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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十八】コンニャロー!


【十八】


 ブラックホールとはどうして発生するのか。


 さらには、正拳突きでそれを生み出すにはどうするか。


 それは、単純明快に、強いパンチを放つに限る。


「おじいさーん、いやおばあさんかな?


 とにかく聴こえますかー!?」


「ア……アアッ……けふっ」


 大声で叫ばれたことで即身仏がこちらを見る。


 だがそれだけだ。


 久方ぶりの外部刺激に反応を示しただけだ。


 そうして世界樹の管理とお世話に戻るんだ。


 アインシュタインの特殊相対性理論によれば、エネルギーと質量は等価で結ばれる。


 つまり、光速に匹敵するパンチを空手の正拳突きで放てば、天体クラスの質量が拳の先端の一点に凝縮され、シュヴァルツシルト半径よりも極小の空間に、天体エネルギーを詰め込む。


 そうすれば、ブラックホールが生み出される。


 途方もない年月を鍛錬に費やし、マナによってこの宇宙空間のダークマターを正拳突きに載せるという荒業。


 不可能ではない。気が触れているだけで。


 葉っぱ一つが豪邸ほどの大きさはあるだろう、くらいに巨大な大樹。


 そこを内側から壊した空手即身仏は、こちらを一瞥もしていない。


 だが無造作にも見える動作、飛んでいる蠅を手で払いのけるかのような自然体な動き。


 次から次へとブラックホールが生み出されていき、それらに世界樹を育む翠が呑み込まれていく。


 この即身仏、無敵なのではないか。


 言葉は通じず、止めようとすると黒点が呑み込まんと大口を開ける。


「マズイマズイマズイ。とんでもないところに出くわしたわ!!」


 試しに炎を吹き付けてみたが、当然、火は音もなく黒色に食べられた。


 エルフとはできるだけ友好関係を築きたかったというのに、里どころか、世界、悠久の歴史も無に帰しかねないような大事変が発生してしまった。


「今すぐに長老達を呼びに行きましょう!」


「で、でもあたしがここを離れるわけには──」


 そうしている間も、ずっと孤独にやってきた空手の鍛錬、世界樹へのマッサージを続ける即身仏は、拳を出しては引いて、出しては引いていく。


 少しでも離れたら何が起きるかわかったものではない。


「俺を思いっきり来た方向へぶん投げてください」


 エドガーにそう言われ、少しの葛藤をし、心を決めた姉は、右腕に弟の両足を乗せた。


「行ってこぉぉぉぉぉぉぉおぉぉい!」


 奇しくも円盤投げのフォームで、遠心力を活用した投擲をした。


 すぐにエドガーが空の星になる。


 そこから長を探すとしても、簡単には見つからないだろう。


 だが、ちゃんと探そうとしたという事実だけでも、ないよりはずっとずっといい。


 フィニーはここに残っているが、できることはないだろう。


「あなた、あいつの背後を突くことできる?」


 ビギーに尋ねるが、豊かで細いブロンドの煌めきを吸われている少女は、ブラックホールを前に足踏みしてしまっていた。


 ジェーンの白炎を放つ対策もだが、触れれば瞬殺というのは、裏を返せば触れられないなら決め手がないということだ。


 ビギーは最強の空手家、だがそれは武術の性質、相性において"直接触れられる相手"にだけ、最強なのだ。


「まいったわね……あなたの口添えあったら、仕方なかったって納得してもらえる!?」


「喋るの、苦手」


「あたしは絶対に信じてもらえないよー」


「んもう、好奇心は猫を殺すってこういうことだったのね。


 地面を掘って地下経由で近づくにも、根っこがあるだろうし……いやイケるか!」


 閃いたジェーンが膝を折り曲げて地面に手を突っ込む。


 これほどに頑丈で大きな、樹の根と見れば、動かせば地盤沈下などを引き起こす。


 だが、ジェーンが根を引っ張ると、たわんでしなる根がそのまま地上も波打たせる。


 それによって即身仏が空中に飛び出た。


 ビギーが小刻みに歩幅を重ねていく独特の走法で距離を詰めた。


 ジェーンの狙い通り、バランスを崩されれば拳のキレは落ちる。


 空中に浮かべば、腕を無心に振っても足腰が機能せずにブラックホールが出ない。


