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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったので、断罪イベントより先に農業革命で国を救ってしまいました(クマとかヴィランもいるよ!)  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【二十四】イヤイヤイヤァ!


【二十四】


フィニーに世界樹からも、恐らくは里からも空手からも、

遠ざけることになるだろう戦い。

それだけで言えば、少女の進路のためのいざこざなのに。


ここまでの異種乱闘は生前にもめったになかった。


「誰だろうと来やがれぇ!」


斧が、大剣が、バズーカが、拳が、

時間の巻き戻しが、縦に横に斜めに入り乱れた戦い。


戦いに置いていかれていたフィニーとシーズにジェーンが覆いかぶさった。

これくらいなら傷一つない彼女が、

体の下にいるフィニーに呼びかける。


「すごいことになったわね。

 あたし、長も来た三人もぶちのめすつもりだったのに」


結果はこちらが何かをするまでもない

仲間割れの勃発だ。


「どう? あなたに木乃伊になってほしくないって動いたらこんなことになったわ。

 これでもまだあそこに入りたい?」


「え、えぇっと……」


元気いっぱいなフィニーが怯えたように震える。

無理もない。彼女が中心にいるも同然なのに、

そこを起点に実質国家間の争いにまで発展しようとしている。


「わかんない……ずっと、空手が上手くなることしか考えてなかった」


心細そうに呟く。

これまでの人生を変える決断は難しい。

それも、未知の領域に行くことは。


  お前は頭を鍛えるべきなんだよ


高校の頃に、ホストファミリーのレーベにそう持ちかけられた。

渋りはしたけど、最終的には誘いに乗って、色々なことを秋田という環境でやってみた。

成果は置いておいて、得難い経験だった。

だが、その時も、僕の心には不安があった。


秋田で培った頑丈な体が通じなくなる領域に挑むのは、怖かった。


バズーカの流れ弾を手で弾き、

風の刃が来るのを気合で受け止める。

そうしてジェーンがフィニーに何と言おうか、考えている。


未来に向けて、何をすべきか。

ジェーンはあまり迷わない事柄だ。


これまででもわかったことだが、

ジェーンもエドガーもどうしても他者の悩みや葛藤には想像で対応する。

それはそれで得難いことであるし、

何もかもを体験なんて不可能なのだから、

二人にしか言葉が届かない相手はきっといる。


それはそれとして、フィニーの躊躇いは僕にも共感できる。

なら、僕がここは背中を押そう。


「未来に足が竦む時は、君の周りに誰がいるかを考えるんだ」


マントを通じて僕が短く諭した。

こんなお説教みたいなことは性に合わないけども。

フィニーは、誰かの言葉を待っているように見えた。


ジェーンが、時間の巻き戻しによって爆風が弾頭に戻って、

石礫も混じった爆風を強く息を吹きかけて遠ざける。


よし。僕の体と力は防御に専念していれば、安全だ。


「世界樹に入って何千年も暗い中で一人いるのをちゃんと想像して!」


ジェーンが母娘を守りつつ叫んだ。


周りの喧騒には慣れたフィニーが、

隣のママに囁く。


「ママが集めたもの、ぐちゃぐちゃになっちゃってる……」


「いいんだよ、そんなの!」


「気にならないの?」


「あんたが無事ならいいの!」


「でも……みんなに差別されてるのに、残ってるから。

 この里にずっといたいんだよね?」


「違うよ! むしろ、あんたが空手なんかに夢中だから

 この子、ここを出ないんじゃないかって心配してたんだよ」


「ええ……そうなんだ」


ぼんやりとフィニーが惚けていても、

周りの状況は刻一刻と動いていく。

エドガーはすでに大爆発から復帰し、


最大脅威と見なしたヘルミーネに斬りかかる。

しかし、時間の巻き戻しで進んだはずのエドガーが戻された。

筋肉逞しい重戦車だからこその予期せぬ事象。重心の移動に失敗。ヴァルターの水の鞭を纏った横薙ぎを喰らった。


「征ッ!!」


 長によるバズーカの動き、性質、威力を模倣するエルフ空手バズーカ道がヘルミーネに。

 十発放てば長の拳十発分はバズーカになっている。

 ヘルミーネにぶつけんとするも決まらない。

 徒にバズーカ正拳突きを浪費してしまうのみ。


 むち打ちになっても鍛えた体ですぐに復帰したエドガーが斧を握らない手で魔術を受け止める。


「こいつを見なさい」


 腕じゃなくて、頭を鷲掴みにして確保していたビギーの父を掲げる。

 長にこっぴどく叱られてしゅんとしていたせいで、

存在感がなくなっていたのだ。


「あたしも、長と同じことをされたら、こいつに何をするかわからない。

 でもね。見なさい。これだけのワチャワチャになって世話してもらった長が壊れかけても、

 こいつには少しの後悔も見えないの。全然わかんない」


ここで「いやぁ……」と照れ笑いを浮かべられたらジェーンも絶句しただろう。

しかし、その前にフィニーが仮面をつけた父におずおずと言った。


「ビギーが、貴女のこと言ってたよ。

 すごく良いパパだって」


「娘が……?」


「とにかくね。たぶん、なんだけど。

 親ってこんな感じなんじゃ……ないかなあって。

 子どもは迷惑かけてるとか気にしなくて……いいんじゃないかな」


実親は目の前で息子と殺し合い、娘も殺そうとしている。

だから手近な例をゴリ押しして不器用に語りかけた。


「あっ! お父さんも適正ゼロのアート系勉強して、芸術家を泣かせてたって!

