第二十七話 リヴVSラクト(進化)
「くそ! レヴィさんのとこまで結構遠いな!」
レヴィたちは王都の中心である王城にいる。理由は王家の人間の護衛をするためだ。
「ユカリ! 後どんくらいだ!?」
「だ、大体一キロくらいです!」
ユカリは気が弱いが鬼人族。凄まじい身体能力を持っており、リヴを抱えて跳躍し、王城へ向かうことは可能。だがその場合、悪魔に見つかる可能性が高くなる。
そのため二人はできるだけ身を隠しながら王城へと移動していた。
だが身を隠しながらと言っても、相手は上位悪魔だ。索敵などお手の物。現に、先程植物を司る悪魔が地中の根から存在を検知し、下位悪魔を向かわた事例がある。
油断も出来なければ常に想定外があることを留意しなければならない。
――やっぱり、レヴィさんの選択はおかしい。最初からリヴさんを王城内で匿っていればこうやって道中悪魔に遭遇する危険を冒す必要も無いのに……。
走りながら、ユカリはバサラと同じく、レヴィの選択の不可解さに疑念を抱いていた。
その時、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!? ユカリ!!」
「きゃあ!?」
突如として上空から降り注がれた斬撃に、いち早く気付いたリヴはユカリを突き飛ばしてそれを回避した。
「がぁ……!?」
だがそれにより、リヴは斬撃を受け、上半身と下半身が分断される。
「ってぇなぁ……!!」
だがすぐにそれぞれの断面から血と臓物が伸び、体を結合させ再生した。
「よぉ……。リヴ」
「あぁ……? は、こりねぇなぁアンタも……!!」
吐き捨てるようにリヴは上空に目をやる。
――禍々しい剣を持ち、人間を辞めたような形相をしているラクトを見る。
「どーしたんだよ? 随分様子がちげぇじゃねぇか」
あまりのラクトの変わりように、リヴは少し驚いた。
「黙れ。俺はもう、この前までの俺じゃない」
「はは、どーやら話も通じなくなっちまったみてぇだなぁ」
「殺す!!」
「来いよぉ!! 死なねぇけどなぁ!!」
『駄目だよラクト君。殺しちゃア』
「う……!? あぁ……」
「ん? おい、誰と話してんだ?」
ラクトは突然、一人二役で会話を始めた。
『やぁやぁリヴ。僕は悪魔。影を司る悪魔』
「悪魔だぁ?」
『いつもは影から影に移動してる。影のある所は全て私の領分だ。君のこともすぐに見つけられたよ。でも私自身に戦闘力は無い。だからこうして……』
「あ、あああぁぁぁぁぁぁ!?」
『戦う時は他人に寄生するんだ』
見る見るうちに、ラクトの肌を黒いシミが浸食する。まるで自我を、自由を、尊厳を奪うようにソレは彼の体に纏わりついた。
「さぁ、殺るぜリヴ!! 俺がぁ、お前を……ぉおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「くっそが、来いよぉ!! ユカリ、先に行ってレヴィさんに俺はすぐ来るって言っといてくれ!」
「そ、そんな! 危険です!」
「元々この数日特訓したのはこういう時のためなんだろうが!! だったら今、ここで! やるしかねぇだろ!!」
「っ……。恐らく相手は【アンデッド】のリヴさんを殺すのではなく、無力化して捕獲しようとしています。だから気を付けて下さい!」
「おうよ!!」
さぁてと、じゃあ行くか!
リヴは自分の両手首を噛み切った。そして、拳を握り締めラクトへと向ける。
「回復パンチ:ダブル!!」
新しい腕が生え、元の手はその勢いで押し出され、凄まじい速度でラクトへ放たれた。
「ふん!」
だが、その攻撃は容易くラクトの持つ剣によっていなされてしまう。
「はぁ!? 嘘だろ!!」
リヴは驚愕する。自慢の技がやすやすと処理されてしまったのだ。無理も無い。
「そんな攻撃、俺には効かん……!!」
ったく!! つーかラクトさんってテイマーだろ!! 何であんな……!!
