79話
久しぶりに会うレオリオは、どこか影を落とした表情をしていた。
太陽のように明るく笑っていた彼の姿が脳裏に浮かび、胸の奥がざわつく。
「フィオナ……」
名を呼ばれ、はっと我に返った。
――まだ私は、レオリオを前にすると心を乱されてしまうのか。
そんな自分が、情けなかった。
けれどこの薄闇の中で男女が二人きりでいるところを見られれば、何を言われるか分からない。
とにかくレオリオから離れたくて、私はテラスを出ようと彼の横をすり抜けた。
しかしレオリオに腕を掴まれ、足が止まる。
「レオリオ、離して」
そう告げても、その手は緩まない。
室内へと視線を走らせる。
今は誰もこちらを気に留めていないが、いつ見られるか分からない。
私はもう、アディエルの婚約者として正式に紹介されたのだ。
私の醜聞は、そのままランフォード公爵家の体面を傷つけてしまう。
それに、レオリオだってセレーナと婚約したはずだ。
互いにとって、良いことなど一つもない。
「フィオナ。…君に会いたくて、追ってきたんだ」
その言葉に、視線が揺れる。
かつてなら胸が高鳴ったはずの言葉が、今はただ困惑を生むだけだった。
「……とにかく、手を離して。レオリオ」
そう言うと、ようやく腕が解放された。
けれど、出口の前に立つレオリオは、道を譲るつもりはなさそうだった。
せめてもの距離を取ろうと一歩下がると、レオリオの瞳が、悲しげに揺れたような気がして、私は思わず視線を逸らした。
「セレーナは、どうしたの?」
舞踏会に彼一人で来ているとは思えず、そう尋ねるが、彼の表情は依然として暗いままだった。
「セレーナは……セレーナとは最近、会ってないんだ」
その言葉に、思わず眉を寄せる。
あれほど、いつも一緒にいたのに…。
けれど、それはもう、私には関係のないことだ。
二人のことは二人で解決すればいい。
「あの……アディエルは、セレーナと会っているのかな?」
レオリオの伺うような呟きに、かっと熱が上がった。
アディエルは、婚約者がいながら他の女性と会うような、不誠実な人ではない。
アディエルを軽んじられたような気持ちになり、怒りが滲む。
「アディエルは、そんな人じゃない」
睨みつけると、レオリオは慌てたように視線を彷徨わせた。
アディエルは、人を傷つけるような人じゃない。
――けれど。
彼の胸の内は、本当のところ誰にも分からない。
軽率な真似をするとは思えないが、アディエルのセレーナへの想いは、私には分からないのだ。
喉の奥が締めつけられるように苦しくなる。
アディエルのもとへ行きたい。
いつもの様に、抱きしめてもらいたい。
けれど、そこにアディエルの気持ちはあるのだろうか。
私は、彼に何を求めているのだろう。
私はそこで考えるのを止め、辿り着きそうな答えから慌てて目を逸らしたのだった。




