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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【二十二】勝手過ぎる!

挿絵(By みてみん)

【二十二】

 人生には二つのことがある。

 やりたいことと、やらないといけないこと。

 この二つは喧嘩をしてばかりだが、合致すると無限のやる気が湧いてくる。


「とりあえず縄を解いてくれるかい?」


「元トレジャーハンターなんでしょ?

 キリタンポとかの暗器はないか確認したけど、

 もしかしてあたしの知らない隠し方があるかもしれないわ」


 そう言って断るが、同時に気になったことを口にした。


「あなた、娘に死んでほしいの?」


「そんなわけないだろ!」


「じゃあなんであたし達の救いの手を拒むの?」


「スゲーマンが関わったから面倒なことになってるんだろ!」


 たしかにここに来た初日にも同じことを言っていた。

 僕の存在がすべてを狂わせる、と。


 彼女の中では、僕がここに訪れたことで全てがおかしくなって、娘も世界樹に入ることが決まったということになっているのだろう。


 ただの偶然だ。

 しかし、たしかにそう考えても不思議ではない。


 僕達がエルフの里《惑星・不動拳》に訪れてから、ごく数日間であまりに多くのことが起きてしまった。


 同じようなことを言われたのは何度もある。

 だが、結局は人命救助をしなければ人が死ぬから、ずっとやり続けるしかなかった。


 それで受け入れてくれた人も、そうでない人もいた。


「そうね。でも悪気はないし、

 見方によってはチャンスだわ。

 これを解決したら、フィニーは絶対に世界樹に入らなくてよくなるもの!」


「そのフィニーの意見はどうなんですか?」


 まだ蓑虫のフィニーママ、シーズは苦虫を噛み潰した顔をした。


「あたしのために、世界樹に入るって」


「でもあなたは望んでないんだからそこは否定していいよね」


 そう言われると押し黙る。

 シーズもわかってはいるのだろう。

 ジェーン達の力がないと娘は生贄になって終わると。


 一つ踏み出してもらうには、言葉の説得もだが、実際の行動を見てもらうしかない。


「まずどうにかする方法を具体的に考えましょう。

 ずっと気になってたんだけど、地震が起こった時にフィニーが世界樹に“水やり”をするって言っていたわ」


「外側からマナを注いで、

 内側の異常成長するマナと少しでも相殺させようというものだよ。

 いつもは長がやってる。族長は権限として世界樹に深く関われるんだ」


「もしも中に入って内側からマッサージする人がいないとどうなるの」


「自然の営みがめちゃくちゃになって最終的には星が滅ぶ」


 聞けば聞くほど、難しいように思えてくる。

 あれほどの大きさの地震を出せるマナが暴走するとしたら、ジェーンのパワーを使っても止められないだろう。


 地震をどうにかするなんて、誰にもできっこないのだ。


「つまり、あなたがわからないことでも長なら知っている」


「彼の知識でも出来ないと思っていたんでしょう?

 あてになりますかね」


「甘いわね、エドガー」


 親指で力強く己を示し、ジェーンは胸を張った。

「空手ばっかの頭でっかちとあたしなら

 あたしの方が賢いに決まってるじゃないの、ムワッハッハッハ」


 断言した。

 根拠がなさすぎる。

 しかし、それくらいに自分に自信がなければ即断即決はできない。

 僕が同じことをしたら、合意を得るまで徹底的にシーズと話し合っていたに違いない。


「追われる立場から追う側に変わるってわけですね」


「そう! ここに長達がやってくるのも時間の問題よ。

 それならじゃあシーズの次は長を攫ってやるわ」


「ビギーも誘いましょう。

 戦力はあるに越したことはないです」


「呆れたね……この里中の空手家を敵に回すつもりかい」


「それだけでいいなら楽勝だわ!」


 そう断言するジェーンの背を、シーズはこれまでとは違った目で見つめる。


 彼女が抱いていた危惧を笑いのける姿を見て、心情の変化が起きているのだ。

 話もまとまったので、フィニーのお家の地下に隠れてもらっていた二人の様子を見ようと、地下への扉に手をかける。


 音はないが、地下が、空間が大きく振動しているのが、かけた手からはっきりと伝わってきた。


 そこで違和感に気づいて一度に開けると、乱雑に散らばっていた過去の遺物が吸い込まれていく最中だった。


「地下から来られたか!」


 エドガーが戦斧を構えて焦りを浮かべた。

 空手家は地上から攻めてくるもの。

 根拠はないが、痛い先入観を逆手に取られてしまったかのようだ。


「長が……ブラックホールを……」


「あれが里長の特権だよ。

 世界樹の内部でマッサージしてきた歴代の生贄の空手を再現できるんだ」


 その言葉の通り、ちょっとした隠れ家になるくらいの広さを擁していた地下は、底なしの黒点が音もなく地面を吸い込むことで空間を削っている。


 里の地下から、フィニー家の地下室まで、ブラックホールで強引に穴を掘り進めてきたのだ。

 地下に球体状の通路が開いて、ビギーが近づけずにフィニーを背後に置いている。


「迎えに来ましたよ。

 貴女にはこれよりお清めの儀に入ってもらいます」


 どうして長が昨日の今日でブラックホールを拳から出せるようになったかは知らない。

 わかるのは、長がとてつもない脅威になったということだ。


「ビギー。お願い。加勢して!

 留学に行く前の人助けと思って」


「留学?」


 当人が返事をするより先に、長が聞き咎めた。


「初耳ですね…………

 里一の空手家には交流の全権を与えているのですよ?

