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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【二十七】勝ったのは僕ね

【二十七】

 自分の適性とやりたいことが大きく違うのではないか。

 僕が、そのことに気づいたのは、

 高校生になってからだ。

 

 実家にホームステイしていた

 クマ外交官のレーベとたちまちに仲良くなった。

 言いたくはないが、初めての親友との最悪の決別で心に残った傷。

 それが僕に勇み足を踏ませ、すぐに正体を明かさせた。


 「たけし! おい、タケ。

 今日の学校はどうだったか教えてくれよ」


 最初は塞ぎ込んでホームシックに苦しんでいた彼も、

 今は、生来の都会っ子らしい

 シニカルさと話の上手さを見せていた。


 そう、彼はクマ王国という大都会から来たクマだった。


 秋田の人にとって、東京とは天上界も同然。

 僕の知識では、電車が一時間に四本以上も出発し、

 セブンイレブンも車で1時間走る必要がない。


 ……本当にそんな所があるのか?


 何回か東京に飛んで行ったことはあるが、

 都会に一人潜り込むことの恐怖に負けて遠巻きに眺めるだけだった。


 両親が言うには、

 セブン-イレブンは昔は県内にひとつもなかった。

 つまり、セブン-イレブンの数が都会レベルを測る尺度なんだ。

 まあ、僕の推理が正しければきっと十店舗はくだらないのだろう。


 「学活で理想のセブンイレブンを考える授業を受けたよ」


 「高校生が……?」


 「みんなで何を話し合うか決めていいって言われたから、僕の希望が通ったんだ」


 レーベはひとつ下だったが、

 頭が良く、すでに博士号を3つも取得していた。

 そのことから、本人の希望で僕と同じクラスに在籍していた。

 今日は、クマ風邪にかかって欠席してしまっていた。


 「部活は何に入るか決めたのか?」


 この時はまだ5月。

 クラブ活動に入る場合は、

 ここ辺りで決めないと、それ以降は実質転校生だ。


 秋田で、特に僕の故郷では

 部活に入るのに少し遅れたくらいでも噂の的になる。

 毎朝、数km先に住むご近所さんが

 ゴシップを求めて母さんを狙うのは避けたい。


 何に入るかを決めないといけなかった。

 アルバイトをするか考えたが、

 実家の手伝いを優先するしかない以上は、

 安易にお小遣い目当てでやるのは非誠実な気がしたのだ。


「うーん。考えてないんだよね。

 僕としては運動部もやってみていいかなと思ってる」


 そう。運動部に入部だ。

 星も砕ける力持ちがやるのは反則かもしれないが、

 普通に生きる分には不自由ないコントロールができている。


 落としきった運動能力では体育で大活躍とまでは行かなかったが、

 頑丈な体は運動能力の手加減に関係なく、ある。


 フィジカルのぶつかり合いのスポーツなら、

 僕でも活躍できる気がした。


 ラグビーか、野球がいいかなあと考えていた。

 野球はキャッチで役に立てる。捕手になるのもいい。


「そんなに部活が大事なもんか?

 体を鍛える必要ないだろ」


 居間で鮭の骨をポリポリ齧っているレーベが首を傾げた。

 たしかに彼にはそう見えるだろう。

 だが、僕も若者だ。スポーツをやっている人たちの姿を見れば、

 なんかこう……やってみたくなるんだ。


「ああ、お前モテたいの?」


「はっはっは。そんなわけねべった。

 モテてだげでおいがスポーツやるなんてマジ、ねべっし!!」


「ちょっと秋田弁抑えてくれ。

 何言ってるかわかんなんくなってきた」


「いや抑えでっし。意味わがんねし。んなわげねっし」


「そんなに否定することか?

