第二十九話 時間を駆ける少年
「おぉ!! 見えて来たぜ王城!!」
リヴは少し遠くに見える城に指を差しながら言った。
「っ……」
その時、マルスは感じ取った。王城の内部から激しいほどの圧を。
――ストン
「っ!?」
その直後、リヴとマルスの前に音も無く何者かが現れる。
「……誰だ、とこの期に及んでする質問ではないな」
剣を抜くマルス。目の前の者が敵だと即座に認識した。
「初め、まして。私の名前はタイマ」
この圧、間違いなく上位悪魔だ……。油断はできないな。
マルスは構える。しかし、
「……は?」
次の瞬間、彼は信じられない体験をする。
タイマと名乗った少女が自分との距離を一メートルにまで詰めていたのだ。
馬鹿な!? あり得ない、音速で移動しようと高速で移動しようと、そこには予備動作と移動に伴う空気の揺れがある!! しかし、この女にはそれが無かった……!!
「私は、時を司る悪魔。だから……今の攻撃は時を操作して攻撃した」
「がぁ!?」
更にタイマは目にも留まらぬ動作でマルスを突き飛ばす。それを被った彼は瓦礫の山に激突した。
「えぇー……マジかよ」
リヴはただ隣で乾いた笑いを浮かべることしかできない。
「【アンデッド】、捕獲する」
「うへぇ!?」
タイマが放った魔法により、リヴは閉じ込められる。
「『時間の檻』。現実世界の一秒につき、結界内の時間は五十年。今の説明の経過秒数だけで結界内では三百年以上が経過してる」
あまりにも滅茶苦茶な魔法の性能に、マルスは口を歪ませる。
「【アンデッド】に老いの概念は無い。次にここから出す時、彼は廃人になってる。これは解放後に暴れられないようにするための処置」
タイマは何てことないように、淡々と淡々と言葉を重ねる。
――だが、
ピシ……!! ピシ……!!
「ん……?」
その歪な音に、タイマは耳を澄ませた。
パキ、パキパキパキパキ……!!
まるで陶器がに亀裂が入り、徐々に器が破壊されていくような音。それは紛れもなく、タイマの結界魔法が破壊される音に他ならなかった。
「おぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
亀裂から穴が開き、リヴは雄叫びを上げながら現実世界へと帰還した。
「はぁ……!! はぁ……!! はぁ……!!」
彼の姿形に異変は無い。強いて言うならば、少しだけ雰囲気に変化が見られたことだろうか。
「おぉ……久々に見たなぁてめぇの顔……!!」
タイマを見て、リヴは激しい怒りを彼に向けた。無理もない、現実世界ではリヴが時間の檻に閉じ込められていた秒数は多く見積もって五秒程度。つまり檻の中で経過した時間は凡そ二百五十年。
普通であれば精神が崩壊し、会話すらもままならなくなるはずのこの魔法で、彼はそんなモノ意に介さないといった風に意思の強さを見せた。
「百歩譲って、心が折れていないのは良いけど……どうやって檻を破ったの……?」
タイマは動揺ではなく、心底不思議な顔をする。
「あぁ……? ンなもん、無理やり内側からぶっ壊したに決まってんだろう」
拳を開閉しながらリヴは言う。
彼はこの(?)二百五十年で成長した。再生能力は著しく向上し、様々な攻撃方法を身に着けた。いわばリヴは、二百五十年間孤独に修行をしていたようなものである。
「つーわけで、とりあえずだ……!!」
リヴは口で手首を噛んで拳を引き、構える。
「うぅぅぅぅ……!!」
そして腰を百八十度捻った。人間の可動域を越えたその動き、リヴにはもうソレに対する痛みは無い。
いや、正確には痛みを痛みと認識できなくなっていた。
ボキボキボキボキボキ
体内の骨が子気味良い音を立て続ける。
「食らいやがれ……回復パンチ:廻!!」
腰の回転と、腕の噴出を利用した二段階の加速のある強力な一撃がタイマを襲う。
「無駄」
リヴの一撃をもろに食らうタイマだったが、その傷は即座に癒える。否、癒えるというよりかは最初から攻撃などされていなかったかのようだ。
「私は時間を司る。時間を戻して、貴方が攻撃を行う前の時間に戻した」
「はっ、そうかよ。なら……!!」
リヴは悪鬼のように笑う。
「何度も何度もぉ……てめぇが根を上げるまでぶっ殺し続けるだけだぜぇ!!」
◇
その後、タイマは何度も何度も時間を巻き戻した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
タイマは息を荒げていた。
何故か、それは彼女だけは時間を巻き戻しても記憶が無くなるワケでは無いからだ。
リヴに攻撃される度に時を戻したタイマ、戻した回数は既に一万回を超えていた。
一万回のやり直し、それがタイマの精神に負荷を掛けたのだ。
――何。ほんとに何、あの【アンデッド】。頭が、頭がおかしい……。
タイマはリヴの異常性を感じていた。一万回のやり直し、そのどのパターンにおいてもリヴは必ずタイマに殺意を向け、攻撃を加えようとしてくる。
何度も対策を講じようとした。
【時の檻】に閉じ込める時間を延ばして精神の破壊を試みた。
戦闘を行った。
そもそもリヴとの相手をしないようにした。
――だが、そのどれもが不発に終わる。
どれだけ【時の檻】に閉じ込めてもリヴは精神を破壊しなかった。それどころかより一層タイマに対する怒りが増長した。
戦闘力自体にはタイマに分があった。だがリヴは不死身、何度タイマが彼を殺しても彼は再生し、立ち上がり、迫っていった。
リヴと邂逅しないように別の場所へ向かおうとした。だがそうすると、他で問題が起き、結局タイマはリヴと対峙しなければならなかった。
タイマの唯一の弱点は、運命。起こる運命は絶対であり、どれだけ過程を変えようが、色々なアクションを起こそうが最終的にソコに向かう。
タイマはその運命に少しは干渉できるが完全に覆すことはできない。
そして今回の場合、完全に覆さない場合、タイマは絶対にリヴとの対峙を強いられる。
「ぶっ殺してやるよぉ!!」
「……」
一万回以上聞いたリヴのその台詞に、タイマは辟易としていた。
「あー、もう……メンドイ」
「回復パンチ:廻!!」
もうどうでもいい。そう思ったタイマは両手を大きく広げ、何度目か分からないリヴの回復パンチを受け止めた。
だが、今回はこれまでとは少し違う。
タイマは、時間を巻き戻さなかった。
面倒くさがりな彼女は、これ以上のやり直しを放棄した。リヴの攻撃を受け入れ、自分のせいに幕を下ろし、未来へ到達することを諦めた。
「おらぁ!!! 勝ったぜぇ!! 何が時を司るだぁ!!」
リヴは大声を上げ、ガッツポーズをする。
「い、一体何が起こったんだ……」
そんな中、マルスは一体何が起こったのか分からなかった。
無理も無い。この戦いはマルスにとっては一瞬……しかしリヴやタイマにとっては数百年にも及ぶ醜い報復なのだから。
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