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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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23話


アディエルと並んで食堂へ向かう道すがら、彼は足の怪我を気遣うように、そっと私を支えてくれていた。


ふいに、昨夜横抱きにされたことを思い出し、頬が熱くなった。

それを悟られないよう、腕に寄り添うふりをして顔を伏せる。


――くすり、と音もなく笑う気配。


何もかもお見通しなのかもしれない、と思いながらも、顔を上げることはできなかった。




食堂へ入ると、すでに公爵夫妻が席に着いていた。


捕まっていたアディエルの腕からそっと離れ、スカートの裾をつまんで一礼する。

貴族令嬢として、恥ずかしくないように。


「公爵様、公爵夫人。ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。ソラリス伯爵家のフィオナでございます」


すると、すぐに穏やかな声が返ってくる。


「久しいな、フィオナ嬢」


「ええ。以前お会いしたときより、ずいぶん素敵なレディになられましたね」


顔を上げると、そこには温かな笑顔があった。

セレーナと比べるような視線も、短くなった髪を値踏みするような色もない。


ただ、ひたすらに優しい眼差し。

――アディエルに、よく似ている。


「フィオナは、ここだよ」


アディエルが椅子を引き、私を席へ導いてくれる。

その隣に彼が腰を下ろすと、給仕が始まった。


香ばしい焼きたてのパンの匂いに、思わずお腹が鳴る。


公爵夫妻に聞こえていなければいいのだけれど……。

そっと隣を見ると、アディエルが笑いを堪えるようにこちらを見ていた。


(……恥ずかしい……)



そんな様子を見守っていた公爵様は、くすりと笑い、


「さあ、フィオナ嬢を歓迎しよう」


そう言ってグラスを掲げた。

夫人とアディエルも続き、私も慌てて同じようにグラスを持つ。


料理が、次々と運ばれてきた。


食事が始まると、公爵様とアディエルは事業の話や時勢について語り始めた。



「そういえば、昨夜の王宮のワインはいまひとつだったな」


公爵様が肩をすくめる。


「雨が多かったから、不作なんでしょう」


アディエルが苦笑して応じた。


「……今年は、ワインには期待できそうにないな」


残念そうなその表情に、公爵様が相当なワイン愛好家であることを思い出す。

そういえば、父も少し前に同じことを言っていた。


ふと、公爵夫人が私へ視線を向けた。


「男たちの会話は、退屈でしょう?」


その柔らかな微笑みは、やはりアディエルにそっくりだ。


私は首を横に振り、控えめに笑う。


「いいえ。父に付いて回ることが多かったので、こうした話を聞くのは嫌いではありません」


その言葉に、公爵様がわずかに目を向ける。


「そうか……。そういえば、ソラリス伯もワインを嗜んでいたな」


「はい。今年はワインを諦めて、ブランデーを楽しむと言っていました」


そう答えながら、残念そうで、それでもどこか楽しげだった父の顔を思い出す。

自然と口元が緩んだ。


その様子を見て、公爵様は少し身を乗り出す。


「ほう。どんなブランデーを?」


「ポアランジェ、という洋梨から造られたものです」


国内ではワインが主流で、ブランデーはそれほど一般的ではない。


「洋梨? それは初耳だな」


興味深そうに、公爵様が眉を上げる。


「洋梨が丸ごと瓶に入っていて……見目も面白いお酒でした」


「生産地は?」


その目つきが、変わった。

一瞬で、“実業家”の色を帯びる。


「アンペリオ国です」


「アンペリオ……確かに、洋梨や林檎の産地だったな……」


低く呟く公爵様を、公爵夫人が小さな咳払いでたしなめる。


「あなた。“お仕事”の話は、そのあたりでよろしいのでは?」


すでに頭の中で商談が始まっていたのだろう。

そう理解している様子の夫人に、公爵様は少し照れたように笑った。


笑顔に包まれた、温かな食卓。


ソラリス家では、いつも母とセレーナが会話の中心だった。

私はどこか、輪の外にいるような居心地の悪さを、当たり前のものとして受け入れていた。


――けれど、今は違う。


確かに、私はこの“輪”の中にいる。


ふと視線を上げると、柔らかな笑みを浮かべたアディエルと目が合った。


その眼差しに、胸の奥が、静かに、温かく満たされていった。



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