22話
朝、柔らかな陽射しがまぶた越しに差し込み、私は目を覚ました。
ゆっくりと瞼を開けると、そこには見慣れない天井がある。
一度瞬きをしてから、昨夜の出来事が静かに蘇った。
(……そうだ。昨日、公爵家に来たんだった)
身体を起こすと、控えめなノックの音がする。
応えると、メイドのマーシャが静かに部屋へ入ってきた。
「おはようございます、お嬢様。昨夜はよくお休みになれましたか?」
「……はい。ぐっすりと」
そう答えてから、夢も見ず、深く眠っていたことに気づく。
眠りに落ちる直前まで、アディエルと話していたことを思い出し、胸の奥に温かなものが広がった。
「さあさあ、お支度をいたしましょうね」
マーシャはにこやかに笑いながら、備え付けのクローゼットから服を取り出す。
それは、淡い薄紅色のデイドレスだった。
袖を通すと、驚くほど身体に馴染み、思わず首を傾げた。
(……公爵家ともなると、いろいろなサイズの服を用意しているのかしら)
そんなことを考えていると、ノックの音がして、アディエルが顔を覗かせる。
着替えを終えた私を見るなり、アディエルは満足そうに小さく頷く。
その意味を問いかけるより早く、彼が口を開いた。
「両親が戻ってきたんだ。一緒に朝食を取ろう」
――ランフォード公爵夫妻。
数回会った夫妻の顔を思い出し、自然と背筋が伸びる。
そんな私の様子に、アディエルは小さく笑った。
「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ」
アディエルとセレーナは幼馴染だ。
彼女は、公爵夫妻とも何度も顔を合わせてきたはず。
無意識のうちに、比べられることへの不安を抱いていたのかもしれない。
知らず、身体に力が入っていた。
「行こう」
そう言って差し出されたアディエルの手を、そっと取る。
触れた手のひらの温もりに、張りつめていた心が少し緩んだ気がした。
並んで部屋を後にする私とアディエルの背中を、
マーシャがどこか嬉しそうな表情で見送っていたことに、私は気づかないままだった。




