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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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19話


アディエルが私を横抱きにして向かった先は、公爵家の馬車だった。

馬車はすでに馬車寄せに停められている。


そっと座席に下ろされると、そのままアディエルも中へ乗り込んできた。

彼が御者に合図を送ると、馬車は静かに走り出す。


(……どこへ向かっているんだろう)


家族のもとへ連れて行かれるのだと思っていた私は、状況が飲み込めず首を傾げた。

そんな私に、アディエルは穏やかに微笑む。


「安心して。伯爵には、もう伝えてあるから」


「……お父様に?」


「うん。誘拐犯にはなりたくないからね」


冗談めかした言い方に、少しだけ肩の力が抜ける。

――ということは、伯爵家へ戻るわけではないのだろう。


窓の外に流れる夜の街を眺めていると、ふと、舞踏会のことが頭をよぎった。

私一人が姿を消したところで大事にはならない。

けれど、王家主催の舞踏会で、公爵家の後継者が途中退席するのは問題なのではないだろうか。


そこまで考えて、今さらのように顔から血の気が引く。


「アディエル……途中で抜けてしまって、本当に良かったの?」


不安を隠せずに尋ねると、彼は何でもないことのように笑った。


「もう挨拶は一通り済ませてきたよ。心配しなくていい」


「でも……」


言い募ろうとした私を、アディエルはやんわりと制する。


「フィオナ。今は僕のことより、自分の足の心配をして」


そう言って、彼は私の足にそっと触れた。

その瞬間、鋭い痛みが走る。


「……っ!」


「やっぱり。足、捻ったのかもしれないね」


靴が脱げた時か、それともその後か。

無我夢中だった私は、痛みに気づく余裕すらなかったのだろう。


「家に着いたら、ちゃんと手当てしよう」


そう笑うアディエルの優しさが、胸を締め付ける。

彼はいつも、こうして私を気遣ってくれる。


その優しさに甘え、迷惑ばかりかけている私は――

一体、彼に何を返せるのだろう。


返せるものなど、何もない気がして。

私は沈んだ気持ちのまま、再び窓の外へと視線を向けた。


流れていく街の灯りが、今夜はひどく眩しく見えた。



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