3話
十六歳で迎えた、私のデビュタントの日。
ドレスを着込み、胸を高鳴らせながら、エスコート役のレオリオをそわそわと待っていた。
鏡の前に立っては、変なところがないかを何度も確認する。
次の瞬間には窓へ駆け寄り、ブレイシア侯爵家の馬車が来ていないか見下ろす。
鏡と窓を行き来する私に、とうとう馬車到着の知らせが届いた。
部屋を出る前に、もう一度鏡の前に立ち、リボンを結び直す。
その姿を微笑ましく見守っていたメイドのレイラが「大丈夫ですよ。とても可愛らしいです」と声をかけてくれた。
きっと、塞ぎがちだった主人の、生き生きとした様子が嬉しかったのだろう。
胸をときめかせたまま部屋を飛び出し、廊下を駆け――途中で、ふと歩みをゆっくりとした。
少しでも大人っぽく見えるように。
少しでもセレーナに近づけるように。
階段を降りると、玄関ではレオリオが待っていた。
私に気づくと、いつもの太陽のような笑顔を向けてくれる。
「やあ、フィオナ。こんばんは」
「……こんばんは」
レオリオは何と言ってくれるだろう。
今日はいつもと違う、明るい黄色のリボン。
レオリオの瞳と同じ色を選んだ。
彼の言葉を期待して、そっと視線を向けた瞬間――
レオリオの視線は、私の横をすり抜けていった。
ゆっくりとその視線の先を追う。
そこにいたのは、階段を優雅に降りる、セレーナの姿だった。
(……そんなはず、ない。)
そう思った。そう思いたかった。
けれど、レオリオの表情を見た瞬間、きらきら輝いていた世界がくすんでいく。
――まるで、私の髪色のように。
レオリオのセレーナを見る表情は、一瞬で恋に落ちた事を物語っていた。
レオリオの瞳がいつもより輝いているのは、その瞳に映るセレーナの姿が光り輝いているからか。
彼だけは違うと信じていた。
彼だけは、セレーナではない“私”を見てくれると思っていた。
彼だけは、私を愛してくれるのだと――ずっと、そう思っていたのに。
でも実際には、レオリオが私を見ていたのは、ただ、彼の世界にセレーナがまだいなかっただけ。
セレーナがそこへ一歩足を踏み入れた途端、世界は当たり前のように彼女を中心に動き出す。
レオリオだけは違うと思ったのは、ただの思い込みだった……。
勘違いに浮かれて、リボンを選び、何度も鏡を覗いた自分が恥ずかしい。
この世界がいつだってセレーナを中心に回っていることなど、とうに分かっていたはずなのに。
楽しげに会話を交わすレオリオとセレーナの声が、まるで水の底から聞こえるようにぼやけて聞こえた。




