↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/137

47話


「フィオナ、あっちに行ってみよう」


アディエルが、繋いだ手を軽く引いた。

その拍子に、絡められた指の感触へ意識が向き、胸がそわりとする。



馬車の中で話し終えた私たちは、レイラを先に帰し、二人で街を散策することにした。

馬車から降りる際、支えるために差し出された手は、そのまま握り込まれてしまう。


父以外の男性と手を繋いだことのない私は、それだけで緊張してしまった。


手のひらににじんだ汗が気になり、さりげなく離そうとするが、そのたびにアディエルは指に力を込め、許してくれない。

訴えるように見上げても、彼は気付かないふりをして笑うだけだった。


何度か小さな攻防を繰り返したものの、どうやら離してくれる気はないらしい。

途中で諦めると、絡めた指で、そっと撫でられる。


秘密の合図を交わしているみたいで、恥ずかしいのに、どこか嬉しかった。



アディエルに手を引かれて辿り着いたのは、ぬいぐるみが所狭しと並ぶ店だった。


うさぎやクマ、さまざまな動物のぬいぐるみが並び、見ているだけで心が和ぐ。


その中で、私は一体のクマに目を留めた。

エルに、よく似ている。

思わずアディエルの手を引く。


「アディエル、見て! あの子、エルにそっくり」


エルよりも一回り大きなそのクマを、そっと撫でる。

ふわふわした毛並みまで、よく似ていた。

夢中になっていると、アディエルが耳元へ近付き、囁く。


「エルって……どっちのエル?」


「え?!」


自分が無意識に名前を口にしていたことと、あまりにも近い距離に、心臓が跳ね上がる。


「……ど、どっちって……」


言葉に詰まる私に、アディエルは楽しそうに続けた。


「だって、僕も“エル”でしょう?」


耐えきれず顔を伏せると、くすっと楽しげな笑い声が落ちてくる。


「……意地悪」


悔し紛れに、ちらりと見上げて呟くと、アディエルは一瞬目を瞬かせた。


次の瞬間、とろけるような笑顔を浮かべる。

今まで見たことのない、甘さを含んだその表情に、心臓が大きく跳ねた。


熱くなった顔を誤魔化すように、店内を見て回ろうと手を引く。

それでもアディエルは、楽しそうな笑顔のままだった。


広い店内を手を繋いで歩いていると、アディエルが何かを見つけたように足を進める。

少し歩を速めて付いていくと、そこには愛らしいひよこのぬいぐるみが並んでいた。


「……ひよこ?」


疑問を口にすると、アディエルは私の髪を、そっと撫でる。


「フィオナの髪と、同じ色」


並ぶひよこの淡い色は、確かに私の髪によく似ていた。


「それから……」


言葉を切り、今度は指先で、私の唇をなぞる。


「赤い唇も、似てるね」


その言葉に、ようやく引いたはずの熱が、また頬へと戻ってくる。

アディエルはそんな私を楽しそうに見つめ、今度は頬に触れた。


「赤いほっぺも、そっくりだ」


言われて、思わずひよこのぬいぐるみを見る。

どの子も、頬がほんのり桃色に染まっていた。


耐えきれず、私は隠すようにアディエルの肩に顔を埋める。

すぐに、優しく頭を撫でられた。


「ごめん。ちょっと、いじめすぎたね……どの子がいいか、一緒に選ぼう?」


その声に、少しだけ顔を上げる。

そこには、柔らかな微笑みがあった。

その表情を見ていると、なんでも許せてしまいそうで、私は小さく頷いた。



二人で相談しながら選び、アディエルが決めたのは、手のひらに収まるほどの小さなひよこだった。


会計のために手を離すと、離れた指先が名残惜しさを訴えているようで、私は空いた手で自分の手を包み込む。


そんなことをしていると、アディエルが私を呼んだ。

顔を上げると、彼が手招きをしている。

その仕草に導かれるように、私は彼のそばへ歩み寄った。



