71話
「フィオナ様、こちらにお座りになって」
陽射しが降り注ぐ王宮の庭園。
ここでは、滞在中の令嬢たちを招いたお茶会が催されていた。
今まで、どうしてもセレーナと比べられることが嫌で、お茶会に参加するのを避けてきた私は、緊張から手のひらにじんわりと汗をかいていた。
けれど、こちらに向けられる視線は友好的で、胸の強張りが少しだけ解けた。
朝、目を覚ました時、私はアディエルの腕の中にいた。
驚いて身を離そうとしたけれど、なかなか放してくれない。
寝ぼけているのかと思ったが、アディエルの肩が小さく震えているのを見て、ふざけているだけだと気付いた。
その後、二人で朝食を取り、アディエルはサハル王国一団と視察に出かけるとの事なので、私はその間に公爵家へ帰ろうとしたのだが、アディエルに説得され、最終日までこのまま王宮に滞在することになった。
アディエルが支度をしているのを眺めていると、王宮に仕える侍女が、お茶会の案内を携えて部屋を訪れた。
滞在中の令嬢たちが退屈しないように催されるものだと聞き、どうしようかと迷ったが
「行ってみたら?」
と、アディエルのその一言に背中を押され、こうして足を運んだのである。
「フィオナ様、昨夜は素敵でしたわ」
隣に座る令嬢――ローズマリー・モンテーヌ伯爵令嬢が、少し頬を染めて口を開く。
昨夜、というのは舞踏会でのことだろう。
「私も、あんなふうに踊ってみたいです」
そう言ったのは、マリアンヌ・シャンデル子爵令嬢だ。
二人は、会場に着いた私を同じ席へと招いてくれた。
夜会で何度か顔を合わせたことはあったが、挨拶を交わす程度で、こうして会話をするのは初めてだった。
けれど、しばらく話すうちに、くるくると表情の変わるマリアンヌ様と、落ち着いて大人びたローズマリー様は一緒にいてとても心地が良い人達だと知る。
「それにしても……」
マリアンヌ様が、にやにやと意味深な笑みを浮かべて口を開く。
「小公爵様が、あんなに嫉妬深い方だなんて、思いませんでした」
「……え?」
「いつも穏やかな印象でしたから。あんなふうに感情を出されるなんて……ねぇ」
ローズマリー様も、楽しそうに頷いて同調する。
けれど、私には今ひとつピンとこなかった。
二人は、どんな場面を見てそう思ったのだろう。
――そもそも、アディエルが嫉妬するような理由があっただろうか。
首を傾げていると、二人は顔を見合わせた。
「フィオナ様……」
口を開きかけたマリアンヌ様を、ローズマリー様がそっと首を振って制する。
「ふふ。マリアンヌ様、外野は野暮なことはせず、見守りましょう」
「……そうですね!」
「小公爵様が、少しだけ不憫ですけれど」
二人は楽しそうに頷き合うが、置いていかれた私は、ますます首を傾げるばかりだった。




