7話
アディエルと話し合った結果、
――“普段しないことをしよう”
そう決まり、二人で城下町へやって来た。
通りには無数の屋台が並び、香ばしい匂いと人々の笑い声が入り混じっている。
街灯の灯りが揺れ、石畳にあたたかな影を落としていた。
「こういう場所、来たことある?」
隣を歩くアディエルが、少し楽しそうに尋ねる。
「ううん。初めて」
答えながら、目に入るものすべてが物珍しくて、私はきょろきょろと辺りを見回していた。
少しでもセレーナに近づきたくて、彼女の行動を真似してきた。
美術館や図書館、貴族が集う場所――
私が足を運ぶのは、そんなところばかりだった。
初めて訪れるこの場所に、胸が高鳴る。
「じゃあ、まずはこれ」
アディエルが立ち止まったのは、焼き鳥の屋台だった。
炭火で焼かれた肉が、じゅう、と音を立てる。
「え……これ、手で食べるの?」
「もちろん」
当たり前のように言って、串を二本受け取るアディエル。
そのうち一本を、私に差し出してきた。
恐る恐る受け取り、かじる。
香ばしさと程よい塩気が、口いっぱいに広がった。
「……おいしい」
思わずこぼれた言葉に、アディエルが満足そうに笑う。
「でしょ。堅苦しい食事より、こういうのも悪くない」
そう言いながら、彼は楽しそうに串を頬張る。
その姿が新鮮で、つい目を奪われた。
その後も、甘い菓子を買ったり、見世物を覗いたり。
射的の屋台では、アディエルが意外にも真剣な顔で銃を構え――
「……あ」
的を外した瞬間、悔しそうに眉を寄せる。
「え、今の外すの?」
「笑わないで。これ、意外と難しいんだから」
拗ねたような声に、思わず噴き出してしまった。
「ふふ……アディエル、子供みたい」
「ひどいな。まあ、否定はしないけど」
二人で笑い合い、もう一度挑戦する。
今度は見事に命中し、小さなクマのぬいぐるみを手に入れた。
「はい」
そう言って渡されたそれを、私は両手で受け取る。
「……いいの?」
「うん。今日の戦利品」
「ありがとう」
受け取ったクマのぬいぐるみをそっと胸に抱く
――そのとき、ふと気づいた。
レオリオのことを、考えていない自分に。
胸を締めつけていたはずの痛みも、
セレーナと並ぶ姿も、今は思い浮かばない。
楽しい。
ただ、それだけだった。
(……でも)
どんなに笑っていても、
どんなに心が軽くなっても。
初めて名前を呼ばれた日のこと。
リボンを褒められた日のこと。
「お姫様みたいだね」と笑った、あの眩しい顔。
それらは、目を閉じれば鮮明に思い浮かぶ。
(……やっぱり、レオリオが好き)
「フィオナ?」
立ち止まっていた私を、アディエルが振り返る。
「……ううん、なんでもない」
首を振り、私はもう一度歩き出す。
今は、楽しいままでいよう。
また胸が痛んでも。
私は、この瞬間を笑っていたかった。




