2話
レオリオ・ブレイシアと初めて出会ったのは、私が八歳のときだった。
その日、姉のセレーナは母と買い物に出かけていて、暇を持て余していた私は、ブレイシア侯爵家を訪ねる父にくっついていくことにした。
侯爵家の応接間で紹介されたのは、侯爵家の次男だという2つ年上の少年。
艶のある黒髪に、太陽の欠片を閉じ込めたような金の瞳——そして、眩しすぎるほどの笑顔。
「可愛いリボン! お姫様みたいだね!」
レオリオはきらきらした目でそう言い、勢いよく手を差し出してきた。
胸がぎゅっと締め付けられる。
顔が熱くなる。
そんなふうに褒められたことなんて、一度もなかったから。
ソラリス伯爵家の姉妹を語るとき、誰もがこう言う。
“美しい白百合の姉と、ぱっとしない妹”
“光と影”
両親は2人を同じように愛していたが、母が仕立て屋に連れて行くのはいつもセレーナだった。
“お姫様”
それは、セレーナのためにある言葉だと思っていた
それなのに——自分に向けられるなんて。
差し出された手に触れた瞬間
恋に落ちる音が聞こえた。
それ以来、父にくっついて侯爵家へ行くのが習慣になった。
レオリオと一緒にお茶を飲み、庭を走り回り、ただ笑い合う時間が楽しくてたまらなかった。
特に、レオリオの話を聞くのが大好きだった。
彼の話はいつも輝いていた。
セレーナの影である私では見られない景色を、彼が見せてくれている様な気がした。
仲良く過ごす私たちを見て、双方の親は自然と「このまま結婚すればいい」と考えるようになったらしい。
“レオリオのお嫁さん”
そんな未来を想像するだけで世界がきらめいた。
セレーナと比較される言葉も、レオリオに会えば忘れられた。
皆がセレーナばかりを見る中、ただ一人、レオリオだけは私を見てくれている——そう信じて疑わなかった。
──だが
レオリオが私を見ていたあの時間は
彼がまだセレーナを知らなかったという——ただの偶然に過ぎなかった。
その事実に気づいたのは、私が十六歳のときだった。




