表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/137

32話


アディエルは、私を抱えたまま公爵様の執務室へと向かった。


扉が開かれる直前、なんとかお願いして、腕の中から下ろしてもらう。



執務室に入ると、公爵様と夫人が並んで立っていた。


「おはようございます、公爵様、夫人。」


スカートの裾を摘まみ、お辞儀をする。

ふらつきそうになる私を、アディエルがそっと支えてくれた。


そんな私たちを、夫妻は微笑ましそうに見つめ、にこやかに挨拶を返してくれる。


「いい朝だな」


「昨日は、よく眠れたかしら?」


その一言に、私は一度深く息を吸い、背筋を伸ばして頭を下げた。


「昨夜は、我がソラリス家の者がご迷惑をおかけしました。」


先触れもなく押しかけてきたレオリオとセレーナの非礼を詫びる。

あれほど騒ぎになったのだ。夫妻の耳に入っていないはずがない。


「顔を上げなさい。」


公爵様の言葉に促され、おずおずと顔を上げる。

そこにあったのは、穏やかな笑顔だった。


「フィオナさんが謝る必要はありませんよ。」


叱責されてもおかしくない状況で、夫人の温かな言葉が胸に染みる。

張り詰めていた緊張が、少しずつほどけていく。


——どうして、公爵家の人たちは、こんなにも優しいのだろう。


「立っているのも辛いだろう。座りなさい。」


公爵様に促され、アディエルの助けを借りてソファに腰を下ろす。

その様子を見た夫人が、心配そうに眉を寄せた。


「まあ……昨日より酷くしてしまったのね」


「お医者様は、三日ほど安静にしていれば良くなると仰っていました。……お医者様まで呼んでいただいて、どうお礼をすればいいのか……」


公爵家の厚意を受けるたび、何か返さなければと考えてしまう。

けれど、たかが伯爵令嬢の私にできることなど、そう多くはない。


「ふふ。なら、ここにいる間、お喋りの相手になってちょうだい」


「私は、ブランデーの話を聞かせてもらおうかな」


礼など不要だと言えば、私が気に病むことを分かっているのだろう。

私にもできる役目を、さりげなく示してくれる夫妻の心遣いが嬉しかった。


「それで? 二人揃って、どんな用件かな?」


公爵様が一つ咳払いをして問いかける。

その言葉に、私とアディエルは自然と背筋を伸ばした。


「フィオナと、結婚したいと思っています。」


そう告げると同時に、アディエルはそっと私の手を握った。

突然の温もりに、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


「……フィオナさん、それで本当に良いのかい?」


探るような視線に、思わず手に力が入る。

それでも目を逸らさず、はっきりと頷いた。


「はい。」


私の返事に、アディエルの手に力が入ったのが伝わった。


「ソラリス伯爵夫妻からは、昨夜すでに了承を得てきました。」


真剣な眼差しで告げるアディエルに、夫妻はしばし沈黙する。


張り詰めた空気。

どれほどの時間が流れたのか。


先に口を開いたのは、公爵様だった。


「……アディエル。覚悟はできたのか?」


「はい。」


迷いのない答え。


——覚悟とは、何を指すのだろう。


私の疑問を察したのか、公爵様はふっと表情を和らげた。


「アディエルは、公爵位を継ぐことを拒んでいたんだよ」


「え……?」


思わず彼を見ると、アディエルはばつが悪そうに苦笑した。


「爵位の継承に、婚姻は重要だからね。……それを分かっていて、縁談から逃げ回っていたんだから、たちが悪い」


やれやれ、という仕草で笑う公爵様。

その様子から、口ではそう言いながらも、息子の意思を尊重していたことが伝わってくる。


「ふふ。私にも娘ができるのね」


「聡明なお嬢さんが嫁いでくれて、公爵家も安泰だ」


嬉しそうに微笑む夫妻の姿に、胸がじんと熱くなる。


——私は、受け入れてもらえたのだ。


ソラリス家で露骨に蔑ろにされたわけではない。

けれど、常にセレーナを中心に回る屋敷の空気は、息苦しかった。


こうして居場所を与えられたことで、初めて楽に息ができる気がする。


溢れそうになる想いをこらえ、私は繋がれた手をそっと握る。

アディエルもまた、静かに、けれど確かな力で握り返してくれた。


その温もりが、これからの未来を約束してくれているようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