を?

 いや、それはいい。

 君達のリーダーは何が狙いだ。

 ショーシ王子と殺人現場に何をするつもりだ」


「全てはサッカーだ。

 これは未来へのロングパスさ」


「具体的なことを言うんだ!

 そんなことを言われてもわからない!」


 悪寒が背筋を走った。

 迷わず、背中を向けて全力で走る。

 その後ろを、真空を纏ったシュートが飛んだ。


 周囲の空気を奪う効果を持った蹴球。

 直撃だけでなく、付近にいただけで酸欠になっただろう。

 恐るべき技術だ。


「どんくさいと思ったら、やるじゃねえか」


 本能的な動きだった。

 僕の運動神経とかではない。

 長年の戦いの経験が齎した第六感が回避させた。


 実体化したことで、これまで意識できなかった、

 そういったコツ──ベテランの感性でしか拾えないようなものが、

 戻り始めている気がする。


「一度避けたところで無駄だ。

 探偵とやらの出場はここで終わりなのだからな」


「自分の采配ミスを恨めや」


 僕の周囲を三属性の球体が正三角形の軌道で巡っていく。

 これは……パス回しか。


 三色のパスラインが描く三角形が僕を囲み、

 その面積が徐々に縮まっている。


「僕を倒してどうする気だ」


「ロートルの居場所を用意してやるほど、

 今の時代は暇じゃねえのさ」


 どうにかしてアレン達を呼び寄せられないか考えたが、

 そもそもここに来ないということが、

 彼らも彼らで何かの対処をしているという証拠だ。


「僕の心はいつだって見た目相応だ。

 若いつもりも老成したつもりもない」


「だから何だという?」


「君達が思うほどやわではないということさ」


 無策だが、

 それで諦めたことはない。


 三角形を描いていたパスラインが立体的に持ち上がり、

 三つのボールが宙をふわりと舞った。


 一人が高く跳躍して一球を蹴り込み、

 一人が胸トラップで別の一球を落として、そのまま蹴り抜き、

 最後の一人が三球目の落下地点へ飛び込んでシュートを合わせた。


 仕掛けに来た。


 三属性のボールが次々と空間の壁を壊し、

 僕へと放たれる。

 なんという凶暴なシュートだ。


 全てのシュートが交わる破壊点では、

 時空間に穴が開きかねないほどの

 威力が生じるだろう。


 非常に危険だ。

 特に、時空間に穴が開いて、

 マナでなんとか存在を繋ぎ止めている

 僕がどうなるかわからないということだ。


 最悪、時空間の穴に呑まれて永遠にあらぬ場所を彷徨うことになるかも……。

 それは避けたい。

 経験があるからこそ、

 考えるだけでもぞっとする。


 シュートが放たれ、

 僕はとにかくその場で踏ん張ることにした。

 避けたいところだが、

 これほどの技を避ければ、周囲の被害が大きい。


 夜の郊外だが、

 それでも付近に人がいるかもしれない。

 超聴覚が使えない今の体では、万が一を考える他なかった。


「むんっ!」


 両腕を固め、想像し得る最大の衝撃に備える。

 恐らくは小型弾道ミサイルの着弾にも匹敵する衝撃になるだろう。

 力のない体で受けたことはないが、やるしかない。


「闊達かな、闊達かな」


 錆びついた鐘のような声が空から降ってきた。

 次の瞬間、

 アスリート達のボールが次々と破裂した。


 一瞬だったが僕にも見えた。


 水を纏ったスケボーの先端(ノーズ)が、

 マナでパンパンになった三つの球体、その表面に生じた一点の歪みを、

 次々と突き壊したのだ。


「鉄火山……!」


 先ほど、三人を追って夜の闇を駆けていた何者か──

 それが鉄火山だったのだ。


「スポーツゴッドの使者め!!」


「昔の肩書きでババアを呼ぶんじゃねえよ、

 これ以上ピチピチになったらギャルにならぁ」


 フラットスリーが即座に次のサッカーボールを出す。

 しかし、スケボーを走らせる老婆の方が速い。


「くっ……! 全員、フェイントだぁ!!」


 先手は取れないと悟り、

 サッカー選手達はフェイントで鉄火山をかわすことを選択する。


 だが、スケボーの超達人らしい老婆には通用しない。

 トップ選手特有のフェイント──視線誘導と身体の揺さぶりは、

 相手の動きではなく、路面と自分自身の重心を基準に動き、

 全身の筋肉と関節をチェーンのように連動させるスケートボーダーには相性が悪かった。


「馬鹿なっ!!」


 鉄火山がボードを振り抜くと、

 路面へ薄く水が走った。

 三人全員が同時に足を滑らせた。

 だが、地面に細工せずともボーダーは彼らを転倒させられただろう。

 それほどに身のこなしに隔絶があった。


 さらに鉄火山がボードで大量の水を跳ね上げ、

 鼻へ流し込む。

 深夜の郊外で、サッカー選手達は溺れるようにして意識を喪った。


「まったく。おいに喧嘩を売るなら

 せめてワールドカップで優勝してからだってんだよ」


 己の腰をとんとん叩き、

 鉄火山が僕の手を掴み、立ち上がるのを手伝ってくれた。

 彼女の戦いの余波で、

 僕は人知れず足をくじいてしまっていた。


「ありがとうございます。

 貴女を探していたんです」


「だろうね。まあ、安心しろよ。

 おいは悪いようにする気はねえ」


「何があったか知っていたら教えてください。

 それと、ベアリタ帝国がこちらに侵略しないように……」


「うむ……」


 顎を撫で、老婆のクマはすまなそうに首を振った。


「それはムリだ。

 ショーシは初めから、

 ここに侵略しに来てたからよ」

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