27話
アディエルに支えられながらエントランスホールへ向かうと、そこにはレオリオとセレーナの姿があった。
心配そうな表情のセレーナに、寄り添うように立つレオリオ。
その光景を目にした瞬間、胸を強く掴まれたように苦しくなる。
私に気付いたセレーナが、声を上げて駆け寄ってきた。
「フィオナ!」
そのまま手を取られ、強く握られる。
「突然いなくなって……どれだけ家族が心配したと思ってるの!」
訴えるようなその声に、私は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
そこへ、アディエルが一歩前に出る。
「フィオナが怪我をしたから、僕がここへ連れてきたんだ。……伯爵には、すでに連絡を入れているけど?」
その言葉に、セレーナとレオリオが顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。
その様子に、彼らは昨夜共に過ごし、二人で伯爵家へ帰ったら私の不在に気付き――事情も聞かずに、ここまで押しかけてきたのだろう。
せっかく逃げてきたのに。
何故、そんな二人と対峙しなくてはいけないのだろう。
アディエルの言葉に、レオリオが苦笑いを浮かべた。
「そうだったんだ。……伯爵も知っているなら、安心だね」
そう言うと、セレーナの背に手を回し、帰ろう、と促す。
その仕草に、レオリオが早くこの場を離れたがっているのが伝わってきて、胸の奥がざわついた。
しかし、セレーナはその手を振りほどき、今度は私の手を引く。
「もう! 本当に心配したんだから。ほら、帰ろう?」
――無理だ。
セレーナとレオリオと、三人で帰るなんて。
どうして、せめて放っておいてくれないのだろう。
「……私は、帰らない」
そう告げると、セレーナは驚いた顔をした。
そんな私たちのやり取りに痺れを切らしたのか、レオリオが私の手を掴み、強く引いた。
「っ……!」
捻った足に激痛が走り、思わず顔を歪める。
けれど、レオリオは気付かない。
「ほら、帰ろう。セレーナの妹だからって、よくしてくれてるアディエルに迷惑だろう?」
――セレーナの妹だから。
その一言が、胸の奥を鋭く抉った。
その言葉が、レオリオの本音だったと気付いて。
私は、“セレーナの妹”だったから彼と一緒に居られたのか。
レオリオがセレーナによく思われたいが為だけに居る存在。
(……吐きそう)
思わず口元を押さえ、視界が暗くなる。
足の痛みすら、もう感じなかった。
――バシッ。
乾いた音が響き、はっと顔を上げる。
アディエルが、乱暴にレオリオの手を叩き落としていた。
そのまま、私を庇うように一歩前へ出る。
「先触れもなく押しかけてくる方が、よほど迷惑だと思うが?」
低く、冷たい声。
いつもと違う雰囲気に驚くが、背を向けた彼の表情は分からなかった。
それでも――その背中は、とても心強い。
「でも……」
セレーナが口を開きかけたが、アディエルはそれを遮るように、そっと私の肩を抱いた。
「滞在は伯爵の許可を得ている。……悪いが、もう帰ってくれないか。フィオナの怪我の手当をしたい」
きっぱりと告げられ、セレーナは納得していないように視線を送るが、渋々頷いた。
レオリオと踵を返す二人が、自然に腕を組む。
見たくないのに、その姿から目が離せなかった。
――と、突然、視界が暗くなる。
「え?」
驚いて声を上げると、アディエルの手が、私の視界を覆っていることに気付いた。
「嫌なものは、見なくていい」
優しい声。
すぐ近くに感じる体温と、ふわりと香る彼の匂い。
まるで抱きしめられているような体勢に、恥ずかしさよりも安堵が勝った。
この腕の中にいれば、私を傷つけるすべてから守られる気がして――
私は、そっと目を閉じる。
もう少し、このままでいたい。
力を抜いて身を預けると、アディエルが一瞬驚いたように震えたあと、優しく抱きしめてくれた。
痛みも、悲しみも。
すべてを包み込むように。




