第三十話 終焉の刻
これにて最終回です。
ドドドドドドドドズガガガガガガガ!!!
「「……」」
レヴィとズガードは集中した様子で、声を上げずにただノーガードで殴り合う。
上位悪魔の中でも最も強大で凶悪な力を持つズガードと、無限の魔力を持つレヴィによる殴り合い。拳の衝撃波は周囲を破壊し、次元を歪曲させた。
「まさかこの俺とここまで対等にやり合えるとはな」
「当然でしょ! 私最強だもん! スパート上げるよぉ!!」
軽口を叩くように、レヴィは攻撃の速度を上げる。拳を引き、放つその速度は音速を越えていた。
ふむ、単純な殴り合いでは勝負がつかない……。
冷静な判断を下すズガード、彼は一旦レヴィの拳を躱すとそのまま後方へ跳躍し距離を取った。
「あれ? どうしたの?」
「次の小手調べだ」
そう言ってズガードは地面に手をやる。すると四方八方から木の根がレヴィ目掛けて凄まじい勢いで伸びていく。
悪魔が放ったのは植物を司る悪魔の力。
ズガードは悪魔を司る悪魔。その力は他の上位悪魔たちの力を使えることだ。
「よっと!」
レヴィは地面を殴り自ら足場を放棄する。そうすることで自らを下へと落とし、発生した瓦礫によって根による攻撃を防ごうという算段だ。
「ふん!!」
だが、そんな小手先の対処では無意味。ズガードは光を司る悪魔の力、光速移動を使い、レヴィが瞬きをする間も無く瓦礫を全て粉々にした。
ぶつかる障害を失った根は落下するレヴィに真っすぐに降り注ぐ。
「はは、早いねぇ!」
両の拳を握り締め、レヴィは乱打する。根は木っ端微塵に破壊された。しかし辛うじて、一本の根が彼女の足を絡め取った。
「あ」
ぽかんと、間抜けな声を漏らすレヴィ。次の瞬間、彼女は城の壁に叩きつけられた。
「いたたたた……」
恐ろしく早い手刀で根を切断し、そのまま重力に従いレヴィは地面に落下する。
うーん……力は私と互角……。やっぱり私じゃないと倒せないか。
掌底で軽く頭を叩き、レヴィはそんなことを思う。
この女……ここまでやるとはな。恐らく俺以外が対処していたら殺されていただろう。
同時に、ズガードも似たことを考えていた。
◇
その後は、文字通りの死闘だった。
レヴィはこれまでテイムした様々な魔物を呼び出した。
対するズガードは上位悪魔の能力を余すことなく発揮した。
規格外な力のぶつかり合いに周囲は崩壊し、多くの死者が出た。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……全く、しつこいね」
息を荒げながら、両者は敵を見据える。
圧倒的な拮抗状態。どちらかが判断を誤れば、判断が遅れれば死ぬ――そんな綱引き。
もしこの状況を打開できるとしたらそれは、
「……レヴィさん」
第三者の介入である。
ユカリ……。てことは、リヴが先に行かせたのか。
現れた彼女に対し、レヴィは冷静な分析をする。リヴと別れた後、ユカリは鬼人族の身体能力を駆使し、ルートを大幅に短縮、この王城まで辿り着いたのだ。
「っ!!」
この機を、逃すズガードではない。一瞬動きの止まったレヴィを見て、彼はユカリが彼女にとって身内であると判断し、彼女を殺害するために魔法を放つ。
「全く……!!」
一瞬遅れて、レヴィは駆け出す。ズガードとユカリの間に入り、攻撃を防ぐ。だが、
「は、やはり判断を間違えたな」
「ん!?」
ソレはズガードのフェイクだった。
派手な演出を帯びた強烈な魔法の一撃、それを前にしてレヴィは咄嗟にユカリの前に立ち、それを防ぐ選択肢を取った。
他に防ぐ方法あいくらかあったにも関わらず、彼女はそれを選んだのだ。
魔法のエネルギーと魔法による爆風で視界が奪われるレヴィ、次の瞬間、
「ふん!!」
ズガードの腕が、レヴィの心臓を貫いた。
「……」
人智を越えた回復魔法で負傷を治そうとするレヴィ。しかし、負傷は治らない。
「無駄だ。結果を司る悪魔の力を使った。『心臓を貫かれた』という結果は変わらない。……ソレは、治せない」
「……」
レヴィは無言で吐血する。
「レ、レヴィさん……!!」
泣きそうな声で、ユカリは血を噴出し続けるレヴィを見る。
「はは……。そんな泣きそうな顔しないの、ユカリ」
そんな彼女に対し、レヴィはまるで母親のように優しく微笑んだ。
――その直後、
「おい……!!」
激しい怒気を込めた声で、リヴは背後からズガードを睨み付けていた。
「来たか。【アンデッド】」
標的が自らこの場に来た。その事実はズガードにとって歓喜すべきことでしかない。
リヴを捕えるため、彼は早くレヴィを殺そうと動く。
「うん、待ってたよこの状況!」
レヴィは子供のように笑い、ズガードの頭を掴んだ。
「今更何だ? お前は死ぬ。無駄な抵抗は止めろ」
「確かにそうだね、私は死ぬ。けど、君も死ぬ!」
――死ぬ? は、何言ってんだレヴィさん……?