「ほら、お願い!」


「ベストタイミング」


 波打つ地面のリズムを瞬時に見切った最強が、地面が上に膨らむ瞬間を狙って跳んだ。


 人差し指に気の針を伸ばし、相手に接しようという時。


「アァ…………ウウゥーーーー……敵が来たな」


 ビギーの圧倒的な強者としての身のこなし、完璧なタイミングと動き。


 二つが融合したことで、無我の境地にいすぎて正気をなくした即身仏を覚醒させた。


 足が何にもつかないところに、ブラックホールの吸引が巻き上げていた岩の欠片に両足をつけ、腰を捻っての突きを走らせた。


 ありえない! 宙を舞う破片に両足をつけて力を込めても、足場として機能するより先に足元が粉砕されるだけだ。


 だが……相手は正拳突きでブラックホールを生み出す者。


 光よりも速い“踏み込み”、“腰の捻り”を成し遂げれば──


「ううっ!」


 脇腹に、亜光速のパンチが掠めた。


 ビギーの肋が砕けた音が響く。


「や、やばい!」


 連携が失敗したのを悟ったジェーンの両目がまんまるになり、白目を剥いて気絶せんほどに仰天して、よろめいた。


「こ、こっちを見ろー!」


 …………だが、ここでフィニーが、


 誰も戦力と見ていなかった白帯が、


 前評判とは裏腹の完璧な胴回し蹴りで体ごと顎に踵を振り下ろした。


 型も体重移動も術理もない。


 たまたま技に見えなくもない、そんな程度の動きのはずだ。


 泥臭くて野暮ったくさえある……そんなフィニーの動きなのに、効果は抜群だった。


「があっ!?」


 クリティカルヒットした攻撃が、世界樹より這い出て来た、正体不明の滅亡の体現者たる空手即身仏を倒した。


 見事な一撃だ。まぐれだとしても、あの威力、一発を浴びせて勝利したと言うだけで、エルフの里の万年白帯が、飛び級の黒帯獲得に見合う功績に違いない。


「や、やった……!?


 あたし、できた!! ざまみろ!! コンニャロー!!」


 両腕を天に突き上げ、周辺を踊り狂っていた。


 予想外の出来事にあっけにとられていたが、とにかく部外者の自分の前で里が人知れず崩壊という事態にならず、ジェーンは荒れに荒れた草地に顔を突っ伏して、横になった。


「フィニー!」


 遅れて、エドガーが長達を連れてきた。


 世界樹に埋まっていた者が出てきたこと。


 その者が携えてきた奥義が全てを壊しかけていたこと。


 そして、最も強調すべきは──


「あたしが倒したの! あたし、あたしが!!


 見て見て、凄いでしょ!! ほら、ここ、足の形がぴったり合うよ!」


 即身仏の顎に刻まれた足の裏の痣に足を合わせて、やって来た者達──ジェーン達と手合わせした強豪五人と、フィニーのママに自慢した。


 長が視線で真偽を尋ねてきたが、反論せずに肩を竦めて同意した。


「凄くよくやってくれたわ。


 あなたたちが馬鹿にしまくっていた、この子がね」


「そうなんですね」


 しみじみと感じ入って、長が目を細めて深く息を吐いた。


 他の四名も一様に安心するべきか、動揺するべきか、迷っているようだった。


 全員が悔しがって否定するか、それともまさかの大殊勲に騒ぐかのどちらかと思っていたのに、予想と違う反応にエドガーもジェーンも訝しむ。


「ほ、本当に……?」


 フィニーのママが、震える両手で娘の頬を挟み、上ずった声で尋ねた。


「本当にお前が倒したのかい?


 いいんだよ。あたしは、嘘をつかれても、全然気にしないよ」


「なによー。ママも信じないの?


 ついに、この土壇場で、あたしの修業の成果が出たの!! エヘン!」


「あ、ああ…………!!」


 辛うじて平静を保っていたのが決壊し、小さなママは娘の胸に額を当て、滂沱の涙を流して崩れ落ちた。


「そんな、そんな……!」


 差別的に白帯を見ていたエッジィですら、口元を抑え、親子から目を背けていた。


 死の宣告、不治の病、取り返しのつかない事実の発覚。

 そんな場に居合わせたような居心地の悪さ。

 だが、理解できない。どうしてこの場の関心の的がフィニーなんだ。


 大勝利の場のはずなのに、悲嘆に暮れたムードになり、理由がわからないフィニーは首を傾げた。


「あたし、なんかやっちゃった?」



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