幕間
フィオナの部屋を出て、足早に自室へ戻る。
扉を閉めた瞬間、思わず口元を押さえ、そのまましゃがみ込んだ。
先ほどの出来事が脳裏に蘇る。
以前、フィオナと街に出た時、射的で取ったクマのぬいぐるみ。
部屋を訪ねるたび、大切に扱っているのが伝わってきて、そのたびに密かに嬉しくなっていたのだが、名前まで付けているとは思わなかった。
しかも、その名前が自分の名から取られているなんて。
押さえた口元が、どうしても緩んでしまう。
彼女は、あのぬいぐるみとどんな風に過ごしているのだろう。
一日の出来事を話し、夜になれば抱きしめて眠るのだろうか。
――僕と同じ名を持つ、“アイツ”と。
胸の奥から湧き上がる、この気持ちはなんだろう。
嬉しいような。
くすぐったいような。
……そして、ほんの少しだけ、あのクマが憎たらしいような。
扉の前に座り込み、大きく息を吸って吐いてみる。
それでも胸のざわつきは、まるで収まる気配がなかった。
初めての感情に戸惑うが――このまま味わっていたいと思ってしまう。
目を閉じると、フィオナの照れた顔、小さな耳、抱きしめた時の柔らかな温もりが鮮やかに蘇り、自然と口元が緩むが、もう押さえる気にはならなかった。
今度、フィオナと街に出て、あのクマの“恋人”を探そう。
彼女の髪の色に似た、淡い金色のひよこがいい。
――そして、その子の名前はもう決まっている。




