24話
食後の紅茶を口に運んでいると、公爵夫人がそっと声をかけてくれた。
「怪我をしたと聞いたけれど、大丈夫?」
その心配を含んだ眼差しに、申し訳なさが胸に込み上げる。
「はい。大丈夫です」
そう答えた途端、隣からすぐにアディエルが口を挟んだ。
「大丈夫じゃないでしょう。歩くのもやっとなのに」
「あら……そんなに酷いのね」
夫人の表情がさらに曇り、私は慌てて言葉を重ねる。
「動かさなければ、痛みはありません。…きちんと手当てをしていただきましたから」
感謝を込めてそう告げると、夫人は何か思いついたようにぱっと顔を輝かせた。
「それなら、怪我が治るまで、ここに滞在したらどう?」
「ああ、それはいいな」
夫人の提案に、公爵様も名案だと言わんばかりに頷く。
「い、いえ……そんな、ご迷惑をおかけするわけには……」
嬉しそうに微笑み合う二人を前に戸惑い、私は思わずアディエルを見る。
「……最初から、そのつもりだったんだけどね」
両親の予想以上の乗り気ぶりに、アディエルは苦笑いを浮かべていた。
けれど、そんな息子の様子などお構いなしに、夫妻は次々と声をかけてくる。
「家の男たちは、つまらない話ばかりでしょう?私とたくさんお話ししましょうね」
「ブランデーの話も、ぜひ詳しく聞かせてほしい」
まだ返事をしていないはずなのに、いつの間にか“滞在決定”の空気が出来上がっていて、思わず苦笑が漏れる。
「フィオナは怪我人なんですから、無理はさせないでくださいね」
私を気遣ってか、アディエルが忠告するが、夫妻の耳には届いていないようだった。
公爵様はすでに執事を呼び、伯爵家への連絡を指示している。
夫人は夫人で、メイドを呼び、お茶会の準備を命じていた。
穏やかな印象だった二人の、意外な行動力に面食らっていると、アディエルが小さくため息をつく。
「フィオナ、嫌だったら断っていいからね」
そう言った直後、付け足すように笑う。
「……あ、この家に滞在することだけは、断っちゃ駄目だけど」
その笑顔は、夫妻にそっくりだった。




