43話
使節団を迎える話し合いがひと通り終わると、私はアディエルと連れ立って執務室を後にした。
朝食前だというのに話に熱が入り、区切りがついた頃には、とうに朝食の時間を過ぎていた。
何度かお腹の虫が鳴り、誤魔化しているつもりだったが、どうやらアディエルの耳にはしっかり届いていたようで、何度か笑いを堪えている姿が目に入ったが気付かないふりをした。
公爵夫妻は自室で食事を摂るとのことで、私とアディエルは二人で食堂へ向かう。
席に着くと、ほどなくして料理が運ばれてくる。
サクサクのクロワッサンに、ふわふわのオムレツ。
キャロットドレッシングのかかった色とりどりのサラダと、甘い香りを立てるコーンスープ。
どれも私の好物で、思わず頬が緩んでしまう。
そんな私を、アディエルは穏やかな目で見つめていた。
「フィオナ、ありがとう」
「……?」
突然の言葉に、何に対するお礼なのか分からず首を傾げると、彼は続けた。
「フィオナの知識に助けられた」
「そんな、助けたなんて大げさだよ……。知っていることを話しただけだし……」
気恥ずかしさに耐えきれず、俯いてしまう。
「探求心に、賢さ……伯爵の言葉は本当だね」
昨夜、父が語ってくれた言葉が蘇り、胸の奥がじんわりと温かくなる。
そして、アディエルは少し照れたように、続けた。
「それにさ、楽しかったんだ」
「……え?」
思わず顔を上げると、彼はいつもより柔らかな笑みを浮かべている。
「フィオナと、あれこれ言いながら仕事をするのが、楽しかった」
「私も……私も楽しかった」
私の話に耳を傾けてくれたことが嬉しかった。
知識が役に立ったことが嬉しかった。
そして、私の知っていることが、アディエルの手で形になっていく過程に、心が躍った。
その気持ちを、彼も同じように感じてくれていたのだと思うと、胸がいっぱいになる。
「僕たち、良いパートナーになれそうだね」
「……そうなれるように、頑張る」
そう答えると、アディエルは静かに頷いた。
「僕も、頑張る」
二人で微笑み合う。
これから先のことを思えば、不安がまったくないわけではない。
それでも――。
胸の奥には、確かな温もりと、未来への小さな期待が芽生えていた。
私はその感覚を大切に抱きしめながら、ゆっくりと朝食に手を伸ばすのだった。




