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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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44話


朝食を終えると、アディエルは私を部屋まで送ってくれた。


「送ってくれて、ありがとう」


「どういたしまして」


扉を出ようとしたアディエルが、ふと思い出したように振り返る。


「フィオナ、不足しているものはない?」


「大丈夫だよ」


衣服や消耗品など、必要なものは十分に揃えてもらっていて、不便を感じたことはなかった。


けれどアディエルは、どこか疑うように私を見たあと、後ろに控えていたレイラへ視線を送る。

それを受けて、レイラが一歩前に出た。


「僭越ながら申し上げますと、装飾品やデイドレスなどが不足しているかと」


「レ、レイラ?!」


「そうか。それじゃあ、必要なものを買っておいで」


「アディエル、私は今あるもので十分だよ」


あまり外出しない私には、これ以上必要ない。

これ以上アディエルに負担をかけるわけにはいかない――そう思って反論したが、アディエルは譲らなかった。


「これから一緒に出掛けることも増えるだろうし、あるに越したことはないでしょう?」


「でも……」


「公爵家が婚約者を大切にしていない、なんて思われたら困るしね」


そう言われると、何も言えなくなってしまう。

確かに、同じ服を何度も着ていれば、公爵家の体面に関わるかもしれない。


それでも、彼の好意に甘えることに、どうしても躊躇してしまう。

そんな私の心中を察したのか、レイラが再び口を開いた。


「伯爵様より、フィオナ様の生活費をお預かりしております。そこから十分にお買い物ができるかと」


「……お父様が?」


レイラを見ると、彼女は優しく微笑んだ。


「はい。『支えてくれ』と、お言葉も添えて」


レイラに託された、父の気遣いが嬉しい。




「…頼ってくれていいのに」


父の優しさに胸を温かくしていると、少し拗ねたようなアディエルの呟きが聞こえ、彼に視線を移す。


「もう十分、頼りにしてると思うけど」


「…僕だって、それなりに稼ぎがあるんだよ」


「ふふふ、知ってる」


思いもよらない返事に、堪らず声を上げて笑ってしまった。

なんだか、父に張り合っている様なアディエルの姿が、子どものようで可笑しかった。


笑われたのが恥ずかしかったのか、アディエルは咳払いをして姿勢を正す。


「兎に角、午後に馬車を使えるように伝えておくから、レイラと買い物に行っておいで」


「…うん」


これ以上彼に負担をかけずに済むと知り、今度は素直に頷いた。


「本当は僕も一緒に行きたかったんだけど、これから父と登城しなきゃいけなくて」


アディエルの本当に残念そうな顔が、なんだか嬉しかった。

それと同時に、以前出掛けた時を思い出し、私もアディエルと一緒に行けない事が残念に思えてくる。


なんだか、少しだけさみしい気持ちになり、アディエルの服の裾を、そっと摘む。


「……今度は、一緒に行こうね」


「ああ。アイツの友だちも増やさないと」


サイドテーブルにちょこんと座るクマのぬいぐるみを指差さすアディエルに、私は笑って教える。


「あの子、エルって名前をつけたの。だから、アイツなんて――」


そこまで言って、アディエルが驚いた様に目を見開いていることに気付いた。


「アディエル、どうしたの?」


「エルって……もしかして、僕の名前から?」


「え? そうだ……けど……」


答えながら、顔がどんどん赤くなるのが自分でも分かった。

当然の様に、“アディエル”を元に名付けたが、よくよく考えるととんでもなく恥ずかしい事ではないか。


それを、意気揚々と本人に教えるなんて。


(ど、どうしよう?!もしかしたら、気分を悪くしたかもしれない)


勝手に自分の名前を使われて、気分を害す可能性を全然考えていなかった。


「あ、あの……嫌だったら……」


何も言わないアディエルに不安になり、声を掛けたその瞬間――



突然、強く抱き締められた。


「きゃっ……!」


びっくりして、小さく悲鳴を上げる。


「あ、アディエル??」


声を掛けてもアディエルは離してくれなかった。

どうしていいか分からず身を捩ると、アディエルがそっと囁いた。


「……可愛すぎるでしょ」


「え?」


耳元で囁かれた低い声。

言葉の意味を理解する前に、アディエルはぱっと身を離し、慌てたように扉へ向かった。


「き、気分転換にもなるし……楽しんできて」


そう早口で伝えると、こちらを振り返ることもなくそのまま部屋を出て行った。



残された私は、その場にしゃがみ込み、耳を押さえる。



――可愛すぎるでしょ。



アディエルの言葉が、耳を掠めた吐息の温もりと一緒に、蘇る。


心臓がひっくり返るほど激しく鼓動を繰り返している。


胸の奥に広がる、熱くて甘い感覚。


しばらく、この鼓動が静まることは、なさそうだった。



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