 関係ないかもしれないけど、でもお父さんは後悔はしてないっぽい!

 師匠の芸術家生命を脅かしといて! 凄いわよね」


……ここで僕のことを話題に出すかぁ。

親のことから少しズレてないか?

でも……そうか、僕がジェーンにとっての"親"なんだ。

てことは、こういう時の参考にもされるんだ。


「貴女もお母さんに愛されてるなら、ママのことは気にしなくていいのよ。

 きっと、なんとかなるものよ。どんなことをしたとしてもね」


もう片方の腕で胸をドラミングのように何度も叩き、

ジェーンはふんぞり返って笑った。


「ていうか、あたしがなんとかするから任せなさい。

 なにせ、あたしはスゲーマンの娘!」


「そうなんだ……」


「じゃあ、嫌だ」


「フィニー……」


「実はね。あたし、ママみたいに外を冒険したいの。

 子供の頃から話を聞いてたら……”いいなあ”って」


「んもう! なんで早く言わないの!」


その告白をシーズは抱きしめ、

おいおいと泣き腫らす。

微笑して母娘の無事を確認すると、そっと離れた。


エドガーとヴァルターが戦い。

ヘルミーネに長が襲いかかる。


「我が兄の技!」


バズーカを使い切り、再度ブラックホールを頼る。

しかし、拳で生み出した極限事象点にダークマターを混ぜる刹那、

巻き戻しが起きて生まれ始めた闇の穴が掻き消えた。


エドガー、ヴァルター、ヘルミーネ、長。

全員がとにかく空間の中央に居座ろうとしている。

それぞれがとにかく前に前にと、

物事の先頭、中心にいたがる性格なのが出ている。


「おのれ!」


「フフ……」



宇宙に偏在する未知の暗黒物質であるダークマター。

それへの干渉はいかに《水廻》でも負担が大きいのだろう。


次々にブラックホールを作っても彼女の魔術でたちまちに黒点が無に返されていく。

それと同時にヘルミーネの額に血管が浮かび、眼球の毛細血管が切れて目が充血していく。


「世界樹の加護の中での空手。

 貴女は天敵のつもりでしょうが根比べなら勝つのはこちらです!」


エドガーとヴァルター、長とヘルミーネで戦っているようでいて、

全員が猛者なせいであちこち巻き添えの危機がある。


「あなた、腹決めてこっちに付きなさい」


まだ頭を握ったままだったビギーの父に呼びかける。


「お父さん……」


彼を案じる娘に見つめられ、

バツが悪そうに仮面を被った顔を背けた。

里長の前でこうも怒られては父の面目が丸つぶれと思っているのだろう。

その通りではあった。


しかし、ビギーはそんなことは気にしていない。


ジェーンに頭を鷲掴みにされて

頭から下をぷらぷらさせている父の手を取る。


「一緒に戦って」


ビギーは、そんな彼に真摯に訴えた。

なんて父思いの子なんだろうか。


「駄目か……仕方ないか……ヴァルター殿に土下座もしたのになあ」


それと長の怒りは関係ない。


「フィニーと、お友達になれそうなの」


「うん?」


耳を疑ってか、父の動きが止まった。


「昨日の夜も遅くまで好きな音楽の話ができたの」


聞き間違いではないとわかって、

彼の”怒られたショック引きずり期間”は終了した。


「おぉ……!」


娘の口から”友達”というワードが聞こえ、

男は顔を上げた。

そこに浮かぶのは"安堵"と"喜色"。

娘のために里のシステムを悪用はしたが、

社会人としてどんな人でも、愛情は本物なのが伝わってくる。


「あの子を助けたら、もう私、この里を出る。

 芸術はきっと、どこでもできるもん」


「ならしかたないかぁ!」


仮面の位置を直して、

里の先代最強に活力が漲った。

……この人、自分が何してきたかの自覚あるのかな?


「腹を括ったらスッキリした……そうだな……これでいいんだ」


自分の決断を反芻して、

ようやく落ち着いてくれたようだ。

これで少しは社会人として流石によろしくないことをしてきたとも、

理解して欲しいものだ。


「ごめんなさい、里長ァ!」


四属性攻撃と斧と時間の巻き戻しとバズーカ空手の嵐に向けて、

ゴブリンの娘が叫んだ。


「世界樹はいるのやめて里を出まーーーーす!!

 ミイラなんかに誰がなるかーー!!

 あとみんなあたしのことバカにしまくってたのもムカついてきたわ!!!」


言葉にならない叫びが返ってきた。


「なら貴女たちにも死んでもらいます!!」


「ムムッ、あたしは死なないわ!

