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第二十六話VS悪魔④

「ン……?」

 

 植物を司る悪魔はある異変を感じ取った。

 下位悪魔の生命反応が次々と消えていくのだ。

 この悪魔は植物の種子を他者の体内へと埋め込むことで操ることができる。下位悪魔にも例外なくこの種子を埋め込んでいるのだがその目的は操る事ではなく安否確認だ。

 

 種子を埋め込んだ者が死ぬと、その生命反応が消失し種子から送られてくる情報が途絶える。植物を司る悪魔はこれで対象の生き死にを判断していた。


 まぁ、不思議じゃあないか。きっと奴らを殺せる程度には強い者と遭遇したのだろう。


 上位悪魔たちにとって、下位悪魔はリヴを探す捜索隊であると同時に、王都という盤上を荒らす駒に過ぎない。

 彼らを囮にし、敵を撹乱、戦力を消耗させつつ、圧倒的な上位悪魔の力で叩く。至ってシンプルで明快な作戦だが、その有効性は悪魔一体一体が強力であるが故に、あまりにも高い。

 ちなみにだが、大きさを司る悪魔はあまりにも頭が悪いので上位悪魔たちは作戦に組み込まず、好き勝手暴れさせていた。


「さぁてと、俺は俺のやることをしないとなぁ」

  

 植物を司る悪魔は体から生やした根を、王都の地面に着々と広げていた。これにより、いつでもどこでも敵への奇襲が可能となる。


「こんにちは」

「んぅ……?」


 すると、彼に話し掛ける一人の少女が現れた。少女は修道服を纏っており、その所作や一挙手一投足はとても流麗であった。


「お前はァ、ああ……そこそこ強いなぁ」


 植物を司る悪魔は木でできた腕から枝を伸ばし、指状にすると、彼女を指し示す。


「あなたに言われてもあまり嬉しくありませんね」


 呆れたように溜息を吐くラベーナ。


「まぁいいです。とりあえず貴方を無力化して、今後の話を聞きます」

 

 そう言って、彼女は指を絡ませるように手を合わせた。


 何だぁ? あの構えは……。


 悪魔はラベーナに疑問を抱く。無理も無い、彼女からは一切の攻撃の意思が感じられないのだから。


「はっ、まぁどうでもいいか。俺ぁ、コロスダケダ!」


 そう言って笑い、悪魔はラベーナが立つすぐ近くの根を操作する。太い根は地面を突き破り、たちまち彼女の肉体を締め付けるように絡みつく。


「後はこのまま締め付けの強さを上げていけばぁ」

「無駄ですね」

「……はぁ?」


 次の瞬間、悪魔は目を丸くした。

 根が……ラベーナを締め付けていた根が彼女の拘束を緩め、元の地面ばしょへと帰還していったのだ。


 どういうこった? 

 

「……何しやがった、てめぇ」

「何もしてませんよ。……強いて言えば、祈っただけです」


 祈り……? バカな、何を言ってるこの女、そんなモンで俺の攻撃が止められるワケがねぇだろうが。


「嘘だと思うなら、もう少し試しますか?」

「……」


 ラベーナの言葉に、悪魔は目を細め、更に地中の根を操作する。

 地中の根の先端が鋭利な刃物のようになり、それらはラベーナを取り囲むように配置され、悪魔の合図で一斉に放たれた。

 ――しかし、


「……」


 無駄であった。

 全ての根はラベーナの肉体に到達する前に、その動きを止めた。


「おいおいおい、ふざけんなよぉ。マジで当たらねぇじゃねぇかよぉ……」


 悪魔は嘆く。


『聖女ランキング二位』ラベーナ・ミロア。

 聖女とは神に祈りを捧げ、聖なる力を行使する者。その上で、ラベーナは異質だった。


 ――彼女は、神に愛されている。


 聖女は神にへりくだり、ひれ伏し、その上で限定的に神の力を間借りさせてもらう。だが神に愛されている彼女はそうではない。

 神の方から、彼女に力を使ってほしいと懇願してくるのだ。権能を、威光を、与えようとするのである。

 だがラベーナはそこまで恵まれていても、聖女の本懐を忘れてはいない。神が向こうから力を与えようとしても、彼女はそれを拒否し、他の聖女と同じように「祈りを捧げる」というプロセスを経て、神からの力を行使する。


 そして、それによってもたらされる神の力は、他の聖女とは一線を画す。

 与えられた威光により、ラベーナに向かい放たれた根は戦意を喪失し、攻撃することを止めたのだ。


 今の攻撃、どちらかと言うとあの女が根を止めたというより、根の方が自発的に攻撃を止めたように見えた。


「ったくよぉ……それなら」


 地面に這う根による攻撃が全て無駄だと判断した悪魔は、木でできた自身の肉体のを肥大化させ、ラベーナに向かい伸ばす。


「俺が攻撃したら、どうなんのかなぁ!」


 悪魔の判断は正しかった。地中に這う根はラベーナが放つ威光に耐えられない。だが、上位悪魔本体の攻撃であれば、その威光に耐えられる。

 攻撃を中断すること無く、確実にラベーナに当てられる。


「仕方ありませんね。戦いは好かないので、威光のみで納めたかったのですが……」


 ラベーナは拳を握った。そして、


神殴ゴッドパンチ

 

 聖女にあるまじき攻撃名と攻撃手段で、悪魔を迎え撃つ。


 ドガァァァァァァァァァァァン!!