 留学の必要などないはずです」


 これまでは感情のない、使命感だけで動いているようだった長。

 そのプレッシャーの質が変わった。

 憤り、怒り、屈辱のどれもが混じり合った炎が燃え上がる。

 ビギーが何も知らないとひたすらに首をふるふる横に振った。


「そんなの初めて聞いた……

 暗殺の仕事自体、ずっとやっていないし」


「…………なんですって?

 貴女の修行に必要だからと、貴女の父に毎月、多額のお金を渡しているのですが。

 それはいったい何のために使われていたのです……?」


「マナ習字。それしかない。

 暗殺の仕事は昔、リトルファムで何回かしたくらい」


「べアリタ帝国では? 何故、そちらには行ってないのですか」


「行くのは将来。芸術の勉強をしに、行くかも知れない。

 だから、そこには。近づかないようにって」


「今、なんと言いました?

 …………それほどの才能と実力があるのに空手以外を本格的にやると!?」


「もう留学先も決まっている。来月には、ここを出る予定だって、父が」


 いつも空手の実力でムリを見逃してもらっていたビギーに、初めて訪れた本気のお叱りが来る雰囲気。


 いつも通りにほわほわ夢見心地めいた振る舞いをしていた彼女が、徐々に意識と話し方がはっきりし、心細そうになってきている。


 フィニーにまつわるジェーンとの対立も度外視するくらいに、長は目を見開いて唾を吐いた。

 それほどの衝撃だったらしい。


「過去の歴史が伝えていた通りだ。

 スゲーマンが出る所には変化が訪れる。

 空手を捨てるのか、里最強の名誉にある者が!」


 “不変”を何より尊ぶ文化にあるエルフには耐え難い情報の連続。

 よく我慢してきたと言うべきかもしれない。


「フィニーだって、本当は見込みがなさすぎるから

 生贄はビギーをあてがうつもりだったんですよ……!!

 そのことを父親にも前もって伝えていたというのに!!」


 激怒がついに長を包もうとしている。

 ブラックホールもとうに消えたのに、次を出すのを忘れてしまっていた。


「これだけは言わせてください。

 ずっと、私はお諭して一人、里のために尽くしてきたんです。

 ずっと安定した変わらない空手の毎日だったんです。

 なのに、次から次へと面倒事が舞い込むのも、

 それもこれも全部あなたのせいだ、スゲーマン」


「そんなぁ」


 突然に矛先を向けられた。

 ジェーンではなく、マントの僕にだ。


「貴方が現れるまでは平穏が保たれていた。

 つつがなく、平和が保たれるはずだったんです。

 数百年間は確実に!! その安寧が数日に縮まったんだぞ!!

 貴方のせいだ!! 貴方の!!」


 取り乱されてしまった。

 敵とは言え、その激動の中心に置かれてしまった心境、察する術すらないくらいだ。

 長としての、コミュニティをまとめるリーダーとしての気苦労。


 まだ数百年の猶予があったはずなのに、僕が世界樹を訪れたらリミットが唐突に消えた。

 シーズもだが、僕の責任だと罵りたくなってもムリはないだろう。


「僕はこう思うよ。

 つまりはこれも縁じゃないかって。

 一緒にこれまでのシステムを見直して変えてみないかい?」


 マントを変形させ、形式だけでも手を差し伸べる。

 この時代に目を覚ましてから誰にも取られていない手だけれど、だからってやらないという選択肢は絶対に有り得ない。


「フッ、フフッ。ハハハハハ!」


 取り出した通信機に長が短く告げた。


「拘留中の3人を解放しなさい。

 里中にジェーン・エルロンド達抹殺に動くように伝えなさい」


 完全な敵対宣言。

 これで本当に里の全てが敵に回ってしまった。

 ただ用務員を探しに来ただけだったのに。


「まあここまで行ったら覚悟を決めるしかないわね!」


里長サトオサ……

 私は、留学したら、ダメなの?」


「駄目です。何があって許す道理はありません」


「そう…………なら、いい」


 見上げるフィニーから離れ、長い髪を振るい、ひらひらした袖を揺らして、ビギーは言う。


「お父さんが、たくさんのことをしてくれてた。

 だから、留学してたくさん勉強しようって思ってた。

 嘘をつかれてたとは思わないけど、

 お父さんがみんなを騙そうとしていたのは、わかった」


 どことなく吹っ切れた様子で、ビギーは佇まいを整えて、長を見つめる。


「白紙の未来。ならわたしが選ぶ。フィニーを守る」


「ビギー……」


 これまで無言だったフィニーが、止めようと手を上げ、そのまま下ろす。

 縋るように母を見たが、彼女は長の動向をつぶさに観察していた。


「あたしは──」


「貴女達の意見はもう聞かないものとします」


 大容量のマナが長に流れ込む。

 髪が逆立ち、双眸が光り輝いて、口から怒声とともに膨大なエネルギーを放射した。


「本当に……誰も彼も勝手過ぎる!」


 長は激怒した。


「うるさいわね、変化しないとこの子が生贄になるなら

 とっとと壊れりゃいいのよ、そんなシステム!!」


 とんでもないことをジェーンが堂々と断言した。

 その場の全員が彼女の迫力に呑まれた。

 それは纏めたらそうなんだけども、もうちょっと軟らかい言い方にしていいと思う。


「誰だろうとかかってきなさい!

 やっつけてやるぜえ!」

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