幕間
静まり返る室内。
響いているのは、フィオナの寝息だけだ。
少し身動ぎすると、回された腕にきゅっと力が入る。
……どうして、こうなってしまったのか。
目を閉じたフィオナは、すぐに寝息を立て、眠りに落ちた。
フィオナが眠ったらソファへ移ろうと思っていたはずなのに、寝顔があまりにも可愛くて――もう少し、あと少し、と見つめ続けてしまった。
それが、良くなかった。
姿勢正しく横になっていたフィオナは、ふいに寝返りを打ち、そのままこちらに抱きついてきた。
距離を取ろうとしたが、逃がさないと言うように腕に力を込め、足まで絡めてくる。
布団の中がどうなっているのか――
一瞬よぎった考えを、慌てて頭を振って追い払った。
そのまま眠れるはずもなく、どれほどの時間が経ったのか分からない。
目を閉じると、浮かぶのはフィオナの姿ばかりだ。
自分が選んだドレスを纏う彼女は、眩しいほどに美しかった。
誰にも見せたくないような、けれど見せびらかしたいような、胸に混じる独占欲と、かすかな優越感。
ふと、二人の王子の顔が脳裏をよぎり、無意識に眉を寄せる。
タイプは違えど、女性の扱いに長けた二人だ。
できることなら、フィオナに会わせたくなかった。
それでも――
彼女は変わらず、僕の隣にいてくれた。
その事実に安堵しながらも、不安が完全に消えることはない。
臆病な自分に、思わず苦笑が漏れた。
そっと髪を撫でると、くすぐったいのか、フィオナは顔を擦り寄せてくる。
安心しきった寝顔。
憎らしくて、そしてどうしようもなく愛おしい。
一緒に泊まろうと言った僕の下心に、きっと彼女は気付いていない。
思わず、彼女の白い背中を思い出す。
振り払おうと目を閉じても、かえって鮮明になるだけだった。
ボタンを外すたびに緩んでいくドレスの赤が、脳裏から離れない。
曝け出された白に、口付けたい衝動を抑えていたことなど、彼女が知るはずもない。
窓の向こうを見ると、空に薄く朝の色が混じり始めている。
このままフィオナの甘い檻の中で、眠らず朝を迎えるのも悪くない。
そう一人で微笑んだ、その時。
回されたフィオナの手がぴくりと動いた。
どうしたのかと見ていると、絡めていた手足をほどき、もぞもぞと動き始める。
何度か居心地の良い場所を探すように身じろぎした後、やがて動きを止め、再び姿勢正しく寝息を立てた。
「……ははっ」
一連の動きに堪らず笑い声を上げる。
寝相は良い方だと言っていたフィオナ。
僕にしがみつき、もぞもぞと動き回っていた姿は、決してそうは見えなかったが――
今こうして、きちんと横になり穏やかな寝息を立てている姿を見て納得する。
彼女は朝起きて、自分が姿勢正しく眠っているから、寝相が悪いとは思わないのだろう。
彼女自身さえも知らない、彼女の一面。
それを知っているのが自分だけだと思うと、口元の緩みを抑えられない。
檻から解放された僕は、ソファへ移ろうと身を起こし――少し考えて、やめた。
再び横になると、そっとフィオナを抱き寄せる。
今度は、僕がフィオナの檻になろう。
目覚めた時の彼女の反応を想像しながら、静かに目を閉じた。
きっと、このまま眠れることはない。
けれど、睡眠時間以上に価値のある時間を過ごせたという満足感が、胸の奥にゆっくりと広がっていくのだった。




