第二十四話 VS悪魔②
突如として天から現れた光を司る悪魔の攻撃により、スルガは死亡した。
「愚かな人間たちよ。それに付き従う尊厳を捨てた魔物よ。恥を知り、死になさい」
これまでの中で最も理性の籠っている悪魔はそう言うと、全身が発光し始める。
それが最後通達であり、王都の終わりを告げていることは、冒険者たちの誰もが理解した。
「私有世界」
その時である。光を司る悪魔は一瞬で世界から姿を消した。
◇
「ここは、どこでしょうか」
悪魔は状況を確認する。そこはどこまでも無機質な白色が支配する世界。出入口は無く、悪魔は外界から遮断された。
「貴方は今、私の結界魔法の術中です」
そんな時、不意に現れた少女が悪魔にそう告げる。
「あぁ、これがそうでしたが。それでは貴方がミネヴァ・グローリー様ですね。初めまして。私は光を司る悪魔。名前はありませんので、お好きにお呼び下さい」
「じゃあピカリン」
「ピカリンですか。承知しました」
ミネヴァと呼ばれた彼女の命名した名に、悪魔はいとも容易く順応した。
『魔導士ランキング第一位』ミネヴァ・グローリー。レヴィと違い魔力量に限界はあるが、その総魔力量は世界第三位。そこに圧倒的な魔法の才能が加わり、その強さは歴代魔導士の中でも屈指である。
「さてと、ではピカリン。殺りましょうか」
「野蛮な物言いは好きではありませんが、賛成です。会話は時間の無駄……」
ドゴォォォォォォォォォン!!
「まだ全てを言い終わってはいなかったのですが」
「会話は時間の無駄、なんでしょう」
「もう少し文脈の意図を察し、節度を理解して下さい」
ミネヴァが放った強力な魔力の一撃を光となって避けたピカリンは、少しだけ呆れたように言った。
「ちなみにだけど、この結界は私を殺さないと解除されません」
「本当に好き勝手喋りますね。貴方は」
ピカリンはミネヴァを見据えた。
光を司る悪魔であるピカリンは文字通り光の概念を全て司る。自身の肉体を光と化させ光速で移動することも、攻撃を避けることも可能だ。
また光を高圧縮させた光の砲撃や斬撃の威力は計り知れない。
まさに上位悪魔に相応しい力である。
対するミネヴァはこの悪魔にどう対抗すべきかを模索していた。魔導のトップにいる彼女は全ての魔法ガ使え、様々な攻撃手段がある。しかし、その中でピカリンに有効なものは限られていた。
「暗黒大哮」
ミネヴァが選択したのは、光と対を為す闇魔法の使用。輝く光を黒き闇で覆いつくすつもりだった。
彼女の持つ杖の先端から凄まじい魔力が集約し、小型のブラック・ホールのようなものが形成され、それが解き放たれるようにミネヴァに向かい放たれる。
「闇魔法ですか……」
ピカリンは目前に闇が迫った。
私を一点狙いした攻撃……正直『手段』としては微妙ですね。私が光化して避けているのは彼女の目にも明らかだったはず。
にも関わらず、私に攻撃を当てる気でいるとは……。
「愚かですね」
当然のように、ピカリンはソレを避ける。ミネヴァの攻撃は決して遅いわけではない。大抵の悪魔であれば彼女の攻撃は反応こそすれど、避けることはほぼ不可能。
しかし、相手が悪かった。
「終わりです」
光と化し、ミネヴァとの距離を一瞬にして詰めたピカリン。そのまま確実に息の根を止めるため腕のみを再度光化、剣のようにして彼女の首を切断しようと試みる。
ガキィィィィィィィィィィン!!