その言葉に、リヴは動揺する暇も無かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!!」
何だ……!! コイツの魔力が流れ込んで……!! まさかコイツ……!!
レヴィの狙いを理解したズガードは彼女から離れようとする。
「ははは!! 折角近くに来たんだから、離れないでよ!!」
「貴様ぁ!! ぐぅ!?」
膨大な魔力が……俺の中に……!! 間違いない、コイツは俺の魔力総量を越えた魔力を俺に肉体に流し込む気だ!!
生物には魔力総量と言う概念がある。魔力総量とはその名の通り、体内の魔力量のことだ。これは鍛錬を積めば増やすことができ、体内の魔力を使い切れば魔法が一時的に使えなくなる。
そして、体内の魔力総量以上の魔力が体内に蓄積され、許容量をオーバーした場合、肉体に害を為す。熱膨張のようなものだ。更に、それはオーバーすればするほど悪化する。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
ズガードの魔力総量は相当なものだ。だが、限界がある。対し、無限の魔力を持つレヴィに限界は無い。
いくらズガードと言えど、際限の無いレヴィの魔力を流し込まれれば、
「こんな、ところでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
――肉体は崩壊する。
「……ふぅ」
レヴィは息を吐く。
膨れ上がった風船が破裂するように、ズガードの肉片がそこら中に飛び散った。
「さて、と……リヴ」
「え、あ……はい」
何が起こったのか分からないリヴは、レヴィに声を掛けられても現実感が湧かぬままだ。
「おいで」
ただ、理解はできずとも忠実な犬のように、リヴの手招きには反射的に反応した。
「いい? これから君に、私の全部をあげる」
「……は? い、意味が分かんないっすよレヴィさん。何を言ってんすか?」
「私はこれから死ぬ。けどこうして君が私の死ぬ前に到着してくれた。そして王都全体で戦ったことでイレギュラーを起こさずに上位悪魔の大半を殺せた。まぁ強い冒険者もたくさん死んだから、そこはごめんなさいだね」
「あ、あの……レヴィさん。嘘っすよね……? 死ぬとか……」
「はは! 冗談じゃないよー! 全くもう!」
心臓が潰されているにも関わらず、元気な様子を取り繕い、レヴィはリヴの肩を叩く。
「だ、だって俺……!! まだレヴィさんとデートもできてねぇし、胸も見てねぇし、それ以上のことだってできてねぇのに……!!」
「それはごめん! 他の子の胸見て我慢して!」
「無理っすよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「おいレヴィ」
これから死ぬ者を看取るにしては、あまりにも抜けている会話が繰り広げられる中、リヴと共にここに来たマルスが彼女に声を掛ける。
「これが、責任を取るという意味か」
「ま、そうだね」
「ふん。王都は壊滅し、多くの者が死んだ。それがお前の命一つで釣り合いが取れると思っているのか」
「そうだけど?」
「はぁ……まぁこれから死ぬ者に何を言っても意味は無い。だがこれだけは聞かせろ。その魔物に『全てをあげる』と言ったな。それはどういう意味だ」
「文字通りだよ。リヴに私のテイマーとしての支配権を譲渡する」
「っ!? 正気か!! そんなことは不可能だ!! お前が契約をしている魔物の数と質を考えれば、コイツの魔力程度では到底補いきれない!!」
「それができるんだなー。可能性として一つだけ!」
可能性、その言葉にマルスの思考に火花が爆ぜる。