 両者が激突し、そこにはとてつもない衝撃波と爆風が巻き起こった。


「はははははぁ!! いいなぁいいないいなぁ!! 想像以上だぁ、気に入ったぞぉお前!!」

「言ったでしょう……。貴方に言われても、嬉しくありません……!!」


 悪魔は木と密度を強くし、面積を更に延ばす。対するラベーナは神から更に力を与えられ、それに対抗する。

 一歩も引かない、頭の悪い押し合いに、互いの表情は切迫した者となる。


 くっ……!! まさかこの私がここまで苦戦を強いられるなんて……!!


 ラベーナは自分が追い詰められているのを感じた。敵の悪魔は切迫しながらもまだ余力を残しているような表情をしている。だがラベーナにはもう余力は無い。本当に限界を絞り出していた。

 

 確かに彼女は神からの恩恵を幾らでも受けられる。だがその恩恵に対し、耐えられるだけの器が彼女には無い。従って、彼女には出力の限界があるのだ。


 ――これ以上の力を求めるのであれば、対価を払うしかない。


 対価なんて払いたくないですよ。何を要求されるか分かったものじゃないですから。だから……。


「早くして下さい!!」

「っ!?」


 ラベーナの声に、悪魔は目を見開く。そして、好敵手との対峙にいつの間にか彼自身が排除していた選択肢が浮上した。


「あはは!! ごめんごめん!!」


 その声は、上空から聞こえて来た。声を聞いた瞬間、ラベーナは悪魔との押し合いを切り上げ、離脱する。


「いっくよぉー!! 超拳法、鬼乱撃(オーガ・グリッチ)!!」


『拳闘士ランキング一位』スぺによる拳の雨が、悪魔に一心に降り注いだ。


「があああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 スぺの異名、それは『殴り女神』もしくは『神と殴り合える女』。

 ただ単純な殴り合いであれば、彼女は世界一である。


 凄まじい拳撃だぁ……!! だが、俺は……倒せない!!


 植物を司る悪魔、彼の肉体を形成する核は自在に移動が可能。それを破壊しない限り、悪魔は周囲の根を利用し肉体を再生する。


 ――そう、核を破壊しなければ。


「ここ、かな?」

「っ!?」


 悪魔は目を見開く。核を足から地面の根へと移動した直後、数百メートル先から飛躍してきた『僧侶ランキング一位』シンガが魔力砲を放ち抉り取るように、的確に地面を撃ち抜き核を露出、空中へ浮上させた。

 

 シンガはモノの急所を見抜く持つ目を持っている。また、それは生命の終わりを悟ることもでき、目にした人間が想定外の事故に遭遇しなかった場合にどれだけ生きれるのかを数値として見ることも可能だ。


「ふ、っざけるなぁ……!!」


 悪魔は激しく激昂する。そして意趣返しとばかりにシンガの足元の根を操作し、彼を貫こうとした。


 これは不可避、確実に……。


「当たるね。けど、には届かない」


 シンガは体を捻らせ、狙われていた頭部への命中を避ける。しかし、


「……」


 ソレは腕に命中、シンガは右腕を失った。


「あー! よくもシンガさんを!!」

「クゥ……!!」


 空中へと浮上した核を見据え、スぺは再度拳を握り締めた。


「超拳法……究極最強超常巨大インパクトォ!!」


 馬鹿みたいな技名を叫び、スぺは手の平大の核へ向けて一発限りの拳を放つ。それはスぺの技の中で最も威力が強く、全てを破壊する必殺の一撃であった。


「ふざけぇ……るな。やめ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 核のみの悪魔はそう叫ぶ。だが、いくら叫んだところで無意味。根を操作し、装甲を纏おうとしても間に合わない。仮に装甲を纏ったとしても、これから受けるスぺの一撃の前では何の意味も為さない。


「よぉぉぉぉぉぉっとぉぉぉぉぉぉ!!」


 バキィィィィィィィィィィィン!!


「ギャアアァァァァァァァァァァ!!??」


 ガラスの食器が割れたような音が生じた直後、悪魔がこの世から消失する断末魔が響き渡った。



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