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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
第五章 スーパーサッカーVS密室殺人事件

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【三】-1 弱きクマ

【三】


「ショーシ王子は弱きクマの救世主です」


 ベアリタ代表サッカーチームのキャプテンが

 昨日、親善試合を行ったスタジアムに戻って、

 一人、リフティングをしていた。


 昨夜、あれだけ物騒なことを叫んでいた王子について、

 翌朝になって最初に聞かされた評価がそれだった。


 少しだけ、昨夜に遡る。


 歓待が終わり、

 食事があらかた片付いた後、

 ショーシ王子はお付きの婆やに連れられ、

 その場を退室した。


 使節団は王子の振る舞いに対して

 あまり大きな反応を示さなかった。

 それはまるで、初めからどういった行動を取るか、

 ある程度予想していたかのようだった。


 あの後、パンダのような目元をしたクレオは、

 ジェーンに「どうにか良い感じに着地できないかな?」と頼んだ。


 帰国してからは司法から行政まで一人でこなし、

 さらには他国にも目を光らせているクレオは、

 王子に吐かれた暴言をものともせず、

 ジェーンに関係を繋いでほしいと頼んでいた。


 ジェーンとしては、あんな帝国主義的な侵略思想の持ち主は論外だが、

 親友に頼まれてしまえばやむを得ない。

 そうなればやるべきは、相手への理解を深めることだ。


 そして翌朝。


 ということでジェーンは、

 昨日対戦したサッカーチームのキャプテンを狙った。

 人当たりが良さそうだったからだ。


 サッカーと言えばリフティングだが、  あのサッカーでも変わらず重要なのだろうか?

 みんな、ボールを取るよりもボールの持ち主を殴りに来ていた。

 僕はサッカーにあまり詳しくないからわからない。


「私の弟は生まれつき筋肉がつきにくく、自力では歩けない体でした。

 そういったクマは後方支援にまわされますが、評価はされません。

 一生を誰かに食わせてもらうのが普通でした。

 ショーシ王子の機械駆体は、弟の人生を変えてくれました。

 あれそのものが生体筋肉の塊ですから、

 つければシンプルな運動能力だけでなく、

  頭脳も普通のクマ以上のものになれます」


 かつて、僕もクマの親友から聞いた。

 頭脳を働かせるには、筋肉が必須だと。


 僕の知るヒーローにはチェスの世界チャンピオンなどがいたが、

 激戦を繰り広げた後は、己の汗溜まりができたという。


 ヒーローとしての親友、ストリーマーも、

 世界を救うための名案を考えついた後はその場に倒れ込んでいた。


 高レベルになればなるほど、頭脳労働は筋肉を要求するのだ。


「かつては、ショーシ王子も己の発明を誇れなかった時代がありましたが、

 ジェーン様の話を聞いて、ようやく一歩を踏み出せるようになったようです。

 ですから、私には贔屓目も入っているでしょうが、長い目で見てください」


 そうジェーンに語りかける横顔に、ごまかしは見えない。

 たしかに感謝しているようだ。

 昨日の王子はその気になればあの場の全員を殺せると豪語し、

 ともに覇道を突き進もうと誘っていたが、

 キャプテン・サッカーは、そこではない彼の一面を評価しているのが分かった。


「でもねえ……昨日の大暴れを見ちゃったら……」


「だから、長い目で見てあげてほしいんです。

 あの人にも色々としがらみがありますから、

 本心はただ貴女と距離を縮めたいだけなんだと思います」


 キャプテンが辛抱強く諭す。

 言われてみると、たしかに昨日の王子のテンションは、

 かねてよりの野望というよりは、前のめりに

 自分をアピールしようとしているようにも見えた。


「あたしは、彼のことをよく知らないからなあ」


「まあ参考程度に胸に留めておいてくださいね。

 こちらは今から交流練習会ですから、失礼します」


 スタジアムの反対側でアップをしていたトッティーロが手を振り、

 キャプテンも振り返す。


 二人を見て、スポーツにめったに関心を示さない聖女が、

 何度か目をしばたかせた。


 躊躇いらしいものが見える。


「あたしも参加した方が良いのかな」


 普段のジェーンなら、逆にあの手この手で理屈をつけて、

 参加しないで済むようにしただろう。

 それがどのような理由でも、関わろうとする姿勢を見せてくれた。


 これは非常に大きな変化だ。


「サッカーに興味出た?」


「そういうわけじゃないけど、

 もしかしたらあたしも参加した方が、向こうも助かるんじゃないかなって……」


「クレオが言ったことを優先してもいいと思うけれどね」


 僕としても、これまでと違って彼女にスポーツへの関心が湧いたなら、

 それは本当に喜ばしい。

 もっと彼女と相撲を取れるということでもある。

 エルフの里で世界樹になってからというもの、

 実体化の手段を覚えたことで僕の素人関取としての仕上がりが

 高まっている実感がある。


 こちらとしては娘が“お父さん、相撲取ろう”と持ちかけてくるのを

 今か今かと待っているのだ。


「まあそれはまた別の機会に……」


 聴こえていたジェーンにやんわりと断られた。

 約束ができたぞ。やった。

 次の機会が楽しみだ。


 そうこうしているとエルロンド家の三男であるトッティーロと、

 キャプテン・サッカーが向かい合う。


 サッカーの才能を見込んで引き取られた彼は、魔術は苦手だ。

 それでも、放つプレッシャーはクマを相手にしても少しも見劣りしない。


 激しい一対一が始まった。

 この時代のサッカーでは激しいぶつかり合いも許されるが、

 二人はあくまでボールを狙い、ジェーンが受けたような上半身への暴力的コンタクトは意図的に避けている。


 トッティーロがボールを前に蹴り出し、

 大きく前進しようとしたが、そこへ体を差し込んだキャプテンが奪取する。

 トッティーロはあえて追わず、相手が身を翻すのを待ちながら、圧力をかけ続ける。


 キャプテンは振り返るフェイントをかけ、  逆方向へターンして、トッティーロが足を出すよう誘った。

 だが、トッティーロは耐えた。


 なるほど、エルロンド家の眼は確かだったらしい。


 さらにキャプテン・サッカーが勝負を仕掛ける。

 片足でボールの前方を跨ぎ、重心まで大きく傾ける。

 そこで、ついにトッティーロが引っかかった。


 隙をこじ開けられた。


 だがボールが突如としてぽん、と浮かんだ。


 見事なドリブルテクニックを披露していたキャプテン・サッカーの足下に  

 小さな土柱が生えていた。


 戦いならまったく役に立たないだろう。  消しゴム程度の大きさで、

 相手を転ばせることさえできるか怪しい。


 けれどもそれは、魔術が苦手なトッティーロが、

 サッカーをするためだけに身につけた、  必要最低限にして最大の効果を発揮する魔術だ。


 その選択とタイミングは完璧だった。


 絶妙な高さに浮いたボールを、トッティーロが胸で受け、

 そのまま遠くにあるゴールめがけて脚を振り切った。


「お見事!」


 キャプテン・サッカーが称賛の拍手をし、  観客からも力強い歓声が響いた。


 早朝にも関わらず、スタジアムの観客席には、

 まばらながらも人がいた。


 王の突然の崩御と王国の崩壊によって、

 無政府状態に陥った過酷な状況の中でも、

 人々は平和な娯楽に飢えているのだろう。



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