幕間
部屋に入ると、椅子に身を沈めた。
フィオナを馬車まで送り届けたあと会場へ戻ると、すでに騒動は収まっていた。
ロベリア王子がうまく処理してくれたのだろう。
ロベリア王子とラシード王子に謝罪に向かうと、二人は何事もなかったかのように笑ってくれた。
その度量の大きさに、ただ救われる。
――その後、父からは深夜まで説教を受けることになったが。
時計に目をやると、すでに夜は更けている。
フィオナは今頃、眠りについているだろうか。
雨に濡れて、体調を崩してはいないだろうか。
自分で選んだことなのに、側にいない彼女が恋しい。
けれど、あのまま一緒にいることはできなかった。
レオリオの腕の中にいたフィオナ。
思い出すだけで、胸の奥から黒い感情が湧き上がる。
恐怖。
嫉妬。
焦り――そして、抑えきれない怒り。
二人の姿を見た瞬間、彼女を奪われる気がして、怖かった。
フィオナが、かつてあの男に向けていた想いを知っているから。
あの腕の中で、ときめく彼女を想像すると嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
そして――
震えるフィオナの姿を見た瞬間に湧き上がった、激しい怒りと……安堵感。
「……最低だな」
ひとり呟き、乾いた笑みが漏れる。
怯え、震える彼女を見て、レオリオにはもう想いがないのだと知り、安堵している自分。
殴りつけたのは、あの男か。
それとも――自分自身か。
こんな醜い感情を抱えたまま、彼女の側にはいられなかった。
他の男の痕跡を消したくて、彼女の意思を無視してでも、すべてを自分のものにしてしまいそうで。
「本当に、最低だな……」
抑えきれない感情を押さえ込むように、両手で顔を覆い、俯く。
『……エル』
名を呼ばれた気がして顔を上げると、机の上に座るひよこと目が合った。
そっと手に取り、口付ける。
フィオナと同じ、金色の毛並み。
「フィー……」
名を呟くだけで、胸が締め付けられる。
きっと彼女は、自分を責めているだろう。
矢を自分に向けてしまう、あまりにも優しい人だから。
もしかしたら、今も涙に濡れる夜を過ごしているかもしれない。
ひよこをそっと元の場所に戻す。
――日が昇ったら、公爵邸へ帰ろう。
今すぐ抱きしめたい衝動を胸に押し込めたまま、ゆっくりと瞳を閉じた。
そこに浮かんだのは、柔らかく微笑むフィオナの姿だった。




