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プロローグ
「お願い、アディエル……私と、結婚して……」
遠くでは王宮音楽隊が軽やかなワルツを奏でていた。
社交シーズンの幕開けを祝う、華やかな宮殿の舞踏会。
人々は酒に酔い、楽しげに踊り、顔を寄せ笑い合う。
宝石が揺れ、絹のドレスが煌めく光の波
その眩い光景から逃れるように、私は庭の片隅に座り込んでいる。
ドレスが泥で汚れるのも気にせず、目の前の男の腕に縋りつき、泣きじゃくる自分は、なんて惨めなんだろう。
もう枯れたと思っていたのに、涙は次から次へと溢れ出て止まらない。
目の前の男ーー
アディエル・ランフォードは困ったように微笑みながら、懐から取り出したハンカチで私の涙をそっと拭った。
「いいよ、フィオナ……結婚しよう」
優しく落とされたその言葉に、さらに涙が溢れ出す。
私は知っている。
彼が――私を愛していないことを。
私は知っている。
彼の視線の先にいつもいるのは、姉のセレーナだということを。
そして、彼も知っている。
私が――彼を愛していないことを。




