1話
冬の終わりが近付く、ある日。
姉のセレーナ・ソラリスとアディエル・ランフォード、そしてレオリオ・ブレイシアの四人で、ソラリス伯爵家の温室でお茶会をしていた。
「フィオナ、このマドレーヌ、とっても美味しいわよ」
セレーナは花が咲くように微笑みながら、マドレーヌを一つ差し出してくる。
私はそれをそっと受け取り、ひと口かじった。
甘くて、しっとりした生地がふわりと口の中でほどけていく。
「……美味しい」
そう呟くと、レオリオがぱっと明るく笑った。
その笑顔に、胸の奥が小さく跳ねる。
「ここの焼き菓子が美味いって、セレーナが言うからさ。朝早くから並んで買ってきたんだ」
どこか誇らしげで、嬉しそうな声。
レオリオがどんな気持ちでその言葉を口にしているのか——考えたくなくても、分かってしまう。
「まるで私が買ってこいって言ったみたいじゃない!」
セレーナは頬をふくらませてみせる。
その仕草すら可憐で、美しい。
レオリオとセレーナは、自然と二人だけで笑い合っていた。
……まただ。
セレーナと一緒にいると、あっという間に私は透明人間になる。
皆、セレーナと話したいのだ。
少しでも長く、セレーナを見ていたいのだ。
……目の前のレオリオは、特に。
私は紅茶を口にしながら、そっとセレーナを見た。
陽光を受けてきらきらと輝く金の髪。
白く滑らかな肌には、シミひとつない。
完璧で、光を宿した姉。
それに引き換え——
私の髪は同じ金髪でも、くすんでいて、光を吸い込んでいるようだ。
肌も白というより、どこか青白い。
同じ親から生まれたのに、どうしてこんなにも違うのだろう。
そんなことを思いながら、そっと髪につけたリボンへ触れる。
今日は薄紫色のリボン。
……いつか気付いてくれるかもしれない、そんな小さな期待だけで、毎回違う色のリボンを付け続けている。
そのせいで私のドレッサーの引き出しは、ほとんどリボンで埋め尽くされていた。
気付いてもらえたことなんて、一度もないのに。
「今日は薄紫なんだね。紫陽花みたいで、可愛いよ」
ふと隣から聞こえた声に顔を向けると、アディエルが柔らかく微笑んでいた。
「……ありが、とう」
嬉しいはずなのに、どうしてもうまく笑えなかった。
朝から何色も並べて、悩んで選んだリボン。
アディエルに気付いてもらえて、嬉しいのに。
……気付いてくれたのがレオリオではないことに、傷ついてしまう私は、最低だ。
そんな私にアディエルは少し困ったように微笑むだけで、何も言わなかった。




