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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
第五章 スーパーサッカーVS密室殺人事件

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【七】-1 お任せあれ!

【七】


 名探偵スゲーマンの出動初日。 記念すべき日だ。

 100万年生きたが、名探偵になったことはなかった。

 考えてみればおかしな話だった。

 親友は炎上暴露型探偵ヒーローだったし、 宿敵も天才だったのに、

 どうして僕だけそういった路線に進もうとしなかったのか。


「お遊戯的なことは他所でやってもらえる?」


 クレオはインバネスコートをバッチリ決めた僕を見るなりそう言った。

 表情は笑っているが、こめかみに太い血管が浮かんでいる。

 もしや彼女はクリスティー派だったか?

 だが、ここから路線変更はできない。

 もう僕の新キャリアは始まっているのだから。


「アレンから状況を聞いて。  

 運良く、ボールにならずに現場スキャンを終わらせられたから」


 プライマル学院の学長室を使って、

 クレオはあらゆる折衝と後始末をしていた。

 流石に、キャプテン・サッカーの密室殺人事件の現場が

 サッカーボールになった後では、

 他国の使節団を同じ施設には置けない。


 彼女とアレンが必死に説得し、

 ジェーン家の別荘に宿泊場所を移してもらった。

 一般の宿に泊まってもらうには、あまりに状況が特殊すぎるからだ。


「ベアリタの人らの護衛はフィニーとビギーがやってくれている。  

 あの二人なら、大抵はどうとでもなるだろう。  

 これからジョナサンも向かわせるからね」


「そうか、じゃあ今から名探偵スゲーマンが調査をしに行かないと」


「お遊戯的なことは他所でやってもらえる?」


 ……また言われた。 僕の信用なさすぎじゃない?


「君もジェーンもずっと頑張ってくれているだろう?  

