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選ばれなかった、私たち  作者: おはよう


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14話


朝の陽射しが眩しく、ゆっくりと目を開ける。

昨夜、あれほど泣いたせいだろうか。瞼が重かった。


小さなノックの音のあと、レイラが部屋へ入ってくる。


「おはようございます、フィオナ様」


そう微笑む彼女の手には、タオルがひとつ。


「……冷やしてください」


そう言って差し出されたタオルを受け取り、目元に当てる。

冷たい感触がじんわりと広がり、少しずつ楽になっていく。


しばらくそのままでいると、瞼の重みが和らいだ。


のそりとベッドを出て、身支度を始める。

昨日の今日でセレーナと顔を合わせるのが憂鬱で、手はいつもより遅かった。


「お食事、お部屋までお持ちしましょうか?」


様子を察したレイラが、心配そうに声を掛けてくれる。

その気遣いが、胸にあたたかく染みた。


「大丈夫」


顔を合わせずに済むなら、それに越したことはない。

けれど、セレーナは家族だ。

同じ屋敷に暮らしている以上、避け続けるわけにもいかない。


ふと、机の上に置かれたクマのぬいぐるみが目に入る。


『僕は、フィオナの良いところ、知ってるよ』


アディエルの声が、鮮明に蘇った。


そっとクマを手に取り、勇気をもらうように胸に抱きしめる。


――大丈夫。

そう、自分に言い聞かせて。




朝食をとるため食堂へ向かうと、すでに父と母が席に着いていた。

セレーナの姿は、まだない。


「フィオナ!? その髪、どうしたの!?」


私の姿を見た瞬間、母が悲鳴にも似た声を上げる。


「……ちょっと、気分を変えたくて」


視線を逸らして答えると、母はさらに何か言いかけた。

けれど、父がそっと母の腕を掴み、それを制する。


父は、きっと理由が分かっているのだろう。

レオリオがセレーナにプロポーズすることも、そして、私がレオリオを想っていることも知っているから。


それでも許可を出した父に、怒りが湧く。

だが、格上の侯爵家からの申し出を断れるはずもない。

ましてや、セレーナとレオリオの仲睦まじさを、父も知っている。


この怒りは――ただの八つ当たりだ。


自分の中の黒い感情に蓋をして、私は椅子に座った。


「あら? フィオナ、髪切ったの?」


声の方を見ると、セレーナが立っていた。

朝日を浴びた彼女は、今日もやはり美しい。


「うん……気分転換に」


ぎこちなく笑う私に気付く様子もなく、セレーナは自分の髪に指を通す。


「私も切っちゃおうかな。長いのって、お手入れが面倒なのよね」


無邪気に笑いながら席に着くセレーナに、母が慌てて口を挟んだ。


「変なこと言わないでちょうだい。姉妹そろって髪を切るなんて……」


――変なこと。


悪気がないのは分かっている。

それでも、その言葉は胸に刺さった。


私のしたことは、“変なこと”なのだろうか。


パンを手に取り一口かじるが、味は感じられない。

 そっとナプキンで口元を拭い、席を立つ。


「ごちそうさま」


そう言うと、セレーナが心配そうにこちらを見る。


「フィオナ、具合悪いの?」


「……風邪でも引いたのかも」


そう答えると、母も不安そうな表情になる。


「あら、もうすぐ宮殿の舞踏会があるのに」


「寝てれば、治ると思う」


それだけ告げて、私は食堂を後にした。


――社交シーズンの始まりを告げる、宮殿の舞踏会。


その頃には、レオリオとセレーナは婚約者として、並んで参加しているのだろうか。


視界が滲み、慌てて目元を擦る。

部屋に戻るまでは、泣きたくなかった。


足早に自室へ戻り、クマのぬいぐるみを抱きしめたまま、ベッドに横になる。


その顔を見ていると、慰められているような気がして、少しだけ楽になった。


「……あなたは、側にいてね」


そう小さく呟き、私はゆっくりと目を閉じた。



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