「……」
が、ピカリンの攻撃はミネヴァには届かない。光の斬撃は、ミネヴァの張った強固な魔導壁によって阻まれた。
防御魔法。ふむ、中々に強力な壁ですね。ですが……、
ピカリンは腕の光、その密度を上げる。より洗練し、精錬された光の腕が作られ、その威力は指数関数的に向上していった。
そしてある地点に到達した時、ピカリンの光の斬撃が、ミネヴァの魔導壁に亀裂を入れ始める。
「……あら」
二秒後、ピカリンは間抜けな声を上げた。
無理も無い。遂にミネヴァの防御壁を破ったと思った直後、自身の体が斬り裂かれたのだから。
どう、なっているのでしょうか。私は自分に刃を向けたつもりは……。
「完全反射」
ピカリンが血を流した原因はミネヴァの魔法だった。
完全反射、敵の攻撃が当たる前に発動し、発動直前に敵が放っていた魔法による攻撃をそっくりそのまま相手にお返しするという酷く単純だが強力無比な魔法である。
「ふふ、随分と姑息な攻撃手段じゃありませんか」
「光になれるあなたに、まともな攻撃が当たるわけが無い。そんなことは最初から百も承知」
「だからこそのこの魔法ですか……」
ピカリンは傷口を抉るように血を拭う。そして指に付着した血をそのまま口の中へと入れた。
「この味は、忘れないようにしましょう。私という存在が生まれて既に数千年が経過していますが、貴方のような方法で私に傷をつけたのは凡そ初めてです」
「そう。あんまり光栄じゃない」
「そうですか」
「うん」
「……」
「……」
向かい合い、互いを見つめるミネヴァとピカリン。
両者は精神を研ぎ澄まし、相手の一挙手一投足に神経を注いでいた。
その中で、微かに動揺していたのはピカリンの方である。
……一体何なのでしょうか。この娘は。
ピカリンはミネヴァに抱いた印象は、混沌。
軽薄とも、怪奇とも、奇妙とも、不気味とも受け取れるミネヴァ。それらが入り交じり、ピカリンは正確なミネヴァを想起することが叶わないでいた。
――だからこそ、彼女の真意を見抜けなかった。
「っ!!」
「……」
次の瞬間、二人の姿は消えた。至る所で凄まじい激突音と火花が散る。ピカリンの光速移動、とミネヴァの瞬間移動によるものだ。
私の速度にここまでついて来れるとは……。
刹那の刻、ピカリンはミネヴァに感嘆する。
ですが……やはり私にとっては戯れでしかありません。このまま一気に勝負をつける……。
ピカリンがそう思ったその時、
「はい、一分」
ミネヴァがそう呟き、彼女の姿が消えていく。
「……は?」
何が起きているのか分からないピカリン、それに対しミネヴァは口を開いた。
「これは私のオリジナル。結界魔法に条件を課し、それを達成する事で結界魔法を使用した術者が結界外へと出る事ができる。条件に関しては、結界内へ閉じ込めた対象が強ければ強いほど難易度が跳ね上がる」
「……」
「貴方を私の結界内へと一分間閉じ込めておくことが今回課された条件だった。さっきで一分、私は条件を達成し、ここから出る」
淡々と、淡々とミネヴァは語る。
つまりどういうことか、ピカリンは理解した。
「なるほど、貴方は最初から私を殺すのではなく、この結界に閉じ込めるのが目的だったのですね」
「うん。上位悪魔一体でランキング一位五~六人分の戦闘力って聞いた段階で、私はまともに戦闘することは諦めて封印に切り替えた。でも封印魔法じゃあ現実世界と貴方を分断できないからすぐに突破される可能性がある。だからコレを使うことにした。まぁ結界魔法は解除しない限り新しい結界を作れないから私はもう生涯結界魔法を使えないけど、それは仕方ない。じゃあ私は帰る。貴方は私が死ぬまで、ここ」
「……そうですか。なら甘んじて受け入れましょう。この戦い、貴方の勝ちです」
そうしてミネヴァは現実世界へと帰還。『魔導士ランキング一位』の彼女が作った結界はあまりにも強固で結界そのものを攻撃して破壊することはできない。つまり術者本人であるミネヴァを殺し、結界を解除するしか脱出の糸口は無いのだがそれも彼女が結界外へと出てしまったため不可能。
こうして、ピカリンはここから数十年、彼女の結界へと閉じ込めれることとなった。
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