 僕が今回は頭脳担当をやろうじゃないか」


「ムリ。私の計算だと貴方が探偵をやるのは  

 猿がキーボード打ってGTA6が偶然完成するのを待つくらいのことだ」


「つまり、野生の勘頼りと?」


 秋田の山脈で育ったことを評価されたか。


「時間の無駄ということだよ。  

 ジェーンを休ませるのはいいから、  

 その間にまあ……街で何かしていて。  

 どうせこれから世界相手の全面戦争だ」


「もう諦めているのかい?」


 最悪の結果を迎えればそうなるだろう。


「勘違いしないでほしい。

 全面戦争で済むのが最善の結果だ。  

 大量破壊兵器を使われないように、  

 これから向こうの交戦法規や戦争倫理を根拠に、

 その使用を思いとどまらせないといけない」


 なるほど、その書類を作成しているというわけか。

 何やら膨大な量の紙の城を作っているが。


「貴方に探偵は求めていない。  

 そういうタイプじゃないだろう」


 シスマと似たようなことを言っている。

 まったく、僕のポテンシャルを見くびっているようだ。

 だが、仕方ない。実績を立てるのはこれからなのだから。


「とにかく。やるだけやるよ。  

 人手が不要ってことはないはずだ。  

 何事も行動すればチャンスも見えるものさ」


 こちらが何を言っても聞かないと理解したのだろう。

 クレオはこちらをじろりと睨んでから 電子ペンを額に何度も当てた。


「やるなら条件がある。サイドキックをつけるんだ」


 サイドキック、つまりは助手か。

 これはすっかり忘れていた。

 たしかに探偵には身近な人間のサポートが必須だ。


 それが頭脳でも、精神でも、技術でもだ。


「アレンとジョナサンを助手にして捜査をしろ。  

 彼らの言うことを絶対に守るんだ。  

 トイレに行くなら必ず二人に伝えてからにすること、  

 お腹が空いたら二人に聞いて、用意してもらうように」


「むっ」


 いくらなんでもムッと来たぞ。

 彼女は僕を5歳児くらいに認識している。

 だが忘れないでほしいが彼女やアレンの前世を何度も倒したのは、

 他でもないこの僕だ。


 だが、しょうがない。

 ここは実際に行動で貢献するんだ。

 僕の人生、だいたいそうやって来たものだ。


 行動より先に信頼が来たことは……まあ、ないわけでもないが、

 だいたい、ハリボテみたいな信頼など、 吹けば飛ぶようなものでしかない。


「条件を飲むんだね? なら行って来ていいよ、探偵さん」


「お任せあれ!」


 力こぶを作って頼りがいをアピールする。

 体格自体に変化がないのはありがたい。


 クレオは奇妙な生き物を観察するように、

 僕を隅から隅まで凝視した。


「『彼』はよほどこのノーテンキさが嫌だったのかな」


 独り言だと判断し、クレオの作業空間を出ると、

 外にはすでにアレンとジョナサンがいた。

 密室殺人事件の現場がサッカーボールにされた際の巻き添えを、

 喰らってはいなかったようだ。


「やあ、これからよろしく!」


「じゃあ道すがらに色々とわかったことを教えるよ」


「僕もがんばりますから!」


 二人とも実にいい子だ。

 さっそく、サッカー使節団の人から、

 被害者がどんな人物だったのか、

 事件があった時に、それぞれが何をしていたかを聞きに行く。


 彼らが滞在している場所は数ブロック先にあるらしい。

 ならば、この実体で初めて、 外を出歩くことになるわけだ。


 屋敷を出て、門を抜けると、

 爽やかな風が吹き抜けた。

 こういう時に空を飛ぶと気持ちいいのを知っている。


 新たな道に進むと決めた時、

 風は爽やかなものになり、

 夕日は僕を祝福し、

 行き交う人々は「頑張れ」と声をかけてくれるかのようだ。


「こんばんは! 気持ちの良い空気ですね!!」


 そう言って街中を歩いては目が合った人に挨拶する。

 シスマが念のため持たせてくれた財布から小銭を出して、

 物乞いにはそれを握らせ、 屋台では食べ物を買う。

 そうすると、なんとなく街に馴染んだ気がする。


 しかし、少しばかり目立っているようだ。

 それは僕ではなく、アレンとジョナサンが。


「サッカーの試合観たよ! 次も頑張ってね!」


「握手してくれ! 俺もいつか大舞台に出たいんだ!」


 そう言えば、忘れていた。

 スポーツ選手というのは、人々にとってスターなんだ。

 観戦や興行の文化が僕の時代に比べてかなり廃れていても、

 大舞台で身体表現の高みを見せる人々は、

 日常を彩る輝きを齎すというわけだ。


「なあ、あんたら俺の指導を受ける気はないか?」


 顎髭の男がアレンとジョナサンの手を握って迫る。

 僕には目もくれない。 たしかな判別眼を持っているのは間違いない。

 自慢じゃないが、秋田の米とぼだっことしょっつるときりたんぽに育まれた僕は、

 大半の人よりもかなり体格が良い。


 大半の人より、背丈は頭一つ分、

 厚みも一回り以上は上回るだろう。


「いらない。スポーツには余り興味がないんだ」


「僕も弟達の面倒を見ないと……」


「もったいないな。  

 君達なら、たちまち歓声を独り占めにできるぜ?  

 こういうのはテクニックとかシンプルな才能とかじゃないんだ。  

 オーラなんだよ、オーラ」


 遮光眼鏡の奥の双眸からは、何を考えているのか窺えない。

 僕を無視してアレンとジョナサンだけに声をかけたのは、

 たまたまではなく、意図的らしい。


 そう言えば、極めて優れたアスリートは、

 相手の佇まいはもちろん、シューズの履き方や立ち方だけでも

 相手のポテンシャルを分析できると聞いたことがある。


 まあ、流石にそこまで単純な話ではないだろう。

 しかし、そうした説に、アスリート当人らは声高らかに賛同こそしないが、

 否定もしない。


 僕の知っている達人の中にも、

 スポーツに限らず、チェスやeスポーツでも、

 秀でた実力を持つ者をひと目で見抜く者は何人もいた。


「普通、俺に見てもらうっていうなら国家予算の半分は必要なんだが、  

 これも投資ってやつだ。明日もわからん時代こそ、  

 育てる側が金を払って卵を温めるべきだよなあ」


「こ、こんなお金を本当に……?」


「3人は留学に出せる……!」


 得体の知れない、いわゆる山師に捕まった二人が、

 提示された金額に眼を丸くしている。

 二人がそちらに気を取られているのをよそに、

 僕は道の片隅の木に上っている子どもに目を留めた。


 スタジアムで販売されていたユニフォームを着た子どもが、

 木に上って降りられなくなった猫を助けようとしていた。


 だが、着慣れないユニフォームだったせいか、

 木の枝に裾を引っ掛けてバランスを崩してしまった。


「落ちる!」


 駆け出し、子どもが落下するだろう地点に両腕を突き出した。

 運よく子どもは僕の両腕の中に落ちてくれた。


 こういう時に人を受け止めることに慣れていた僕は、

 相手に怪我の一つも負わせずに助けられた。


 ただ、その勢いまでは殺しきれず、

 僕自身は子どもを抱えたまま石畳へ転がった。

 子どもを庇ったため、満足に受け身も取れなかった。


 実体化したばかりで、まだこの肉体の限界を把握できていなかった。

 両腕が強烈に石畳に打ち付けられ、

 両腕の筋肉が強く引き伸ばされ、一部が断裂した。


「スゲーマン! 大丈夫ですか!?」


「名探偵スゲーマンだよ」


 アレンが僕の体を起こし、すぐにスキャンした。

 目をパチクリさせた子どもは 何が起きたかもわかっていないみたいだ。


「猫は室内飼いがいいよ。  

 長生きもするからね」


 僕なりのアドバイスを送ると、

 子どもはぱっとその場を走り去る。

 肝心の猫は、騒ぎに驚いたのか、

 何事もなかったように自分で木から降りていった。

 ややあって子どもは振り返り、こちらに深々とお辞儀した。


 あの怪しい男は、何処かに行ったようだ。


「怪我は!?」


「両腕の筋肉が一部断裂。

 右腕の骨に罅が一箇所、左腕の骨に二箇所」


「もう帰るしかなくなったじゃないですか!?」


 アレンの診断にジョナサンが叫ぶ。

 しかし、なんでだ? 両腕を怪我したところで探偵には問題ないけれど。

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