5話
あのデビュタントの日から、レオリオは足繁くソラリス家に通うようになった。
自然と、セレーナ、レオリオ、アディエル、そして私の四人で集まることが増えていく。
最近では、舞踏会に行くのもいつも四人一緒だった。
セレーナを見つめるレオリオの視線が、痛い。
セレーナに優しく語りかけるレオリオの声が、胸に刺さる。
それでも毎回同席するのは、会えなくなるよりはましだから。
いつか、あの日――
初めて出会った時のように、リボンを褒めてくれるのではないかと、どこかで期待しているから。
いつか、もしかしたら。
万が一でもいい。
レオリオが、私だけを見てくれる日が来るのではないかと――そんな淡い希望を、捨てきれずにいるから。
「フィオナ?」
過去に沈んでいた意識が、セレーナの声で現実へ引き戻される。
「顔色が良くないけど、大丈夫?」
眉を寄せ、心配そうにこちらを見つめるセレーナ。
私は「大丈夫……」と、小さく返すことしかできなかった。
セレーナは、いつも優しい。
母と買い物に行けば、必ず私を気遣ってくれる。
「今度は一緒に行こう」と、屈託なく笑ってくれる。
それを拒んでいるのは、私自身の劣等感。
色とりどりのドレスに囲まれ、称賛されるセレーナを見るのが辛くて。
そんな彼女を誇らしげに見つめる母の視線が辛くて。
結果、私は「どうせ、私なんて」と心を閉ざし、部屋に引きこもる。
いっそのこと、セレーナが嫌な人だったらよかった。
冷たくしてくれれば、傷つく自分を慰められたのに。
――けれど、セレーナはどこまでも優しかった。
「フィオナも行くでしょう?」
その声に、はっとする。
「え?」
「もう。話を聞いてなかったのね。レオが、これから美術館に行こうって」
華やかに笑うセレーナ。
そっとレオリオを見ると、照れくさそうに彼女を見つめていた。
レオリオに、美術を嗜む趣味はない。
きっとセレーナの好みだから誘ったのだろう。
本当は、二人きりで行きたいに違いない。
「……私は絵に興味ないから、やめておく」
一瞬、邪魔をしたくて一緒に行こうかと思った。
けれど、自分を惨めにするだけだと思い、やめた。
「残念ね……。アディは行くでしょう?」
セレーナはそう言って、アディエルに微笑みかける。
「僕も遠慮しておくよ」
迷う素振りも見せず、穏やかに笑うアディエル。
その向こうで、喜びを隠しきれないレオリオの表情が目に入り、性懲りもなく胸が痛んだ。
(……もう、ここにはいたくない)
そう胸の中で呟き、立ち上がる。
「私は部屋に戻るね。……二人とも、いってらっしゃい」
微笑んでいるつもりだが、ちゃんと笑えているだろうか。
せめて外側だけでも、穏やかでいたい。
同じ痛みを抱えながら、それを顔に出さず微笑む、アディエルのように。
「部屋まで送るよ」
そう言って立ち上がるアディエル。
彼は、こうして私に付き添ってくれることが増えていた。
――もしかしたら、彼もまた、セレーナとレオリオの姿を見ていられないのかもしれない。
……そうだったらいいのに、と思ってしまうのは、私が彼にひそかな仲間意識を抱いているからだろうか。
「美術館の後は、前に行きたがってたカフェに行こう!」
隠しきれない喜びに弾むレオリオの声。
それを聞いていたくなくて、駆け出しそうになる足を必死に抑え、私はゆっくりとその場を後にした。




