4話
セレーナを眩しい笑顔で見つめるレオリオ。
そして、その視線に柔らかな微笑みを返すセレーナ。
その光景を見ていられなくて、私は思わず視線を落とす。
――その時、来客を知らせる執事の声。
「ランフォード小公爵様がお見えになりました」
玄関には、柔らかな茶色の髪と翡翠色の瞳をした青年が立っていた。
アディエル・ランフォード。
ランフォード公爵家の次期当主で、そしてセレーナの幼馴染。
「アディ!」
セレーナは軽やかに駆け寄っていく。
まるで花から花へ舞う、蝶のように。
見送る花は名残惜しげに揺れ、迎えた花は頬を染め嬉しそうに微笑む。
その光景は、まるで演劇のワンシーン――
美しい“本物の”姫と、姫に恋する王子たち。
そこに、私の出番は最初から用意されていない。
ーーその後のデビュタントは散々だった。
曲が始まると同時に、レオリオは私ではなく、セレーナにダンスを申し込んだ。
セレーナの返事を聞きたくなくて、私は「体調が悪い」と嘘をつき、その場を逃げるように離れた。
去り際、一瞬だけアディエルの顔が視界にかすめる。
その表情は、切なく、痛みに堪えている様だった。
会場の隅に身を隠し、こぼれそうな涙を必死に堪えながら窓の外を見ていると――
そっと、声がかけられた。
「大丈夫かい?」
振り向くと、グラスを手にしたアディエルが立っていた。
今まで何度か顔を合わせたことはあったが、挨拶以上に話したことはない。
「オレンジジュースなんだけど、飲める?」
そう言って差し出す彼は、静かに微笑んでいた。
――どうしてだろう。
この人はセレーナが好きなのに。
そのセレーナが、他の誰かと踊っているのに。
どうして、こんなふうに優しく笑えるんだろう。
同じ様に傷ついているはずなのに、彼は微笑み、私は俯いている。
その違いに、余計胸が痛んだのだった。




