↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/137

20話


馬車が、静かに止まった。

窓の外を覗くと、どうやら目的地は公爵家のようだ。


扉が開くと同時に、アディエルは当然のように私を抱き上げる。


「ア、アディエル……!」


まさか、このまま横抱きで公爵家へ足を踏み入れることになるとは思っておらず、思わず声が上ずる。

けれどアディエルは、どこか楽しげに笑った。


「足、痛いんでしょう? ……諦めて」


確かに、その通りではある。

だが、この姿を人に見られるのは、どうしても恥ずかしい。

しかも迎えるのは、ランフォード公爵家の人々なのだ。


「恥ずかしいなら、顔を隠していればいいよ」


顔が熱くなる私に、アディエルは何でもないことのように言う。

その様子がどこか楽しそうで、少し恨めしい。


「そんな……失礼なこと、できないよ」


「真面目だね」


アディエルは声を上げて笑った。

そんなやり取りをしているうちに、私たちは玄関前へと辿り着いてしまう。


メイドや執事らしき使用人たちが、主人の帰りを迎えて整列していた。


「おかえりなさいませ、坊ちゃま」


老齢の紳士が声を掛けてくる。

その佇まいから、この屋敷を取り仕切る執事なのだろう。


執事は、私に目を留めると、目尻を柔らかく下げた。


「ランフォード家へようこそ。お嬢様」


アディエルの腕の中で、精一杯背筋を伸ばす。


「お、お世話になります……」


果たして、こんな挨拶で良かったのだろうか。

不安になりながらそっと周囲を見ると、使用人たちは皆、温かな眼差しを向けていた。

そのことに、思わずほっと肩の力が抜ける。


その様子が可笑しかったのか、アディエルが楽しそうに笑う気配が、腕越しに伝わってきて、無性に恥ずかしくなった。


「彼女、足を怪我しているから、薬を持ってきて」


「畏まりました」


恭しく頭を下げる執事に、私は思わず会釈を返す。


アディエルは迷いのない足取りで階段を上がり、一室の前で立ち止まった。

控えていたメイドが、さっと扉を開ける。


その仕草に、家で待っているレイラの姿がふと重なった。

――きっと、心配しているだろう。




部屋に入ると、アディエルはそっと私をベッドに下ろしてくれた。


「……ありがとう」


力があるとはいえ、ここまで運ぶのは大変だったはずだ。


「どういたしまして」


明るい室内で、アディエルの笑顔を見ると、ようやく――

本当に、あの場所から離れられたのだと実感する。


私がほっと息を吐くのを見て、安心したように、彼は優しく頭を撫でた。


「後で、また来るね」


そう言い残して、部屋を出ていく。

入れ替わるように、一人のメイドが中へ入ってきた。


年長のメイドは、目尻に皺を寄せて微笑む。


「さあさあ、傷の手当てをいたしましょうか」


そう言うと、理由を尋ねることもなく、手際よく足裏の傷に薬を塗り、捻った足首に包帯を巻いていく。


穏やかに流れる時間の中で、張り詰めていた緊張が、少しずつ解れていく。

ここは――安心できる場所。


そう思えたことが、何よりも胸に染みた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。