第十三話 ユカリの恋心+【SIDEラクト】理不尽な悪意
その後も、リヴは持ち前の再生能力と格闘技術を生かし、決勝に向けてコマを進めて行った。
獣人、オーガ、オーク、ゴブリンを相手取り、そのいずれも本来ならば死ぬであろう損傷を受けながら彼は勝利したのだ。
「つ、次はいよいよ準決勝ですね! リヴさん」
「おぉ! 今ならどんな相手が相手でも負ける気がしねぇ!!」
「リ、リヴさんならきっと勝てますよ」
「へへ、まぁ客席から見ててくれよ!」
「はい……! あ、そうだ。もうお昼なのでよければ……」
ユカリはそう言って、恐る恐るリヴの前に大きな弁当箱を差し出した。
「うぇ!? これ俺にくれんのか!?」
「は、はい! 今日早起きして作ったんです。お口に合えばいいんですが……」
「マジかよいっただっきまーす!!」
リヴはユカリの用意した弁当に手を付ける。
「うん……うんうめぇ!! 最高だぜユカリ!!」
「ほ、本当ですか……!? よ、良かったです……」
リヴの言葉に、ユカリは安堵したように息を漏らした。
実際の所、リヴはついこの間まで質素でマズい食べ物しか食べて来なかったので基本何でも美味しく感じるため、彼に美味しいと言わせるハードルはとてつもなく低いのだが、とにもかくにもユカリは喜んだ。
「おい、だから俺の妹と無駄に親しくするな」
「ん?」
「わぁお兄ちゃん!?」
突然リヴとユカリの間からにゅっと首を出したバサラに対し、ユカリは驚く。
「……」
バサラはユカリの用意した弁当を美味しそうに頬張るリヴをも見る。そして、
「おいユカリ。ひょっとしてだが、リヴに気があるんじゃないだろうな?」
「っ!? ちょ、いきなり何言ってるのお兄ちゃん……!!」
「気ぃ? 何言ってんだバサラ」
『気がある』の意味が分からないリヴは、バサラにそう聞き返す。
「リ、リヴさんは気にしなくていいです! ちょ、ちょっとお兄ちゃんこっち!」
ユカリはバサラの手を引っ張り、リヴから離れた。
「何であんなこと言ったの!」
「何でって、そう思ったからだ。そして兄として、奴に好意を抱くなどという愚かな真似は防がねばならない」
「だ、だから私は別に……」
「嘘を吐け。ならば何故奴に弁当など用意した。お兄ちゃんにだってあんまり作ってくれないじゃないか」
「そ、それは……」
ユカリは、完全に見透かされていた。
そう、バサラの言う通り彼女はリヴに好意を抱いている。
何故こうなったのか、理由は一週間ほど前に遡る。
◇
『リ、リヴさん。お疲れ様です』
『おーユカリ。タオルサンキュー』
実戦によってリヴを鍛えるバサラに対し、ユカリはリヴとバサラのサポートに回っていた。
この時はまだ、ユカリにリヴへの好意は存在していなかった。
『……なぁユカリ』
『は、はい? 何ですか……?』
『その頭の角……どうなってんだ?』
『……っ』
リヴの指摘に、ユカリは反射的に額を触り角を隠そうとするが、隠せるほどの大きさではない。
彼の言う通り、ユカリの角が生えている位置は少し特殊だ。彼女は一本角であるにも関わらず、額の右寄りにソレが生えているのである。
『こ、これは……あの……』
ユカリは酷く言い淀む。理由はもちろん、言いたくないからだ。
『……ま、別に言いたくねぇならいいや』
リヴはユカリの様子を見て、そう言った。
別に気を利かせたとかそういうわけではない。ただ単純に、ユカリが言いたくないならそれでいい、と純粋に思ったからである。
そこに気遣いや、理由への好奇心を抑えているといったことは一切無い。
『ただよぉ。カッケェなって思ったから何となく聞いてみたんだ』
『……カッコ、いい?』
予想外の言葉に、ユカリは思わず言葉を反芻する。
『おぉ! なんつーんだ。えーと、アンバランス!! それがいい味出してるって感じで!』
貧弱なボキャブラリーを必死に酷使しながら、リヴはユカリに言葉を掛けた。
『……』
その言葉に、ユカリは気付けば涙を流していた。
『うぇ!? お、おいいきなりどした!?』
『い、いや違うんです……これは……!』
突然泣き出したユカリに対しリヴは戸惑う。しかしユカリの涙は止まらなかった。
初めて言われた『カッコいい』という言葉は、彼女の心に深く突き刺さったのだ。
◇
などと言ったやり取りがあり、ユカリはリヴに仄かに好意を寄せているのである。
「一応言っておくが、リヴの好意はレヴィさんに向いているんだぞ?」
「……そ、そんなの分かってる」
顔を沈ませるユカリ。
無論彼女も理解していた。リヴは声を大にしてレヴィが好きだと言っていたし、そこに自分の入る余地が無いのも痛感している。
「くっ……妹にこんな顔をさせるとは、やはり一発腹を貫通させておくか」
「だ、だから駄目だってばぁ……!」
悲しそうなユカリの表情を見て、凶行に走ろうとするバサラをユカリは必死に止めるのだった。
◇
「いよいよ準決勝か」
場所は別の控室。そこではリヴの次の対戦者であるグリフォンと、そのテイマーであるラクトがいた。
「次の相手のテイマーは『ナナシ』って奴と、使役してるのは【アンノウン】の『リーヴ』だって」
「【アンノウン】? 何だそれは」
ロキシルが言った次の対戦相手の情報に、ラクトは顔をしかめる。
「仮面やローブで姿は見えなかったが、中々の戦いっぷりだった。準決勝まで来たことを考えると、中々に強力な魔物か亜人だろう」
「そうですわね。ラクト、お気をつけて」
ユーゴもスラーナも、この間排除したばかりのリヴを強敵認定していることに気付いていなかった。
「当然だ。準決勝、ここからが本当の勝負と言って良い」
――まぁ相手が誰であろうと、このグリフォンの敵ではない。俺はここで優勝し、最強のテイマーへの足掛かりとする。
そして……。
ラクトが思い浮かべるのは、ついこの間まで自身がテイムしていたリヴの顔。
レヴィ・ディザストにテイムされ、いい気になるなよリヴ……!! 必ずお前は殺す……!! 俺に恥をかかせたことを……後悔させてやる!!
理不尽極まりない私怨も良い所だが、今のラクトにはそれに気付くだけの知性も冷静さも無い。
いや……そもそもの話、自分を鑑みるということ自体、彼はしたことが無かった。
ともかく、リヴとラクトの戦いは刻一刻と迫っていた。
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