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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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25話


「どう? フィオナさん、お口に合うかしら?」


「はい、とても美味しいです」


そう答えると、公爵夫人はほっとしたように表情を緩めた。



暖かな午後の昼下がり。

公爵夫人は、温かい紅茶と焼き菓子を用意してくれていた。


「母上、フィオナは怪我人なんですから、あまり長い時間引き留めないでくださいね」


隣に座るアディエルはそう小言を言いながら、紅茶に口をつける。


「はいはい。あなたはお父様と出掛けるのでしょう? 早くお行きなさい」


夫人は追い払うような仕草で言う。

それにアディエルは苦笑しながら立ち上がり、そっと私の肩に手を置いた。


「夕方には帰るから、のんびり過ごしてて」


そう言い残して去っていく背中を見送りながら、私は彼の気遣いに胸が温かくなるのを感じていた。


そのとき、夫人の楽しげな笑い声が響いた。


「ふふふ。まるで、新婚さんね」


「え……?」


思いがけない言葉に目を見開くが、夫人は気にする様子もなく続ける。


「縁談をずっと拒み続けていたから、“誰か”がいるのだろうとは思っていたけれど……」


意味ありげな視線を向けられ、私は苦笑することしかできなかった。


――その“誰か”は、私ではない。


アディエルは長い間、セレーナを想い続けてきた。

それは、舞い込む縁談を断り続けるほどに。


『お願い、アディエル……私と、結婚して……』


昨夜、自分が口にした言葉が胸によみがえる。


現実から逃げたくて、思わず口をついて出た言葉。

アディエルはそれを受け入れてくれたけれど――。


私の我が儘で、彼の人生を縛ってはいけない。


容姿も家柄も申し分ないアディエルは、社交界の憧れの的だ。

彼の隣に立つに相応しい令嬢は、セレーナでなくとも数え切れないほどいる。


そこに、“伯爵家のぱっとしない妹”である私は含まれていない。


今さらになって、後悔が胸を満たしていく。


複雑な表情をしていたのだろうか。

夫人がそっと、私の手を包み込んだ。

その温もりに顔を上げると、優しい眼差しが向けられていた。


「アディエルはね、優しいけれど……誰にでもそう、というわけではないのよ?」


「……まさか」


信じられず、思わず声が漏れる。

私の知るアディエルは、いつも穏やかで、微笑みを絶やさない人だった。


「ふふふ。あの子も公爵家の人間ですもの。興味のない相手には、驚くほど冷淡で横柄なのよ」


“横柄”という言葉が、彼の姿と結びつかず、私は首を傾げる。

そんな反応が面白かったのか、夫人はくすりと笑った。


「あらあら。相当、あなたに良く思われたくて頑張っているのね」


ますます意味が分からず、戸惑いを隠せない。


「アディエルがこの家に女性を連れてきたのは、フィオナさんが初めてなのよ」


「……そうなんですか?」


幼馴染のセレーナは、当然のように出入りしていたものだと思っていたから、夫人の言葉に驚かずにはいられない。


夫人はそんな私を、慈しむように見つめる。


「あなたが来てくれて、本当に嬉しいわ」


「……ありがとうございます」


理由は分からない。

けれど、その言葉が胸に染みて、静かに温もりが広がっていくのを感じていた。



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