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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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29話


朝、マーシャに手伝ってもらいながら身支度を整えた。

足は動かさなくても痛み、彼女がいなければ服を着ることすらできなかった。


「お医者様をお呼びしましたから、後で診てもらいましょうね」


マーシャの優しい笑顔が、胸に溜まった申し訳なさを少しだけ軽くしてくれる。

 



しばらくして訪れた医師に足を診てもらう。

三日ほど安静にしていれば治るだろう、という見立てに、ほっと胸を撫で下ろした。

長く公爵家の世話になるのは、正直気が引けていたから。



医師と入れ替わるように、アディエルが部屋へ入ってくる。


「医者は、なんだって?」


「三日くらい安静にしていれば治るって」


そう答えると、アディエルは安堵したように表情を緩めた。


「お腹は空いてる?」


「……うん」


昨日あれだけ落ち込んでいたのに、空腹を訴える自分のお腹が恨めしい。


「お腹が空くのは、良いことだよ」


考えていることを見抜かれたのか、アディエルは楽しそうに笑った。


「参りましょうか、お嬢様」


わざとらしく一礼したかと思うと、当たり前のように私を抱きかかえる。


「ひ、ひとりで歩けるよ!」


慌てて言っても、アディエルは気にする様子もなく歩き出す。


「安静にしてなきゃいけないんだろう?」


「それでも……恥ずかしいよ……」


顔が熱くなる私を見て、彼はますます楽しそうに笑った。

どうやら下ろしてくれるつもりはないらしい。


「大丈夫。みんな、もう見慣れてるよ」


確かにここに来てから、何度もこの姿を屋敷の人たちに見られている。

けれど、私自身が慣れることはなさそうだった。

 



アディエルが向かったのは、食堂ではなく、温室に設けられたガゼボだった。

備え付けのテーブルには、すでに二人分の朝食の準備が整えられている。


控えていた使用人が椅子を引き、私はそこへそっと座らされた。


辺りを見回すと、色とりどりの花が咲き誇っている。

ソラリス家にも温室はあるが、広さも、植えられた花の数も桁違いだ。


「綺麗……」


思わず漏らすと、向かいに座ったアディエルが微笑む。


「気に入った?」


「うん。とっても」


そう答えると、彼は嬉しそうに目尻を下げた。


「良かった。フィオナに、公爵家の良さをアピールしたかったんだ」


「……?」


首を傾げて見つめると、アディエルは微笑むだけで答えない。

問いかけようとしたところで料理が運ばれ、意識は自然とそちらへ向かった。


焼きたてのパンに瑞々しいサラダ。

野菜たっぷりのスープに、メインはサーモンのムニエル。

添えられたレモンとバターの香りが、お腹の虫を刺激する。


給仕がオレンジジュースを注ぐと、静かにその場を離れた。


ガゼボに残されたのは、私とアディエル、二人だけ。


「さ、食べよう」


「うん……いただきます」


冷たいオレンジジュースを一口飲むと、身体に潤いが満ちていく。

思っていた以上に、喉が渇いていたようだ。


アディエルと他愛のない会話を交わしながら食べる朝食は、穏やかで、とても心地よかった。

 

デザートのプリンを食べ終えると、食後の紅茶が運ばれてきた。

一口含むと、温かく華やかな香りが胸に広がり、自然と肩の力が抜ける。


余韻に浸っていると、アディエルがそっと立ち上がった。


「ちょっと待っててね」


そう言い残して去っていく背中を見送ると、胸の奥に小さな寂しさが生まれた。


そんな自分に、思わず苦笑する。


(……私、アディエルに甘えすぎてるのかも)


気分を変えようと、深く息を吸い込む。

甘い花の香りと、青々しい木々の匂いが胸いっぱいに広がる。


ゆっくりと息を吐くと、少しだけ心が軽くなった気がした。



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