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第二十一話 決戦間近

 冒険者同士の会談が終わり、各々は自身の持ち場やパーティーの元へと戻っていった。


「全く……。それにしてもメチャクチャです」


 帰り道、そう漏らすのは『聖女ランキング二位』のラベーナ・ミロアだ。


「ハハハ、そうさねそうさね。相も変わらずアイツはアイツだったよ」


 ラベーナの憤慨にケラケラと笑いながら、隣を歩くのは『僧侶ランキング一位』。煌びやかな坊主頭が特徴的なシンガである。


「シンガさんはもっと事態に危機感を持って下さい! 今回の一件、全て元凶はあの女のせいなんですよ!?」

「だったらラベーナ、君のバルトルトと同じように彼女を責め立てれば良かったろう?」

「私は無駄なことはしない主義なんです。起こってしまったことはどうしようもない。次に考えるべきはどうそれに収拾をつけるかですから」

「懸命だねぇ。けど、こうして私に愚痴っていることもまた君の言う『無駄なこと』ではないのかい?」

「……どうしようもないと思ってるのは事実です。けど、だからといってあの人に対する怒りが無いわけじゃありません。こうして愚痴るくらい、許してください」

「……ハハハハハ! 素直でよろしい! 私は素直な子が好きだからねぇ。そうやってたまに本音を吐けるのは君の美徳だ。聖女には中々君のような子はいない。誇ると良い」

「あ、ありがとうございます! じゃ、じゃなくて! シンガさんには危機感が無いんですか!? 悪魔の襲撃なんて……」

「無いねぇ」

「ど、どうして……?」

「そりゃあ勿論、レヴィがいるからさ」

 

 シンガの言葉に、ラベーナは顔をしかめる。


「これから始まるのは我々冒険者対悪魔の軍勢。この戦い、恐らく多くの犠牲が出るだろう。けど、最終的に勝つのはこっちだ」

「そんなにも……あの女は強いのですか? 私は、正直あの女のことが信用できません。今回の件は勿論ですけど、それ以前に彼女が真面目に戦っているのを、私は見たことが無い。噂も良く耳にしますが、正直荒唐無稽すぎて……」

「ははは、ラベーナ。君は天才で聖女の職を極めたった一年で『聖女ランキング一位』の座に就いた女だ。レヴィの強さを噂でしか聞いていないのは理解しておるよ。けど、知っておいてくれ。彼女は噂通り強い。……いや、噂以上と言うべきかなぁ」


 シンガは目を細める。


「では、あの噂は本当なんですか……? あの女は、レヴィ・ディザストは……『魔力が無限』というのは」

「あぁ、そうだね」


 レヴィ・ディザスト。

 この世で唯一、際限の無い魔力を持つ者。生まれた瞬間から最強の称号を得た者だ。

 彼女はどれだけ魔力を消費しても魔力切れを起こす事は無い。だから彼女は最強なのである。

 魔物との主従契約により魔力の何割かを使えなくなるという制約は、彼女にとっては意味を為さない。

 どんな基本的な魔法も、彼女は規格外にして理屈外の魔力量を消費してそれらを行使する。強化魔法であれば人智を越えた凄まじい身体能力を得る魔法になり、回復魔法であればどんな損傷も回復する魔法へと昇華する。


 何度でも言おう。

 だから、レヴィ・ディザストは最強なのだ。


 よって、近い内に巻き起こる悪魔との決戦に……敗北の二文字はあり得ないのである。



「バサラァ!! メシくれメシくれ!」

「うるさい。今作っているから待ってろ」


 レヴィとのデートが悪魔の襲来によって潰された翌日、リヴはレヴィの命により再び特訓をすることになった。

 それに際し、今回は王都内にある一軒家を根城ねじろにし、更に近くにある訓練場を貸し切っている。

 何故今回は王都内なのかと言えば、悪魔の襲来があるからだ。


「はい、どうぞリヴさん」

「サンキューユカリ!」


 バサラが作り、ユカリが配膳した料理をリヴは食べ始める。


 バクバクバクバクバク、リヴは美味しそうに料理を食べる。前回の特訓の時にバサラが料理を作り、その味も保証されていた。


 バキ。


「ん?」


 食事を体内に入れた瞬間、リヴは体に異変を感じる。


「あ、あがぁぁぁぁぁぁ!?」

「リ、リヴさん!?」


 突如としてその場にのたうち回るリヴに、ユカリは心配そうに駆け寄った。


「寄るなユカリ」

「お、お兄ちゃんこれは……!?」

「お、おいバサラてめぇ……!! 何か俺にやべぇモン食わせただろ……?」

「正解だ。お前が食べたのはこの世で最も毒性を含んだドベルダガーの肉に、その他いろいろな猛毒品をペースト状にして練り込んだ逸品だ」

「ふ、ふざけんじゃぁ……ねぇ……」

「レヴィさんの命令だ。『もっとお前を強くしろ』ってな。『魔奏遊』で戦い方を理解したようだが、まだ足りない。再生能力をもっと向上させて自在に操れるようにするために、お前にはこれから毎日毒物で食事を摂ってもらう。これが俺の考えた特訓メニューその一だ」


 は、はぁ……? 何言ってんだコイツ、頭がおかしくなってんのかぁ!? こんなモン毎日食ってたら死んじまうって……俺死なねぇけど!! ってちげぇ、その前に頭がおかしくなるわ!!


「拒否権は無い。レヴィさんの役に立ちたいんだろ? なら大人しく俺の言う事に従え」

「があぁぁぁぁぁ!?」


 バサラによって、腕と足を潰され、更には腹部に何度目か分からない穴を空けられ、リヴは叫ぶ。


「……」


 朧げな目つきでリヴはバサラを見る。毒によるダメージは既に回復したし体も再生した。だが、それでも『食』というリヴの絶対的なオアシスに侵入されたことに対するショックが、彼の立ち直りを遅らせた。


「お兄ちゃんまたこんな乱暴な真似……駄目だよ!!」

「どけユカリ、俺はコイツを……っ」


 変わらぬ口調で妹を宥めようとするバサラだったが、彼は思わず目を見開く。

 ユカリが、彼の頬をはたいたからだ。


「私、こんなことするお兄ちゃん。好きじゃない!! 嫌い、大嫌い!! リヴさんは折角レヴィさんのためにあんなに頑張ったのに、またこうやって傷ついて……そんなのあんまりだよ!」

「……」

「い、行こう。リヴさん」

「行くって、どこに……」

「どっか!!」


 いつもとは違う、ユカリの有無を言わさない気迫に圧され、リヴはユカリと共に部屋を後にしようとする。


「無駄だ。レヴィさんと主従関係にある俺達はどこにいようとその場所が分かる。それにソイツは今回の件で王都から出る事はできない」

「うるさい!」


 バサラの言葉を無視するように、ユカリはバタンと勢いよくドアを閉めた。


「……はぁ」


 ユカリとリヴが出て行った部屋で、バサラは一人溜息を吐きその場に座り込む。


「バカか、俺は……」


 バサラは目を伏せ、言葉を漏らす。

 彼は嫉妬していたのだ。どれだけ辛い目に遭っても、のうのうと楽観的に、お気楽に生きているリヴに。

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