16話
部屋にこもる日々が続く中、宮殿での舞踏会の日がやって来た。
並べられたドレスを見渡し、一着を手に取る。
いつもなら、無意識のうちにセレーナと似た淡い色を選んでいた。
けれど、今日は違う。
選んだのは、深い青色のドレスだった。
レイラに手伝ってもらい、髪を整える。
短くなった髪をハーフアップにまとめ、銀色の髪飾りを添えてくれた。
鏡の前で一回りする。
短い髪に、濃い色のドレス。
セレーナが選ばない、銀色の髪飾り。
そこに、彼女の影は見当たらなかった。
その事に、ほっと息を吐く。
部屋に閉じこもる日々の中で、決めたのだ。
もう、セレーナの真似をするのはやめよう、と。
……真似たところで、意味はないのだから。
部屋を出る前に、大きく息を吸う。
見守っていたレイラが、そっと肩に手を置いた。
その温もりに、胸の奥に小さな勇気が灯る。
ゆっくりと足を踏み出し、扉を開く。
廊下に出た瞬間、思っていたよりも力が抜けた。
階段を降りると、すでに両親とセレーナが揃っていた。
社交シーズン最初の宮殿舞踏会は、一家揃って参加するのが習わしだ。
セレーナと並ぶのは憂鬱だったが、彼女とレオリオが二人で向かう姿を見るよりは、まだ耐えられる。
「フィオナ、大丈夫?」
「体調が悪いなら、無理しなくても……」
セレーナと母が声を掛けてくる。
…母は、髪の短くなった私を社交の場に出す事に抵抗があるのかもしれない
穿った考えに、軽く首を振る。
「大丈夫。心配かけて、ごめんね」
そう笑って答えた。
一家を乗せた馬車が、宮殿の前で止まる。
父が母をエスコートし、その後をセレーナと続く。
会場のざわめきが近付くにつれ、不安が胸に膨らんでいく。
――何を言われるだろう。
美しい姉と、髪を短くした妹。
ひそひそと交わされる噂話。
向けられる視線を想像し、胸が締め付けられた。
緊張で指先が震え、思わず俯く。
そのとき、そっと肩を抱かれた。
驚いて顔を上げると、そこには父がいた。
その眼差しは心配よりも、力強さを感じた。
まるで“大丈夫だ”と、伝えるように。
口数の少ない父だが、いつも変わらず、静かに見守ってくれていたのだと、今さら気付く。
私は小さく微笑み、父の腕に身を預けた。
顔を上げ、背筋を伸ばす。
父の温もりを感じながら、私は会場へと足を踏み出した。




