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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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37話


父は話し終えると、母とセレーナに視線を送り、公爵夫妻へ退席の挨拶をして席を立った。


母は少し気まずそうに、セレーナは特に気に留めた様子もなく微笑んでいる。


涙を拭い、帰る父を見送るために後を追う。

アディエルが、何も言わずそっと隣に付いてきてくれた。




「フィオナ……その……身体には気をつけて」


母は視線を逸らしたまま、ぎこちなくそう告げる。

先ほどの父の言葉が、まだ胸の中で整理できていない様子だった。


「アディ、フィオナを大切にしてちょうだいね」


セレーナは自然な仕草で、アディエルの腕に触れる。

だがアディエルが、迷いなくその手をそっと振り解くと、セレーナは一瞬驚いた様な顔をした。


その光景を見て、胸の奥がふっと軽くなる。

——なぜ安堵しているのか、自分でもよく分からなかった。



母とセレーナが馬車へ乗り込むと、父が私に向き直った。


「フィオナ、すまなかった」


その言葉が、何に対する謝罪なのかは分からない。

けれど、先ほどのやり取りだけではない——そんな気がした。


私は父に歩み寄り、そっと抱きついた。

こうして触れるのは、幼い頃以来かもしれない。

父は驚いたように身体をこわばらせたが、やがてぎこちない手つきで、私の頭を撫でてくれた。


身体を離し、父の目を見る。

そこには、確かな温かさと、変わらぬ愛情があった。


「お父さん……ありがとう」


微笑むと、父は一瞬泣きそうな顔になる。

一度強く目を閉じてから、アディエルへと向き直った。


「小公爵様。フィオナを、どうかよろしくお願いします」


深く頭を下げる父に、アディエルもまた頭を下げる。


「フィオナを、大切にします」


はっきりとしたその言葉に、父は安堵したように微笑んだ。




伯爵家の馬車が見えなくなるまで見送っていると、アディエルがそっと肩を抱いてくれる。


「フィオナ、冷える。中に入ろう」


その手に促され、屋敷へ戻ると、公爵夫妻の姿があった。

待たせてしまったのではと慌て、思わず頭を下げる。


「も、申し訳ありません。お待たせしてしまいましたか?」


「頭を下げる必要はないよ」


「私たちは、フィオナさんが心配で追いかけてきたの。……アディエルだけでは心許ないかと思って」


そう笑う夫妻に、アディエルは少し不服そうに言い返す。


「僕にだって、フィオナを守れますよ」


そのやり取りに、胸の力が抜ける。

心配してもらえることが、こんなにも有難い。


微笑みながら三人を見ていると、夫人が私に向かって優しく声をかけた。


「さあ、お茶を淹れ直しましょうね」


「……はい」


そのまま四人で食堂へ向かう。


道すがら交わされる他愛ない会話に、自然と笑みがこぼれる。


この時間が、公爵家の一員として受け入れられている証のようで——胸が温かくなった。



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