 ゴブリンエルフのフィニーの冒険譚がこれから始まるんだから!」


彼女が夢を語るのを、

不協和音を耳元でがなり立てられたかのように耳元を掻きむしる。


「なぜわからないんです……!

 エルフの里はやりたいことをするところじゃないんです……!

 ワガママを言っていいところじゃない……!

 でなければ魔術の混沌に戻ってしまう!」


…………僕の知る"エルフ社会そのもの"なこと、言ってる。


「やっぱりお父さんって、エルフのことあんまり好きじゃないの?」


「種族が嫌いなんてことはないよ」


ただ、彼らの文化が良しとする生き方は……

どうにも僕の人生とは対立しがちでね。


「とにかく、なんとかするかあ!」


僕のせせこましい言い訳じみた弁明から切り替え、

腕を回してジェーンは気合を入れ直した。


「目が回る状況だけど、

 お父さんが見てるんだもの!

 ていうか動き出さないと、状況に置いて行かれそうで焦ってるわ!!」


そうだ。こういうカオスな時空間では、

ガムシャラに波に乗らなければ始まらない。


とりあえず。

僕がわかることは一つ。


子ども達の進路相談が無事に終わったということだ。


ジェーンがテンションに任せて

ヴァルターの顔を蹴り砕く。

ヘルミーネによる時間の巻き戻し、飛んで進んだ距離が戻ると、

周囲に飛来していた長のバズーカ砲の弾がある。


掴んで母にぶん投げて、爆風を巻き起こして視界を塞ぐ。

すぐに長の脇腹を膝蹴りで砕く。


「好きにさせねっぞぉ!!」


ジェーンに斬りかかるヴァルターを掴んで、

持ち上げて腕を振りかぶって投げた、弟へ。


「オラァ!!」


阿吽の呼吸で斧の側面で二人の父を打ち上げる。

壁に埋まったヴァルターが戻る前に、

ヘルミーネに向かうも、ジェーンの動きが巻き戻り続ける。


「跪きなさい、親の御前よ」


「嫌よ!」


「口にはできても、実際には──」


そう言ったヘルミーネが崩れ落ち、

電流を流された鼠のように

巨大な乳房を仰向けに震わせてのたうつ。


「オラのパンパァン!!」


わけのわからない呼び名で、

妻のために穴から這い出たヴァルター。

そこにビギー父が向かうも、満身創痍からの火炎斬りが不意打ちになった。


「今助けにゲェッ!!」


その脳天にフィニーの回転踵落としが刺さった。


「フィニー!?」


長が、生贄候補がアクションを起こしたことを咎めて、

通常の空手で止めようとする。

手刀での当て身。しかし、頭跳ね起きの要領でびょーんと、跳んだフィニーが逆さまの体勢から突きを放つ。


無形にも等しい、腰の捻りとか踏み込みとか無視した攻撃。

それが何故か、長に刺さった。


「ぐっ……ついに手まで上げるのですか!

 考え直しなさい!

 何千万年と由緒あるシステムなのですよ!

 これまで何人が里の、人々のために従って来たことか!」


「ごめんなさい! この際だから言うけど。

 この里のシステムも文化もノリも全部全部ひっくるめて嫌ぁ!

 貴方にアタシとママのこと決められるのもっとイヤイヤイヤァ!!」


子どもの駄々そのもの。

しかし、この里にとっては"'魔術"から"空手"へのただのシフトではない。

伝統と文化そのものを蹴り飛ばす、全否定の叫びだった。


普通なら相手にもされないことさえある。


だが、そうだ。常に冷静な里長の彼だが、

シーズの昔語りでも、

子どもが苦手なのは見て取れていた。


安寧と秩序に執着するが故に、

不変社会で虐げられてきたフィニーの、

素直な叫びが、一番心を乱して耳を塞ぎたくなるんだ。


「やめなさい……!!

 これが……これがイヤイヤ期と言うのか!?」


「いや、それは違ぇぞ……

 待ってろ、男ってのは殴り合ったらダチだ!

 ぶっ殺す前に邪魔な小娘をぶっ殺しといてやる!」


「誰かのために親をぶん殴ることになるなんて思わなかったけど」


ジェーンが拳を握りしめ、彼女を中心に地下空間を巻き込む嵐が起きた。


「ぎゅうぅっ!!」


パンチを貰った中年勇者の悲鳴。

よろけたところから復帰していたヴァルターに拳を叩きつける。


「あたしヒーローだからやっちゃうもん」


フィニーを背中に置き、ジェーンが両手で手招きして、

挑むように叫んだ。


「この子の進路を邪魔する奴は、あたしがみんな蹴り飛ばすわ!」


「かっ……」


超高密度の農作業とデスクワークの両輪で鍛えた背中。

リトルファムの元聖女という逞しさを目の当たりにして、

フィニーが口を開けて言う。


「かっこいい……!」


その瞳の輝きは、僕が──

僕がセイメイの賢さを見つめるものとそっくりで、

なんだかむず痒く思った。


違うのは、ジェーンは一線を超えた向こう側に行くことはないことだ。

だって、僕がついてるからね。

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