 いいじゃないか。彼女作って色々経験しろよ」


「君はいたことあるの?」


「毎晩連絡してる」


「はー、とけのやごどな

 おいみでなじゃんごしゅには大人すぎっだ

 (うわぁ、都会の人は僕みたいな田舎者と違って先進的だなあ)」


「そんなことないって。

 人が多いとこにいたからなだけだよ」


「ほえー」


 事もなげに言う、僕の一つ下の少年クマ。

 そう言われたらそんな気がしてきた。

 だって、都会育ちなんだし。


 この時から僕は、都会に出たら

 すぐに恋人や友達ができると疑いなく思い込むことになった。

 結果は、上京してすぐに、変質者の女性にスマホを叩き落とされた。


 世の中というのは”こんなはずじゃなかった”ことばかりだ。

 とりあえず、レーベに一通りの部活を教えると、

 彼は興味深そうに何度も頷いてくれた。


 各スポーツのルールも尋ねてきたので、

 知識を総動員して答え、わからないところはスマホで調べた。

 二人でうんうんと話し合い、

 一番……女の子にモテそうな部活を探してくれた。


 そうだ。カミングアウトをしよう。この時の僕はモテたかった。

 ファーストキスを交わした”彼”との決別。

 それが心に残した傷を忘れたかった。



「うん、遊戯部にしよう」


「僕、運動部に入りたいって言ったよね?

 それに、そんなの見つからないよ」


「作ればいい。運動でモテるのは部活じゃなくていいだろ。

 お前なら体育の授業で活躍すればすぐじゃん」


「球技はそんなに得意じゃないんだよなあ……」


 小手先の技術が必要なのは難しい。

 頑丈な体を活かせるのは柔道とか剣道とかかな。

 ハンドボールもいいかもしれない。


 ……それ、女の子の目に止まるんだろうか?

 全部、屋内でやるスポーツじゃない?


「とりあえずなんで遊戯部なの?」


「これからのためだよ」


「これからぁ?」


 変な声を出してしまった。

 だって、この頃の僕は高1だ。

 未来なんて全然わからないし興味の対象でもない。


 農家になる未来もなくなったことで、

 とにかく今この瞬間を楽しみたかった。


「脳と筋肉は両輪だ。どちらが欠けても良いパフォーマンスは成り立たない。

 脳は体内のエネルギーを大量に使う。

 そこへ酸素と栄養を送るポンプになるのが、筋肉だ。

 筋肉を動かすとタンパク質が分泌されて、脳の刺激にもなる」


 そう言えば……セイメイもジョギングとエクササイズを独学でやっていた。

 何度も一緒に走ったけれど、理由は教えてくれなかった。

 豊かな長い髪(彼は動く時でも結うのは避けていた)。

 それが長い手足と一緒に別個の生き物のように動くさまを覚えている。


「それに、運動を覚えるのも脳だ。

 勉強で脳に”新分野の学習”ルートを作っておけば、

 体の動きだって覚えやすくなる。

 勉強とスポーツのどちらかに絞るのは、

 大会直前か受験直前の最終手段にするくらいで十分だ」


 聞いたことがない概念だった。

 運動と勉強のどちらかができればそれでいいと思っていた。

 両親も僕には「とにがぐスグスグと育ってけろ」とだけ望んでいた。


 だから、頑丈にはなったし、それでいいかと思っていた。

 もしかしてクマ王国では常識なのだろうか。

 いや、それがクマ王国が発達した文明を持つ理由かもしれない。


 なにせ、クマの筋肉に脳を備えているんだ。

 さぞ頑丈で大きい両輪ができていることだろう。


「だったら勉強で良くない?