リヴは顔を歪ませる。この間までクエストで魔物の相手をしていたラクトとは明らかに別次元の強さになっていた。
「死ねぇ!!」
「がはぁ……!?」
ラクトの一振り、それによってリヴの腕は彼方へと吹っ飛んだ。
「まだまだぁ!!」
「っ!?」
距離を詰め、ラクトはリヴに更に斬撃を見舞う。紙一重で避けられるものもあるが、ほとんどは直撃し、リヴの肉体を損傷させた。
「てめぇ!! 影を司るとか言ってたよなぁ!! 何でラクトさんの剣がこんなにうまくなってんだよぉ!!」
『この少年が持つ剣は武器を司る悪魔に造らせた特別製だよ。どれだけ剣の才能が無い者でも、これを使えばたちまち一流の剣士だ』
ラクトの口で、声音で悪魔は言う。
そしてリヴはラクトとの距離が迫ったことで、その剣の異常性に改めて気が付く。
「おい、何だよそれ……」
リヴはその光景に信じがたい感情を抱いた。剣の刀身と柄を結ぶ部分には三人の人間の頭部が付けられていた。
そしてその頭部は、どれもリヴにとって馴染みのあるものである。
ユーゴ、ロキシルそしてスラーナ。ラクトの所属するパーティー【グラディアス】のものだった。
「恐っ!? 不気味過ぎんだろ何だよソレぇ!?」
かつての知り合いが悲惨で凄惨な姿になっているが、今のリヴにとってユーゴたちの状態など心底どうでも良く、ただただ気持ちが悪かった。
「……とりあえずよぉ!! てめぇはもう心も体も人じゃなくなったつーっことでぶっ殺していいんだよなぁ!?」
「黙れぇ!!! 何を犠牲にしても、俺は強くなるお前を殺す!! そして冒険者の高みへと昇り詰めるぅ!!」
「へっ!! そうかよ!!」
リヴは体を脱力し、少しだけ前傾姿勢を取って態勢を低くする。そして、
「オラァ!!」
回し蹴りを放つ。当然その程度の攻撃ではラクトにダメージを与える事は出来ない。だが、リヴの本当の狙いはそこでは無かった。
「ふん!!」
回し蹴りの過程で、足の裏がラクトの方へ向いた瞬間、彼はこれまで再生していなかった足の切り傷を再生し新たな足を生やし、元の足を押し出した。
「回復キック!!」
足がロケットのように発射され、ほぼゼロ距離でラクトの腹部へ放たれる。
『「はぁ!!」』
しかし、ラクトは器用に剣を操り、リヴの飛ばした足を斬り刻んだ。
「マジかよ……」
あまりの神業に呆れるように溜息を漏らすリヴ。次の瞬間、
「死ねェェェェェェェェェ!!」
細かく刻まれた。
リヴはバラバラの肉の細切れとなり、周辺に散乱する。
『死ねじゃない。とりあえず、はい。これで捕獲完了。このまま君が再生できないように拠点に帰るまでずっと斬り続けながら持ち帰る」
影を司る悪魔は更に頭団子剣の能力を使った。
これは剣を振らずとも斬撃が対象に放たれ続けるというものである。ただし位置や対象の指定に関して条件が少しだけ厳しく、リヴを殺し続けるためだけに特化した能力だ。
リヴは襲い来る無数の斬撃に刻まれ続ける。
あぁ……クソが……もう痛いとかそんな次元越えてるっつの……。
どうすんだよコレ……ラクトさん剣達人みてぇに使うし、影を司る悪魔の方はまだ能力も見せてねぇ。
「ははははぁ!? 勝った勝った勝ったぞ!! やっぱり俺が魔物ごときに後れを取る事なんてあり得ねぇんだぁ!! これがほんとの俺の実力だぁ!!」
『うーん……殺す対象に負の感情があればあるほど強くなれるからこの個体を選んだけど、気持ち悪いな。拠点に帰ったらこれも処理しよう』
傍から見れば奇妙な一人芝居をしているようにしか見えないラクトと影を司る悪魔。
「ちょーしぃ、乗んなよぉ……!!」
『ん? ……これは驚いた。まさかその斬撃の嵐を凌ぐほどの再生力とは』