アディエルのそばへ行くと、彼の前には小さな蝶ネクタイやリボンなど、ぬいぐるみ用の装飾品が並んでいた。


「可愛い……!」


思わず声が漏れると、アディエルは楽しそうに笑った。


「“エル”に、お土産を買っていこう」


「うん!」


家で待つエルのことを思い浮かべながら、何が似合うか考えるだけで胸が弾む。


その気持ちが、アディエルへの贈り物を選んでいた時とよく似ていることに気付き、なんだか可笑しくなった。


ふと、緑色のリボンに目が留まる。

エルの首に着けたら、きっと可愛い――そんな想像をしながら手に取った、その時。


アディエルが、私の手からするりとリボンを取り上げた。


「どうしたの?」


見上げると、彼は少しだけ、面白くなさそうな顔をしている。


「……リボンは、やめておこう」


「あ……」


その一言に、レオリオに気付いてほしくて、必死にリボンを身に着けていた、あの頃の自分を思い出す。


アディエルは、リボンを見ることで、私が嫌な気持ちになるのではと気遣ってくれたのだろうか。


――言われるまで、すっかり忘れていた。


それが少し、申し訳なくて、私は気持ちを切り替えるように別の飾りへ手を伸ばした。


小さな宝石が付いた、シンプルなネックレス。

金や銀の鎖に、色とりどりの宝石が並んでいる。


「これなら……エルにも似合いそう」


「うん」


私が微笑むと、アディエルも優しく頷いてくれた。

ほっとして、二人で並ぶ宝石を見比べる。


「……どれも綺麗で、迷っちゃうね」


小さくても、確かな輝きを放つ宝石たち。

どれも魅力的で、なかなか一つに決められない。


「……エルには、青い石が似合うと思う」


「え?」


不意に聞こえた声に顔を上げると、アディエルが金の鎖に青い石の付いたネックレスを手にしていた。


なぜか彼の頬が、ほんのり赤い気がする。


「じゃあ……これに、する」


つられるように、自分の頬も熱くなるのを感じ、思わず手で押さえた。


すると、アディエルが手にしていたひよこのぬいぐるみを差し出してくる。


「この子の分は、フィオナが選んで」


ひよこをちょこんと動かす仕草が可愛らしくて、思わず笑顔になった。



私は並ぶネックレスに視線を走らせ、ひとつに目を留める。

銀の鎖に、同じく青い石。

そっと手に取り、ひよこに当ててみると、金色の毛並みによく映えた。


「これにする!」


自信を持ってそう言い、アディエルを見ると――彼はなぜか、眉を下げて少し悲しそうな顔をしていた。


「え? 嫌だった?」


慌てて問いかける。


「お揃いで可愛いと思ったんだけど……他のにしようか」


そう言って戻そうとした瞬間、手を取られた。


「ううん。お揃いにしよう」


見つめ返すと、先ほどとは打って変わって、アディエルは嬉しそうに微笑んでいる。


「……?」


変わりように首を傾げたが、アディエルが嬉しそうなら、それでいい気がした。



選んだネックレスを包んでもらい店を出ると、自然と繋がれる手。


まだ少し恥ずかしさは残るけれど、手のひらから伝わる温もりが心地よかった。


「夕飯、食べて帰ろうか」


アディエルの声に空を見上げると、すっかり夜の色に染まっている。


「うん!」


一緒に買い物をして、一緒に夕食を取るなんて――まるで、デートみたいだ。


胸がくすぐったくて、足取りが自然と軽くなる。

そんな私に、アディエルはくすりと笑い、


「こっちだよ」


と、優しくエスコートしてくれた。



その後、アディエルおすすめのレストランで食事を楽しみ、少しだけ夜の街を散歩してから帰路につく。


戻る時間が遅くなってしまい、心配されているかと思ったが――

出迎えた公爵家の人々は、どこか楽しそうで、嬉しそうで、そして生暖かい視線を向けてくる。


それがなんだか恥ずかしくて、私は挨拶もそこそこに、自室へ逃げ込んだのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。