72話
その後も、ローズマリー様とマリアンヌ様と、楽しくお喋りに花を咲かせた。
好きな本の話や、流行りの菓子。
マリアンヌ様お気に入りの騎士の話。
女性同士の会話で、こんなにも笑ったのは初めてかもしれない。
これまで、貴族の女性といえば、母やセレーナとしかまともに話したことがなかった。
自分の世界が、いかに狭かったのかを、改めて思い知らされる。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていき、お茶会は終わりを迎えた。
名残惜しい気持ちを持て余していると、ローズマリー様がそっと声を掛けてくれる。
「もしよろしければ……また、三人で集まりませんか?」
「あ!それなら、新しく出来たケーキ屋さんに行きましょう!」
マリアンヌ様も、ぱっと表情を輝かせて加わった。
まさか、そんなふうに誘われるとは思っていなかった私は、思わず驚いて目を瞬かせてしまう。
「……ご迷惑かしら?」
眉を下げるローズマリー様に、慌てて首を振った。
「い、いえ!とても嬉しいです……まさか、誘っていただけるとは思っていなくて……」
正直にそう答えると、ローズマリー様もマリアンヌ様も、ふっと笑みを深めた。
「実は、前からフィオナ様とお話ししてみたいと思っていたんです」
「そうそう!……でも、お茶会にいらっしゃるのは、いつもセレーナ様だけでしたから……」
その言葉に、また胸を打たれる。
皆、セレーナと話したいと思っているものだと、思い込んでいた。
自分と話したいと思ってくれる人がいるなんて、考えたこともなかった。
初めてのお誘いに、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「……ぜひ、行きたいです」
しっかりと頷くと、二人は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔につられて、私の頬も自然と緩む。
「では、お手紙をお送りしますね」
三人で再会の約束を交わしていると、会場にざわめきが広がった。
何事かと視線を向けると、そこにはアディエルの姿があった。
きょろきょろと視線を彷徨わせ、私と目が合った瞬間、ほっとしたように表情を和らげる。
令嬢たちに声を掛けられても、ほとんど応じることなく、真っ直ぐこちらへ向かってきた。
「あらあら」
ローズマリー様の楽しそうな笑い声が聞こえ、なんだか妙に恥ずかしくなる。
「もう終わる頃かなと思って、迎えに来たんだ」
私の前に辿り着いたアディエルは、優しく微笑んだ。
背後から、ローズマリー様とマリアンヌ様の視線を感じて、背中がむず痒くなる。
「今日はありがとうございました。また、お会いしましょう」
振り返って別れの挨拶をすると、二人もにこやかに応じてくれた。
そして、ローズマリー様がそっと近付いて、耳元で囁く。
「今度、小公爵様とのお話も聞かせてくださいね」
その後ろで、マリアンヌ様もこくこくと頷いている。
恥ずかしさに頬が熱くなるけれど、私は小さく頷いたのだった。