「……まさか、代償契約か……!?」
代償契約、テイマー自身が身の丈に合わない契約を行う場合、何らかの代償を払い魔物との契約を成立させる術。
「確かに可能性はあるが……!! 危険すぎる!! 一体何が起こるか分からいんだぞ!!」
「大丈夫だよきっと。だってリヴは【アンデッド】、死なないんだから……どうにかなる」
「滅茶苦茶だ……!! それに、仮に成功した所で、こんな奴に譲渡するなど危険すぎるだろう!!」
「さ、リヴ」
「聞けぇ!!!」
マルスの言葉を無視し、レヴィはリヴの額にキスをした。
――レヴィさんの、キス。おでこだけど、なんだ。あったけぇ。
「……がぁ……!?」
瞬間、リヴの中に全てが流れ込んでくる。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
彼はその場で何度も死んだ。
燃え、水に溺れ、凍らされ、雷に打たれ、斬り裂かれ、腕や足をもがれ、圧縮して潰され、爆発するようにはじけ、どこからともなく出現した鳥や虫に肉体を食われ、様々な病に侵され、精神を壊され、呼吸ができなくなり、栄養失調になり、大量の毒物に内臓をやられ、無限の情報を流し込まれ、落下し、魔物に食われ、人間にありとあらゆる拷問をされ、
――死んだ。
傍から見ているマルスには一瞬の出来事、だが実際リヴはその場で凡そ無限回にも近い死と苦しみを、ありとあらゆる方法で味わい続けた。
それはもう、数分前に閉じ込められた【時間の檻】など比では無かった。
「あ……うぁ……」
代償を払い終え、リヴは解放された。
彼はゆっくりと起き上がる。
「……」
マルスは無言で構えた。
代償を払ったのか? そんな様子は無かったが……とにかく、コイツは危険だ。上位悪魔はほぼ死んだ。次はコイツが脅威となる。
そんな思いから、剣を抜く。
「や、止めて下さい!!」
すると、座りつくしていたユカリは立ちはだかるようにマルスの前に立ち、手を広げた。
「……どけ、レヴィの魔物。いや、今はソイツの魔物と……というのが正しいか」
「……」
マルスの脅しに、ユカリは唇を噤み無言で抵抗する。そして、
「うぇ……あぁ……」
リヴはそんな険悪な状況を二人を見て、奇妙な声を上げた。
言葉が喋れないのだろうか、リヴは思い出すように口をパクパクとする。だが数秒後、持ち直すように言語を吐いた。
「お、お姉、ちゃん。お兄、兄ちゃん……だれぇ?」
「「……」」
リヴの様子に、二人は言葉を詰まらせる。
どういうことだ……? まさか、代償を払い幼児退行したのか? それとも代償を払ったことによる副作用か……?
正解は後者だが、そんなことは些細なこと。マルスにとって重要なのは、ただでさえ頭の悪かったリヴが、右も左も分からない赤子のようになったことであった。
「……」
変わり果てた様子のリヴを、ユカリは無言で見詰める。そしてしゃがみ込み、彼を抱きしめた。
「よーしよし、いい子いい子」
彼女はリヴの身に何が起きたのかは分かっていない。
だが自分がすべきことは、明瞭に理解していた。
「……おい!! ……これ、は……」
遅れてその場に駆け付けたバサラ。
だが全てが終わり、静寂に包まれたその空間を見て、彼は言葉を失った。
ただ一つ、彼が思ったのは……、
――リヴを抱きしめるユカリが、『子供を愛する母親』のように見えたということだった。
◇
数年後、【アンデッド】でありながら数多くの強力な魔物と亜人を使役するテイマーでもある少年が、悪魔の復活と世界の覇権を巡る戦いに巻き込まれていくのだが……それはまた別のお話。
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