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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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77話


「フィオナ、起きて」


アディエルの声に、ゆっくりと目を開ける。


「アディエル……おはよう」


欠伸を噛み殺して挨拶すると、アディエルは優しく私の目元を撫でた。


「……夜更かししちゃったね」


悪戯をしたような笑顔に、思わずこちらも頬が緩む。


昨夜はあれから、いろんな話をした。


アディエルが訪れた国の話。

いつか行ってみたい国の話。


見たい景色に、食べてみたい料理。


話は尽きることなく、気がつけば日付はとっくに変わっていた。


ふと、アディエルの腕に抱かれていることに気付く。

昨日もそうだったが、離れて眠ったはずなのに、目を覚ますと腕の中にいる。


「……もしかして、アディエルって寝相悪いの?」


思いついた疑問をそのまま口にすると、アディエルは一瞬動きを止め、盛大に笑い出した。


「はははは。うん、そうだね。“僕の”寝相が悪いのかもしれない」


涙を浮かべて笑う姿に、私は首を傾げることしかできなかった。




支度を終えて一緒に朝食をとり、仕事へ向かうアディエルを見送る。


入れ替わるように、今夜の舞踏会の準備のため、レイラとマーシャが部屋を訪れた。


二人は昨日から、公爵家とここを行き来しながら準備を手伝ったくれた。


仕事を増やしてしまった申し訳なさはあるけれど、今日で終わると思うと、少しだけ肩の力が抜けた。





空がすっかり暗くなり、星が輝き始めた頃。


舞踏会の支度を終えた私のもとへ、アディエルが帰ってきた。


出迎えると、彼は嬉しそうに微笑む。


「うん。そのドレスもよく似合っている」


その言葉に、自分の姿へ視線を落とした。


今日は、深い紫のドレス。

胸元には宝石が散りばめられ、灯りを受けてきらめいている。


ふんわりと広がるスカートの裾は、シフォン生地が幾重にも重なり、動くたび柔らかく揺れた。


これも、アディエルが用意してくれた一着だった。




アディエルの支度が終わるのを大人しく待っていると、衣装部屋の扉が開いた。


現れたアディエルは、柔らかい前髪を後ろへ撫でつけている。

いつもとは違うその雰囲気に、胸が高鳴った。


「行こう」


差し出された手を、そっと取る。


最後の舞踏会だと思うと、胸の奥に小さな寂しさが芽生えた。


ふと振り返ると、ひよこのぬいぐるみが目に入る。


あの子は、これからもここへ連れてきてもらえるのだろうか。

そう思うと、少しだけ羨ましい。


……同じ名前を持つ、ひよこ。


『フィー』


その名を呼ぶアディエルの声が、ふいに耳に蘇る。


急に、呼んでほしくなって、私はアディエルの耳元へ、そっと囁いた。


「……エル」


アディエルの動きが、ぴたりと止まる。

恥ずかしさに俯くと、すぐそばに彼の気配がした。


「……フィー」


耳に触れる囁きと吐息に、全身が熱を帯びる。


顔を上げられないまま、私は自分の大胆な行動を少しだけ後悔したのだった。



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