85話
昼下がり、ローズマリー様とマリアンヌ様と、新しくできたケーキ屋に集まっていた。
「ん〜! 美味しい」
マリアンヌ様が、輝くような笑顔でケーキを頬張る。
そのあまりに無邪気な表情が可愛らしくて、思わずローズマリー様と顔を見合わせ、くすりと笑い合った。
公爵夫妻と話をしてから、数日後のことだ。
先のお茶会で約束した通り、ローズマリー様からお誘いの手紙が届いた。
私の知らない繋がりがあってはいけないと思い、公爵夫人に相談すると、夫人は嬉しそうに微笑み、快く送り出してくれた。
そのとき、夫人は私の手を取り、優しく諭すように言った。
『荒波の社交界を生き抜くには、信頼できる友人が大切よ』
その言葉を思い出しながら、目の前の二人を見る。
明るく笑うマリアンヌ様。
穏やかに微笑むローズマリー様。
三人でお茶を囲むこの時間は、とても心地よかった。
――もし、“友人”と呼ぶことが許されるのなら。
私はこの関係を、大切にしたい。
胸の奥で、そう静かに思った。
「ところで……」
ローズマリー様は手にしていたカップを静かに置き、楽しそうに微笑んだ。
「マリアンヌ様、例の騎士様とはどうなりましたの?」
以前のお茶会で話題になった、マリアンヌ様お気に入りの騎士の話。
私も気になって、思わず身を乗り出してしまう。
その様子に、マリアンヌ様はぱっと頬を赤く染めた。
「聞いてくれますか?……実は、今度一緒にお茶をしに行く約束をしたんです!」
「まあ!それは詳しく聞かなくてはいけませんね」
ローズマリー様に同意を求めるように視線を向けられ、思わず頷いた。
「へへへ」
それから私たちは、マリアンヌ様の話に花を咲かせた。
一緒に笑い、一緒に心を躍らせる。
その時間は、とても楽しかった。
「はぁ……たくさんお話しましたね」
「ええ。本当に楽しい時間でした」
満足そうに呟くローズマリー様に、私も微笑んで頷く。
高く昇っていた太陽は、いつの間にかオレンジ色を帯びている。
ポットのお茶も、たくさん頼んだはずのケーキも、すっかり空になっていた。
そんな中、マリアンヌ様が、少し照れたように手をもじもじさせながら顔を上げる。
「私……こんなに楽しくお話するの、初めてです」
その言葉に、私は思わず目を瞬かせた。
明るいマリアンヌ様には、友人がたくさんいるのだろうと、勝手に思っていたから。
「私もですよ。……社交界は、腹の探り合いですから」
そう言って、ローズマリー様は少し疲れたように笑う。
二人も、同じ気持ちを感じていたのだと知り、胸が温かくなる。
「あ、あの……!私も、こんなふうに……友人みたいに過ごせる時間、初めてです!」
思いを伝えたくて、勢いよく口を開くと、二人は顔を見合わせ、くすりと笑い合った。
「もう、“友人”ですよ!」
「ええ。そうですね」
三人で微笑み合い、手を取り合う。
その温もりに、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「それじゃあ、またお茶しましょうね!」
「ええ。今度は私の家に招待するわ」
「た、楽しみにしてる」
友人なのだから、と砕けた口調で話そうと言われたものの、慣れないせいか言葉に詰まってしまう。
けれど二人は、そんな様子も気にせず、嬉しそうに微笑んでくれた。
手を振り合い、それぞれ迎えの馬車に乗り込む。
動き出した馬車の中、私はそっと目を閉じる。
――“友人”
その言葉を、胸の奥で何度も噛み締めながら。




