13話
どれほどの時間が経ったのだろう。
気が付けば、辺りはすっかり暗くなっていた。
そのとき、扉が静かに開き、メイドのレイラが部屋へ入ってくる。
私の姿を目にした瞬間、彼女が小さく息を呑むのが分かった。
けれど私は、顔を上げることができなかった。
レイラは何も言わず、そっと近づいてくる。
そして、ただ優しく、私の背中を撫でてくれた。
その温もりに、抑えていた涙がまた溢れ出す。
しばらく、二人とも言葉を交わさずにいた。
やがて、レイラが静かに口を開く。
「……髪、整えましょう」
その一言に、ようやく顔を上げる。
レイラは穏やかに微笑んでいたが、その瞳はうっすらと潤んでいた。
私は無言で頷き、ドレッサーの前に座る。
レイラは乱雑に切られた髪を確かめるように指先で梳き、丁寧に整えるように切り揃えていった。
「レイラ……短くして」
私の言葉に、彼女は一瞬、困ったような表情を浮かべる。
髪の長い女性が美しいとされるこの国で、伯爵家の娘が短くする――
その意味を、レイラはきっと理解していたのだろう。
けれど、もうどうでもよかった。
世間にどう思われても、何を言われても。
どうせ、髪が長くても、短くても。
セレーナと比べられることに、変わりはないのだから。
しばらく迷っていた様子だったが、やがてレイラは小さく息をつき、私の気持ちを汲むように、はさみを進めていった。
鏡に映る自分を見ると、髪は耳が隠れるほどの長さになっている。
リボンで結うことのできない長さ。
その事実に、なぜか胸が少し軽くなった。
ドレッサーの引き出しを開けると、色とりどりのリボンが敷き詰められている。
「レイラ……これ、全部捨てておいて」
一瞬の沈黙のあと、レイラは静かに頷いた。
「……かしこまりました」
その後、レイラが用意してくれた風呂に入る。
髪を洗うと、いつもとは違う感触が指先に伝わり、また涙が零れた。
もう、何も考えたくない。
溢れ出る想いに蓋をして、風呂から上がると、私はそのまま布団に潜り込む。
ただ、眠りたかった。
目を覚ましたときには、この胸の痛みも、レオリオへの想いも――
すべて消えてしまっていればいい。
そう願いながら、私は静かに、眠りへと落ちていった。




