33話
穏やかな空気の中、夫人がふと思いついたように口を開いた。
「フィオナさんのご家族をお招きして、お食事会をしなくちゃね」
——“家族”。
両親はもちろんだが、セレーナと、レオリオも含まれるのだろうか。
そう考えると、胸の奥がきゅっと痛む。
そんな不安が顔に出たのか、アディエルが心配そうにこちらを見る。
私はその視線に、そっと首を振る。
——大丈夫、と。
いつまでも、逃げ回っている訳にはいかない。
いつか、向き合わなくてはいけないのだ
確かに胸は痛むが、それでも前に進みたいと思えた。
こうして受け入れてくれる人がいて、思い遣ってくれる人がいる。
いい加減、私自身が自分を受け入れて、思い遣ってあげたいと思えた。
そんな想いで微笑むと、アディエルは一瞬目を丸くし、やがて優しく微笑んでくれる。
言葉がなくても、気持ちが伝わった様な気がして、胸が温かくなる。
そんな私たちを穏やかな眼差しで見守っていた公爵様が、口を開いた。
「まずは、フィオナさんの怪我が治るのが先だな」
「そうね。何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってちょうだい」
夫人も重ねるように言葉を添えてくれる。
「ありがとうございます」
感謝を伝えると、夫妻は優しい微笑みで応えてくれた。
「では、僕たちはこれで失礼します」
そう言って、アディエルが立ち上がると、そのまま私を抱きかかえようとするので、思わず慌てた。
「ア、アディエル。手を貸してもらうだけで大丈夫だから」
そう抗議すると、アディエルは少し不服そうな表情になるが、私が必死に視線で訴えると、諦めたように手を差し出してくれた。
「ふふふ。仲が良くていいわね」
そのやり取りを見ていた夫人が楽しげに笑い、顔が熱くなるのを感じた。
けれど、不思議と嫌な気分ではなくて。
むしろ、胸の奥で小さく喜んでいる自分に気付き、少しだけ気恥ずかしくなった。
アディエルに支えられながら挨拶をして外へ出ると不意に、身体が宙に浮く。
「きゃっ!」
驚いて、思わずアディエルにしがみついた。
「アディエル、下ろして」
「駄目だよ。安静にしなきゃ」
そう言う声は、どこか楽しそうだ。
「大人しくしててね」
弾むような声で告げて、アディエルは歩き出した。
移動する間に感じる、屋敷の人たちの生温かな視線には、やっぱり慣れない。
それでも、アディエルの腕の中にある安心感に、私はそっと身を委ねるのだった。