首から口に掛けて優先的に再生することで再生力を強めるリヴに対し、悪魔は感嘆の表情を見せる。
「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『いくら叫んでも無駄だよ。さっきの君の攻撃をするには射出する部位も再生する必要がある。けど今の君はその首の再生で手一杯、詰みだ。じゃあね』
悪魔は箱を取り出し、開ける。すると斬撃を食らい続けるリヴの肉片が吸い込まれるように箱に入った。
『これですべきことは終わった。後は他の奴らに徹底命令を……』
「よぉ……」
『……え』
直後、悪魔は聞こえるはずの無い声を背後から聞いた。
「随分と、好き勝手してくれたじゃねぇか……おい」
たった今、完全に封じ込めたはずのリヴがそこにいた。
あり得ない。肉片は全てこの箱の中だ……。再生できるワケが……。
そこまで思考し、悪魔は一つの可能性に思い至る。
『まさか、ただの血から再生を……!?』
「はは、ご名答。てめぇはこの期に及んでまだ俺の回復力を侮ってくれてるからよぉ……!! 助かったぜ……!!」
ラクトによる斬撃で細切れになったリヴ。当然その際には血液も飛び散った。リヴはラクトの後方にあった血から再生したのだ。
「じゃあ、死ね!!」
悪魔より悪魔らしく笑うリヴ。彼はまだ、腕を再生していない。腕の断面を、ラクトの背中に押し当てた。
「回復ぶち抜きパンチ……!!」
瞬間、腕の再生がコンマ零点零秒の内に終わる。再生の勢いは凄まじく、新たに生えた腕はラクトの背中を容易に貫通し、新たな手は内部の心臓を掴み抜き取った。
『がぁ……!?』
「はははははははははは!! 俺の勝ちだぁ!!」
ぐぅ……!? あり得ない!! コイツ、今までの【アンデッド】の中でも異質……!! 一先ずこの場を退散して報告を……!!
『……って』
「……逃げられると、思っていたのか?」
突如として現れた『剣士ランキング二位』マルスの言葉に、悪魔は間抜けで素っ頓狂な声を上げた。
は……? 何だ、私が……斬られた……? 一体、どうやって……!?
影を司る悪魔、その存在は常に影を媒介としている。これといった実体を持たず、影の中で生息し、影と影の間を移動する。
この悪魔は不死身というワケではない。他の悪魔と同様に寿命があり、影以外では生息できない。
――だが、結局の所……滅多なことでは殺せない。
だからこそ……悪魔には不思議でならなかった。
「な、何をぉしたぁ……」
「お前を、斬った。簡単なことだ」
き、斬った……? 何を、何を言っているコイツは……!? 俺は実体の無い影だぞ!! それを斬るなど……!!
「俺の魔法は絶対斬。どんなものでも斬ることができる。それが例え概念のような通常触れることができないモノであろうとな」
「ば、バカぁなぁ……!!」
クソ……!! 迂闊だった……!! 完全に戦力を読み間違えていた!! まさか人間側にここまで強い者が多いとは……!!
「このままお前から話を聞いても意味が無さそうだ」
カチャ。
マルスは再び剣を抜き、一秒後鞘に戻した。
――斬斬斬斬斬
『あああぁぁぁぁぁぁぁ!!??』
実体が無いにも関わらず、肉体が斬られる感覚と、それに伴う死が悪魔を襲う。
武器の悪魔によって造られた剣でラクトは達人級の剣の腕前を手に入れた。しかし、ただ単純に『斬る』という動作において、マルスの右に出る者はいない。
理を、輪廻を、運命を断ち斬る彼を前に、『斬れない』事象は存在しない。
影を司る悪魔は、こうして絶命した。
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