 勉強部とか、語学勉強部とか……科学部?」


「俺達の成績どっちも問題ないだろ」


「引っ掛け問題には弱いよ」


「そこだよ。お前のその駆け引きの弱さ。

 万年晴れ模様な脳がちゃんと相手を出し抜く駆け引きにも通用するようにしたい」


 うーん。レーベも僕のことをちゃんと考えてくれているんだなあ。

 炬燵に入れたぬくい足の指を動かす。

 みかんを剥いて半分食べて、もう半分を渡した。


 モクモクと顎を動かしてミカンを食べるレーベは、

 剥けたみかんの皮を折ったり曲げたりと遊んで、言った。


「俺は一旦社会に出てるから言えるけどさ、

 適正のないことに挑んだってことが

 かなりデカい自信と財産になるもんだぜ?」


 将来に向けてのプレゼンもされた。

 そう言われると、

 高校生としてはやってもいいかという気分になる。

 ”彼”、セイメイとのあり得た未来を考えてもムダなんだから。



「じゃあ遊戯部? 作ってみよっか」


「そう来なくっちゃな!」


 フサフサの手を挙げてクマの親友は嬉しそうに笑った。

 こうして、僕は一番不向きなことに高校生活を費やすことになった。

 本当に、びっくりするくらいに向いてなかった。

 でも、楽しかった。


 二人だったし、やりたいことをやっていたし、

 僕が自分でやると決めたことだったから。

 あと、何よりも、大事なこととして。


「ま、負けたー!!」


 高2の夏休み直前、

 部室でレーベがころんとひっくり返って叫んだ。

 オセロの盤面は、僕の勝利を示していた。

 そう、僕はたまに勝つことができた。

 ちょっとでも、成長と成果が見えていたんだ。


「なるほどねえ。凄いじゃない。

 たしかに、レーベくんに勝てるなんてオセロの達人だわ!」


 ジェーンがふむふむと対戦を観察し、

 感心しきりになっていたので僕も鼻を高々にする。

 なのに、ちょちょいと弄って、10手ほど前のものに戻した。


「ここをこうしたらお父さん、負けてたわね」


「でもここで勝ったのは僕なんだよ、ジェーン」


 娘の肩を強く掴んで、僕はできるだけ穏やかに諭した。

 何度やってもボロ負けすることに繰り返し挑戦し、

 亀の歩みで成長したことで、もぎ取った一勝だった。


「うん、まあそうなんだけどね。

 でも負ける可能性もあったなって」


「勝ったのは僕ね」


 ジェーンにしてみたら小さな進歩かもしれないし、

 それも紙一重かもしれない。

 けれども、向いていないことでも成長したのは僕だけの成果だ。


「絶対に忘れないように!」


 とにかく、向いていないとわかっていることを、学生時代にはたくさんやっていた。

 隣のジェーンがなにか言いたげな顔をしていたが、そこは流した。

 

 向いていないと思うということは、

 学ぶことが多く残されているということだ。

 それを続けることで、自分の可能性を広げることにもつながる。


「高校の頃の部活を通してね。

 僕は‘’駆け引きで相手に勝てる”人を、

 素直に尊敬できるようになったんだよ」


 自分にできないこと。

 上京するまでにも、何度もそれを突きつけられた。

 秋田という厳しい土壌、

 認めたくないが、クマ王国という未知の存在の出現。


 色々な人と出会って交流するのに、

 過去の経験がとても役に立った。


 場面が変わって、

 実家所有の裏山で、両親が育ちすぎた木を前に、

 あれこれと準備をしていた。


 クマ王国が異次元から現れて、繋がったことで、

 秋田の土地は大きく変化しようとしていた。

 そのせいか、少しずつ、これまでには起きなかった異常が発生するようになった。


 裏山の木々、土壌を吸い取るほどに膨らんだ大樹。

 これを放置すれば、根付いた土壌の栄養を平らげられてしまう。


「こっだなどうするづもりなな?(こんなのどうすればいいの?)」


 見上げる僕の前で

 母はチェンソーの電源を入れた。


「まずはおいだでおでほん見せっがらよ。

 それ見て勉強してけ(最初は私達でお手本を見せるから、

 それを通してやり方を学んでね)」


「そだごどいわれだっでよぉ(そんなこと言われたってさあ)。

 おいはおっどぉおっがぁの跡継ぎにはなれねねがせ(僕、二人の跡継ぎになれないじゃん)」


「へそまげんなぁ。あれは今の話だ。

 それに世の中、生命の選択だけじゃねがらよ」


 僕の肩に手を置いて父は言った。


「まあおいだのやり方、見でれな(まあ俺達のやり方を見ていろよな)」


 その通りに、日曜日の昼間、

 ジャージにゴム手袋をつけた僕は、

 両親のやることを見学した。


 父は木の傾きを見て、母は枝の様子を見た。

 それから、二人で根本の土を踏んだ。

 僕には恐るべき大木だったが、二人にとっては剪定してどう生かすかを、

 手慣れたものであるかのように、図面を引いていた。


 どこを残し、どこを切って、どう生かすか。

 両親はそれができる人だった。

 僕にはとても難しいことだったが、

 二人のやることを、僕は後になって何度も思い出した。


 結局、最後まで実家を継ぐことはなかった。

 僕の人生において、この日のしたことは無駄になったかもしれない。


 でも生まれ変わった先で役に立った。

 僕が、この時代に生きているのは、

 いわば遠い過去の忘れ形見のようなものだ。


 けれども、両親が最後まで自分の土地を耕し、

 そこに住む生命を守ってきたように。


 また空に昇る日まで、僕は未来に繋がる種を植えたい。

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