第二十二話 結局俺は
「お、おいユカリ!」
「リヴさんは黙っててください!!」
「あ、はい……」
リヴの言葉も聞かず、ユカリは彼を連れ、家を出た。そうして彼女が連れて来たのは、王都の外ではない。彼女もリヴと一緒に逃亡を図るなど無理だと分かっていたのだろう。
だから、そんな彼女がリヴを連れて来たのは王都を一望できる展望台のある陵丘だった。
「こ、ここは……」
「私が王都で一番だと思ってる場所です。あんまり人が来なくて、人気無いですけど」
そう言うユカリは、景色に見とれているリヴの隣に立つ。
「リヴさん。今の生活……本当に幸せだと、思ってますか?」
「え?」
何だ、どうしたん急にユカリの奴。
「そりゃあもちろん幸せだぜ。美味いモン食えるし、レヴィさんいるし、後はまぁ……お前と一緒にいんのも楽しいし、ベッドでぐっすり寝れるしな」
「っ……あ、ありがとうございます」
リヴの言葉に赤面したユカリはボソボソと礼を言った。
「って私はどうでもいいんです! リヴさんは間違ってます!」
「間違ってる?」
何だ、何か俺間違ってんのか?
「特訓でも、大会でも酷い目に遭って、今度は悪魔と戦うための特訓で酷くなって、きっと……悪魔と戦う時も……。あれだけ痛い思いをしてて、幸せな訳が無いじゃないですか!!」
「……あぁー」
「何ですかその反応! もっと真剣に捉えて下さい!」
「は、はいすんません!」
教師に叱られる生徒のように、リヴは思わずピシッと姿勢を正す。
「な、なぁユカリ。俺は今、結構幸せだぜ? それだけは、ちゃんと言える」
「な、そんなワケないじゃないですか!! 皆リヴさんを巻き込んで、リヴさんを傷つけて……!! ご飯だけで帳消しにできるはずが無いです!!」
「まぁ確かに、腕吹っ飛ばされたり体中に穴開いたりしてクソな気分になることはあるぜ? でもよぉ、それでも俺は続けるぜ。この生活」
「ど、どうして……!!」
「レヴィさんのためだ」
「……」
リヴの言葉に、ユカリは押し黙る。
「最初はよぉ、美味いメシが食えたからデッケェ魔物と戦った。けどな、今の俺はレヴィさんに死ぬほど恋してんだ。レヴィさんと飯食ったり、レヴィさんと風呂入ったり、レヴィさんの胸見るためなら、俺はぁどんだけ痛い思いしたって頑張れるぜ」
笑うリヴ。
それに対し、ユカリはどこか悲しそうな、悔しそうな顔で口元を歪めた。
「はは……やっぱり、敵わないなぁ……」
ユカリは乾いた声で笑い、顔を伏せる。
「だったらもう、私から言えることは無いです」
そう言うと、ユカリは何かを諦めたようにリヴを見上げた。
「最後に、一つだけいいですか……?」
「んあ? 最後って何を……っ」
直後、起きた事態に対し、リヴは目を丸くする。
眼前に広がるのはユカリの顔。視界が彼女で埋め尽くされる。そして唇に伝わる、確かな感触。
――ユカリは、リヴにキスをした。
「レヴィさんに全部取られちゃうのは嫌なので、これだけはもらいます」
「……」
数秒のキスの後、唇から自身の唇を離したユカリは、微笑んだ。そこにいたのは、いつもと変わらない彼女である。
え、何だ……お、俺今……ユカリと……。
口元に手を当て、現実が現実であることを認識するリヴ。
キ、キス……!! 女とキスしたのか今、俺!!
初めて唇に生じた柔らかい感触、鼻腔を擽る花の香り。全てが新鮮なものであり、体験。
「ユカリ、何で俺に……」
自身の恋愛感情は自覚できても、他人の感情の機微は一切分からないリヴ。そんな彼に対し、ユカリは言った。
「……内緒です」
報われないと知った少女の笑みは、何とも儚げで、それでいてどこか満足気だった。
◇
三日後、リヴは悪魔襲来に備え特訓を重ね、Sランク冒険者たちは悪魔がいつ襲撃してきても良いように王都内の守りを固めていた。
まず王都を東西南北で分割し、この四つにそれぞれ戦力を均等に配置。一般人に関しては数百年前の大戦の際に造られた王都内の地下シェルターに避難、もしくは王都外へ一時的に避難させるといった処置が取られた。
今王都の地上にいるのは少数の一般人を除き、冒険者のみである。
「全く疲れるぜ。これじゃあその内神経がすり減って倒れちまう」
「本当だなぁ。毎日毎日神経尖らせて王都内の警備とはよぉ。精神的に参っちまう」
彼らはしがない冒険者の二人。
決して弱いというわけでもなければ強いというわけでもない。
Bランク、普通、一般的。それくらいのレベルの冒険者たちだった。
彼らのような者でも広大な王都を守る上では必要な戦力。ギルドは報酬金を提示する事で、Dランク以上の冒険者全員に王都の護衛の任を課した。
「つってもよぉ。悪魔なんて本当にいるのかよ」
「俺の知り合いがこの前商店街の近くにいたらしいんだけどよぉ。見たらしいぜ。そりゃあもう気味の悪い姿だったらしい。思わず漏れそうになったんだと」
「ははは! そりゃあ傑作だな!」
Bランク冒険者の一人は笑う。笑ってはいるが、強がっているだけだ。
いつ悪魔が襲ってくるのか分からない緊張感は、情緒を崩し、変に気分が高揚させている。
「なぁなぁソイツどんな顔してたんだぁ?」
「あぁ? 知らねぇよ。恐怖で開いた口でも塞がらなかったんじゃねぇか」
「ははははは!! おもろいおももろい!!」
「おいおいテンション高いな。王都の空気にやられちまったか?」
「あはははははははは!! あははははは!!」
「お、おい……」
「ははははははははhhhhhhhhh」
「お、おいって!! どうしたんだよおい!!」
「hhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh」
「お、お前なんだ!? 顔に変な筋が浮き上がって……!!」
「お、俺大丈夫!! 無事!! やられてない!!」
「そりゃあ一歩手前の会話だ!! 俺が聞いてんのは今お前の顔に浮かんでるその……!!」
――ぷぎじゃ。
「……あ」
「あはははははははははhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh」
――ぐしゃ、ぶるしゃ、るしゃるしゃ。
「あ、あぁ……がぁ」
冒険者の一人から突如として生えるように突き出た木の根は、もう一人の冒険者を貫き、養分を吸うように、彼から生命力を吸い取った。
植物を司る悪魔。
友人だと思っていた冒険者は、その枝木の一つであり端末。すなわち、彼は人の世界に溶け込まされ、情報を渡していた操り人形。
『うーん。やはりぃ、新鮮な生命を吸収するのはいいねぇ。さぁてと』
体中から生えた木の根を再び肉体の内部へと引っ込めた悪魔は周囲を見渡す。
『【アンデッド】は、どこかな?』
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